オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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「今日は皆さんに連絡があります」
楽しい食事が終わると、珍しくケビンが改まって全員に知らせたいことがあると口にした。

「一つ目はファルコールの館に関して。王都が社交シーズン中は休めると思っていたんですが、そうもいかず。シーズンが終わる少し前くらいからお客様が来るようです。実は既に次の年まで予約が入っているとのことで…。そこで、二つめの連絡ですが、旦那様が使用人を二人送ってくれます」
「ねえ、ケビン。お客様は毎回一組よ。だったら、前回、前々回と同じ。だから、人は増やさなくても大丈夫じゃないかしら。それに、その二人がファルコールで働きたくなかったら可哀そうだわ」
「実はこちらの事情を知る二人なので、寧ろファルコールに来たいようです」
「ファルコールに?」
「はい、一人は先に、もう一人は遅れてやって来ます。ハーヴァンとジョイです」
「ちょっと待って、でも二人は…。わたしも深く考えずにハーヴァンにここへ来て欲しいと言ったけれど、クロンデール子爵家として問題ないのかしら。それにジョイってジョイスよね。それこそ侯爵家でリプセット公爵家のジョイスを雇うなんて大丈夫?だって、ジョイスにここで労働させることになるのよ。あっ、…スコット」

薫はスコットも隣国の公爵家出身なのに、ここで働かせてしまっていると自分の発言から気付いてしまった。しかし、言い訳をするなら、最初にドミニクがスコットは医師見習いと紹介したのだ。今の状況は仕方がない。

一先ず視線で謝ろうと薫がスコットを見ると、当人はどこ吹く風。そしてそんな薫に気付くと、優しい笑みを浮かべてくれた。よりによって今日も薫が弱い開襟シャツに色気を漂わすというスタイルで。

「どうかした、キャロル?」
「あっ、その、スコット達はハーヴァンに会ってたなと思って」
「うん、そうだね。でも、ジョイと呼べばいいのかな、彼にはここで会ったことはないよ」

薫はスコットの言い方に、ジョイスとは面識があるのだと理解した。わざわざ『ここで』と言ってくれているのだから。

「キャロルの心配は問題ありません。ハーヴァンはこれからここで始める馬用施設の為に侯爵が雇い入れましたから」
「でも、まだ思い付きの計画段階で」
「だからですよ。具体的に話を進める為の人員です、ハーヴァンは。既に二貴族からも資金提供の話を受けています、将来を見据えて。それにここでの仕事経験があるハーヴァンは何かと役に立ってくれるでしょう」

ケビンは敢えて名前を出さなかったが二貴族というのはリプセット公爵家とクロンデール子爵家で間違いないだろうと薫は理解した。それならば、二人がここで働くことをそれぞれの家が了承したのだろう。更に将来を見据えているならば、当主同士で共同事業、それは薫の思い付きよりも遥かにしっかりした何かを起こすということだ。

「それでジョイは何の為に?」
「今後の施設運営を視野に入れると書類仕事が増えますから、それら全般を。それに彼は剣も握れますから私兵です」

ああそうだった、ジョイスは文武両道のクールなイケメンだったと薫は納得した。しかも嫌味な程たいしたことはないと何でもサラっと熟す。
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