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王都リプセット公爵家18

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噂話も野放しにしておけば、事実を喰う程の力を持つことがある。こと貴族社会においては。そうすべく種を蒔き続ける策略家も存在しているくらいだ。

冒頭でそう断った上で、キャストール侯爵がジョイスに送ってきた雇用条件の知らせと書かれた通知書。中身に条件は一言も書かれていなかった。しかし、条件も何もジョイスがファルコールへ行くこと自体が必要なくなってしまうのではと思えることが書かれていたのだった。

それはアルフレッドの婚約者に関して密かに囁かれている噂。あたかも事実であるかのように、隣国から婚約者を迎えると言われ始めているのだという。スカーレットに婚約破棄を突き付けてしまったことで悪化した隣国との関係を回復させる為にと。

具体的な名前は挙がっていないものの、踏み込んだ条件までもが既に一部では出回っている。隣国の公爵家の令嬢で十歳前後、それくらいの年齢ならば早々にこちらに招き十分な教育を施せると。ただし、教育を施し婚姻を結ぶまでの期間が長い分、後継の誕生は遅れる。だから、隣国の令嬢ということもありスカーレットを侍女として付けるというものだ。王子妃教育を受けてきたスカーレットならば最適任者となるだろう。それにまだ幼い婚約者に代わり、夜な夜なアルフレッドと語り日々の疲れを癒すことも。血筋が確かな侍女ならば、お手付きも問題ない。しかも、子が生まれたならば保険になる。いつか妃に子が生まれたなら、スカーレットもまた隣国の血を引く者。揉め事にならぬよう、自分の子を上手く退かせるはず。もしも、妃が子を生さなかったら?話は簡単、そのままスカーレットが産んだ子を二人の養子に据えればいいだけだ。

ジョイスは記された内容に、どこの誰かは知らないが成程良く考えたものだと思った。どこまでもスカーレットを利用したい者がいるのだと。

キャストール侯爵は愛する娘のことだから、これでも控えめに書いているはず。それならば、もっと明け透けな言葉で噂は話されていることだろう。そう思うと、ジョイスに得も言われぬ怒りがこみ上げる。

ああ、確かにこれは条件通知だ。ジョイスの仕事内容が書かれているのだから。スカーレットの心を守らなくては。本人がこんな馬鹿な噂話を聞いたとしても、毅然とした態度で交わすことは分かっている。けれど、心が傷付かないわけではない。

あと少しで雇用主となるキャストール侯爵は、ジョイスの力量をはかりたいのだろう。

これはジョイスにしか出来ないこと。否、ジョイスの立場だからこそ出来ることだ。隣国との問題は解消し、関係改善に向かっているとアピールしつつ、アルフレッドの婚約者探しはまだ白紙だと噂を流すのは。

スカーレットの心を守る。本人が知る前に潰せるものは徹底的に潰す。もうスカーレットが傷付く必要はないのだから。けれどジョイスの役割はある意味損だ。何かに貢献したとしても、スカーレットが知ることはないのだろうから。
それでもいい、一番大切なことが守れるならば。
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