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薫がジョイスのことに気を取られ、途中からぼんやりと聞いてしまったケビンの話。けれど他の夕食参加者は違う。それぞれが、必要に応じた聞き方をしていた。
ハーヴァンの名前が出た時に、勘違いを継続中の薫は当然ナーサに視線を向けた。勿論ハーヴァンが来てくれて良かったねと合図を送る為。そしてナーサは小さく頷いた。今度はハーヴァンに侍女としての腕前をとやかく言われることはありませんからと。
スコットは立場上、リプセット公爵家のジョイスとその家に代々仕えるクロンデール子爵家のハーヴァンと接するのは正直面倒だと感じた。早めに口裏を合わせ温泉の研究と今後作る施設のことに集中したいところだが、書類作成をジョイスが中心に行うならば顔を合わせないわけにはいかない。
なにより一瞬眉をひそめたデズモンドから、ジョイスもまたスカーレットに気があることは明らかだ。そして思う、ジョイスは男女のことにおいては馬鹿なのかと。好きな子に意地悪や嫌がらせをして気をひくのは子供、それもかなり精神的に幼い子供だ。子供でも本当の利がどこにあるのか本能的に感じ取れば、寧ろそこで好きな子に優しく接し他者を出し抜くことくらいするだろう。
ジョイスがファルコールでスカーレットを急に好きになったとは考え辛い。だとすると、以前から好意を持っていたと考えるのが自然だ。けれど、スカーレットはアルフレッドの婚約者。だからジョイスは、その気持ちを隠し続けていたのだろう。隠していたから、それぞれの関係性が変わった時に、押し込めていたものが外に出た。特にアルフレッドの存在を感じる必要がないファルコールで。
本当にジョイスは男女のことにおいて馬鹿だ。
貴族学院でアルフレッドは他の女に現を抜かしていたのだから、それこそ表立っては無理でも裏で優しくスカーレットをフォローすれば良かったのだ。そして、最終的にスカーレットを奪うくらいの策を講じれば…。それくらいは簡単にやってのける男だったはず、スコットが記憶しているジョイスは。まあ、それが出来なかったから今のこの状況があり、スコットはスカーレットと出会えたのだが。そして馬鹿なジョイスだからこそ、真っ直ぐな方法でスカーレットの元へやって来るのかもしれない。私兵という立場で堂々とスカーレットを守る為。
ではデズモンドは何に対して眉をひそめたのか?
ここで暮らす誰もが読み切れないのがデズモンドの本心。スカーレットに気持ちがあるのは分かる。でもそれは、どこまでの気持ちなのだろうか。最後の最後でスカーレットを裏切る可能性もまだ捨て切れない。
スコットは様々な可能性を考えてしまう自分もまた、医師ではなく貴族としての癖が抜けきらないと感じたのだった。特に裏切るなんて考えることに。
ハーヴァンの名前が出た時に、勘違いを継続中の薫は当然ナーサに視線を向けた。勿論ハーヴァンが来てくれて良かったねと合図を送る為。そしてナーサは小さく頷いた。今度はハーヴァンに侍女としての腕前をとやかく言われることはありませんからと。
スコットは立場上、リプセット公爵家のジョイスとその家に代々仕えるクロンデール子爵家のハーヴァンと接するのは正直面倒だと感じた。早めに口裏を合わせ温泉の研究と今後作る施設のことに集中したいところだが、書類作成をジョイスが中心に行うならば顔を合わせないわけにはいかない。
なにより一瞬眉をひそめたデズモンドから、ジョイスもまたスカーレットに気があることは明らかだ。そして思う、ジョイスは男女のことにおいては馬鹿なのかと。好きな子に意地悪や嫌がらせをして気をひくのは子供、それもかなり精神的に幼い子供だ。子供でも本当の利がどこにあるのか本能的に感じ取れば、寧ろそこで好きな子に優しく接し他者を出し抜くことくらいするだろう。
ジョイスがファルコールでスカーレットを急に好きになったとは考え辛い。だとすると、以前から好意を持っていたと考えるのが自然だ。けれど、スカーレットはアルフレッドの婚約者。だからジョイスは、その気持ちを隠し続けていたのだろう。隠していたから、それぞれの関係性が変わった時に、押し込めていたものが外に出た。特にアルフレッドの存在を感じる必要がないファルコールで。
本当にジョイスは男女のことにおいて馬鹿だ。
貴族学院でアルフレッドは他の女に現を抜かしていたのだから、それこそ表立っては無理でも裏で優しくスカーレットをフォローすれば良かったのだ。そして、最終的にスカーレットを奪うくらいの策を講じれば…。それくらいは簡単にやってのける男だったはず、スコットが記憶しているジョイスは。まあ、それが出来なかったから今のこの状況があり、スコットはスカーレットと出会えたのだが。そして馬鹿なジョイスだからこそ、真っ直ぐな方法でスカーレットの元へやって来るのかもしれない。私兵という立場で堂々とスカーレットを守る為。
ではデズモンドは何に対して眉をひそめたのか?
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スコットは様々な可能性を考えてしまう自分もまた、医師ではなく貴族としての癖が抜けきらないと感じたのだった。特に裏切るなんて考えることに。
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