オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

文字の大きさ
上 下
426 / 656

233

しおりを挟む
前世で沖縄へ行ったことが無かった薫。でも、反対側の北海道へは行ったことがある。厚岸で生牡蠣を食べて感激したのを覚えているが、意外や意外、北海度で食べた生といえば、トウモロコシが驚きだった。
そう、あのトウモロコシ、黄色い粒粒。なんと新鮮なトウモロコシは生でシャキシャキ食べられるのだ。

そしてこのファルコールでもトウモロコシは栽培されていた。しかし用途は保存や他領へ販売する為にトウモロコシ粉用。収穫後乾燥させたものを挽いて粉にするのだ。だから生以前に茹でて食べるという考えもこの世界ではないようだった。スキレット鍋のようなものでどこの家でもコーンブレッドに似たものや、牛乳で溶いてスープを作る。

今日は昨日に続きデズモンドがやって来る。そこで薫は、折角トウモロコシが手に入るので、前世で薫が大好きだった一品を作ってみようと思った。収穫当日の新鮮なものなので生で食べさせたいところだが、それでは色気がないというか、手抜きに思われそうなので、とっておきを作ることにしたのだ。


「これを、ですか?」
「ええ、全部やっちゃって」
以前夢で見たノーマンの姿からすると、『やっちゃって』には『殺っちゃって』が当てはまるのだろうが、今日は違う。茹で上がったトウモロコシが全てノーマンによって、すり潰されるのだ。

「作り始めて知ったけど、料理って、力、要りますね」
「スコットも同じことを言ってたわ。まあ、これからは専属鍛冶職人もいることだし、皆で色々考えて手間を省ける道具を作ってもらいましょう」

ノーマンとスコット、それに近々やって来るハーヴァンの三人が料理は力仕事だと思っているのは仕方がない。この世界には電動ブレンダーやハンドミキサーはないし、鍋類も重めなのだから。でも一番大きな理由は、薫が力仕事を優先的に彼らにお願いしているからなのだが。

「あっ、ノーマン、これはお菓子の時のように滑らかにしなくても大丈夫。少し粒が残っているくらいがいいわ」
「大丈夫ですか、口当たりが悪くなるのでは?」
「試食すれば、納得してもらえると思う。トウモロコシの食感も楽しめるだろうから」

前世では缶詰のクリームコーンで作っていたが、この世界にそんな便利なものはない。けれど今の薫には料理に目覚めたノーマンがいてくれる。お陰で茹でたトウモロコシは無事に粒粒感が残るクリーム状になってくれたのだった。

「この料理で大変なのは、このクリーム状のコーンペーストを作ることだけ。この状態になったら鍋で煮立たせて、塩コショウで味を調えれば完成よ」
「これで完成ですか?」
「あとは盛り付けるだけ」

薫は軽く焼き色を付けたパンに味を調えたコーンペーストを掛け、更にその上にサニーサイドアップの目玉焼きを乗せたのだった。

「さあ、試食してみて」
ノーマンとナーサには何とも不思議な料理に見えたようで、いつもとは違う消極的な試食のスタートとなった。しかし、口に運んだ途端二人は、いつもの積極的な姿勢へと変わったのだった。そして、ナーサはデズモンドの為にスカーレットがこれを作ろうと思ったことに不満を持ち、ノーマンはもう少し簡単にトウモロコシをすり潰す道具が欲しいと考えた。

「どうかしら?」
「はい、美味しいです!」
「この粒感が残る感じがいいですね。それに卵との相性も。パンがこのペーストでしっとりするところも気に入りました」

いつものように嬉しそうに美味しいというだけのナーサに対し、様々な感想を伝えてくれるノーマン。この違いが、二人の料理の上達具合の差に表れているのだろうと薫は感じたのだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

処理中です...