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夕食が終わり、翌日の朝食に必要なもので先に用意出来るものを準備する。日々の流れも、重いものはノーマンが進んで行ってくれるので薫はとても助かっていた。
「ベーコンは明日、貯蔵庫から持ってきます」
「ありがとう」
この日も玉ねぎ等の必要数を薫に確認の上運んでくれたノーマンだったが、珍しく少し話したいことがあるとそのままキッチンに残った。改めてそんな風に言われた薫が思い出すのは、前世ではこういう場合は『辞める』に繋がるということ。ノーマンの場合、キャストール侯爵からの命令は絶対。だからファルコールを去ることは出来ないが、それだったら何を辞めたいのだろうか。まあ、このタイミングでこの場所、考えるまでもなく辞めたいのは料理の手伝いだと薫は思った。きっと今日のコーンをすり潰すという単調作業で嫌になってしまったのだろうと。
「実は、考えたのですが」
「何を?」
ノーマンの言葉を遮るように合いの手を入れてしまった薫。これではその先を話すタイミングをノーマンが逸してしまうではないかと反省しつつも、デズモンドの聞き出す能力の高さを改めて実感してしまった。
「ごめんなさい、遮ってしまったわね。わたしは聞くことに徹するわ」
「あ、いえ。質問があったらいつでも尋ねて下さい。トウモロコシのスープを粉からではなく、あのペーストから作ればここで味わう一品になるのではと思いました」
薫の心配とは裏腹にノーマンはホテルで出すメニューに関する提案をする為に残ったのだった。しかも、生のトウモロコシが手に入る期間だけのメニューにすることで、その時に滞在した客に特別感を持たせることが出来ると。
「キャロルが作ってくれる大きめのバターがしみ込んだクルトンを浮かべて提供するのはどうかと思って」
確かにそれは良い考えだと薫は思った。ぜんざいやきな粉にも少し塩を入れることで甘味を引き出すのと同じことだ。
ノーマンはどこかのメニュー開発担当者のように、薫にプレゼンを続けてくれた。ファルコールの新鮮な牛乳やバターを実感してもらえるスープになると。更に、すり潰す作業を効率良く行う道具を鍛冶職人と考えてみたいとも申し出てくれた。
「ありがとう。そうね、その時期しか食べられないって付加価値になるもの。明日の夜、早速夕食に出してみましょう。まずはみんなの反応からだわ。でも、腕は大丈夫、ノーマン?」
「問題ないですよ。それと…」
「今度は何?」
やっぱり自分は待てが出来ないのだろうかと薫が自己嫌悪に陥る瞬間だった、ノーマンがお礼を言ったのは。
「ありがとう、キャロル。俺の生き方を変えてくれて。料理が楽しいと思い、メニューや料理道具を考えるなんて、ここに来る前の俺ではありえなかった。キャロルがここで色々なことに挑戦するから、毎日が新鮮で楽しい。本当にありがとう。スコットも菓子作りを始められて感謝してるよ」
「わたしこそ、ありがとう。嬉しい、ノーマンにそんな風に言ってもらって」
陰のある雰囲気を持つノーマン。そのノーマンから発せられる陰りのある笑みの威力はなかなか恐ろしいものだと薫は思った。まさか、ノーマンがデズモンドとの会話を聞き、スカーレットを自然な流れでどうやって励ますか考えていたなど気付きもしなかった。
「ベーコンは明日、貯蔵庫から持ってきます」
「ありがとう」
この日も玉ねぎ等の必要数を薫に確認の上運んでくれたノーマンだったが、珍しく少し話したいことがあるとそのままキッチンに残った。改めてそんな風に言われた薫が思い出すのは、前世ではこういう場合は『辞める』に繋がるということ。ノーマンの場合、キャストール侯爵からの命令は絶対。だからファルコールを去ることは出来ないが、それだったら何を辞めたいのだろうか。まあ、このタイミングでこの場所、考えるまでもなく辞めたいのは料理の手伝いだと薫は思った。きっと今日のコーンをすり潰すという単調作業で嫌になってしまったのだろうと。
「実は、考えたのですが」
「何を?」
ノーマンの言葉を遮るように合いの手を入れてしまった薫。これではその先を話すタイミングをノーマンが逸してしまうではないかと反省しつつも、デズモンドの聞き出す能力の高さを改めて実感してしまった。
「ごめんなさい、遮ってしまったわね。わたしは聞くことに徹するわ」
「あ、いえ。質問があったらいつでも尋ねて下さい。トウモロコシのスープを粉からではなく、あのペーストから作ればここで味わう一品になるのではと思いました」
薫の心配とは裏腹にノーマンはホテルで出すメニューに関する提案をする為に残ったのだった。しかも、生のトウモロコシが手に入る期間だけのメニューにすることで、その時に滞在した客に特別感を持たせることが出来ると。
「キャロルが作ってくれる大きめのバターがしみ込んだクルトンを浮かべて提供するのはどうかと思って」
確かにそれは良い考えだと薫は思った。ぜんざいやきな粉にも少し塩を入れることで甘味を引き出すのと同じことだ。
ノーマンはどこかのメニュー開発担当者のように、薫にプレゼンを続けてくれた。ファルコールの新鮮な牛乳やバターを実感してもらえるスープになると。更に、すり潰す作業を効率良く行う道具を鍛冶職人と考えてみたいとも申し出てくれた。
「ありがとう。そうね、その時期しか食べられないって付加価値になるもの。明日の夜、早速夕食に出してみましょう。まずはみんなの反応からだわ。でも、腕は大丈夫、ノーマン?」
「問題ないですよ。それと…」
「今度は何?」
やっぱり自分は待てが出来ないのだろうかと薫が自己嫌悪に陥る瞬間だった、ノーマンがお礼を言ったのは。
「ありがとう、キャロル。俺の生き方を変えてくれて。料理が楽しいと思い、メニューや料理道具を考えるなんて、ここに来る前の俺ではありえなかった。キャロルがここで色々なことに挑戦するから、毎日が新鮮で楽しい。本当にありがとう。スコットも菓子作りを始められて感謝してるよ」
「わたしこそ、ありがとう。嬉しい、ノーマンにそんな風に言ってもらって」
陰のある雰囲気を持つノーマン。そのノーマンから発せられる陰りのある笑みの威力はなかなか恐ろしいものだと薫は思った。まさか、ノーマンがデズモンドとの会話を聞き、スカーレットを自然な流れでどうやって励ますか考えていたなど気付きもしなかった。
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