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王都郊外クロンデール子爵家1
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「代々リプセット公爵家に仕えるのがクロンデール子爵家に生まれた者の務めだというのに、おまえは…」
「申し訳ございません」
「あら、あなた、結果的にはジョイス様もファルコールにやって来るのだもの、ハーヴァンの選択もありじゃないかしら」
「しかし…」
「閣下にご不満があったなら、端からハーヴァンに馬を餞別として与えなかったはずよ。ハーヴァン、あなたはキャストール侯爵令嬢が希望する施設を作る為にしっかり務めなさい。その一歩が、リプセット公爵家の為になるはずだわ」
「はい」
「お父様はこうおっしゃっているけれど、既にキャストール侯爵にお願いしてファルコールの館の予約も済ませているのよ」
「それは、…馬の為の施設というからにはクロンデール子爵家の者としては見ておかねばならないと思いだな」
「ええ、そうですね。でも、あなたも知っている通りファルコールの館の予約は大変なのよ、ハーヴァン。お父様、頑張ったと思わない?」
「父上、ありがとうございます」
「馬の飼育を生業とするクロンデール子爵家に恥じぬよう励みなさい」
「はい」
「あなた、ハーヴァンは今や馬だけではないのよ。何とお菓子作りまで厨房で手伝っていたのだから」
「菓子作り?」
「はい。これはファルコールでキャストール侯爵令嬢に言われ始めたことなのですが、利き手ではない右手を使う練習にと行っています。菓子作りは案外力、そして時には微細な加減も必要ですので」
「まあ、何でもいいが、しっかり役に立ってこい。我々がファルコールの館へ到着するや否やおまえのことを不要だと突き返されないよう」
リプセット公爵家、キャストール侯爵家、そしてクロンデール子爵家の間でどういう話し合いがなされたのかは分からない。しかし何だかんだ言っても、父がハーヴァンの背を押してくれるのはリプセット公爵の力が大きいのだろう。
公爵は様々な根回しもさることながら、ジョイスとハーヴァンに最適な居場所も作ってくれた。
隣国からの帰路で悪天候に見舞われ、怪我をした上に病気になったハーヴァン。あの時、ファルコールの宿に一軒も空きが無かったことが寧ろ良かった。お陰でスカーレットのいるファルコールの館まで辿り着けたのだ。
プライドを捨てハーヴァンを助ける為に頭を下げてくれたジョイスには勿論感謝をしている。しかし、見捨てたところで問題がないスカーレットが、面倒を見てくれたことにハーヴァンは感謝以上の気持ちを持った。命の恩人に対し忠誠を誓いたいという。
クロンデール子爵家に生まれ、リプセット公爵家に仕えることが当然だったハーヴァンが、初めて家ではなく、自分の選んだ人の為に働きたいと思った瞬間だったのだ。
それがあともう少しで叶う。けれど、そこではジョイスとの関係も今までとは違うものになる。若干の不安はあるものの、きっとスカーレットの下ならば上手く行く。不思議とハーヴァンはそう思えたのだった。
「申し訳ございません」
「あら、あなた、結果的にはジョイス様もファルコールにやって来るのだもの、ハーヴァンの選択もありじゃないかしら」
「しかし…」
「閣下にご不満があったなら、端からハーヴァンに馬を餞別として与えなかったはずよ。ハーヴァン、あなたはキャストール侯爵令嬢が希望する施設を作る為にしっかり務めなさい。その一歩が、リプセット公爵家の為になるはずだわ」
「はい」
「お父様はこうおっしゃっているけれど、既にキャストール侯爵にお願いしてファルコールの館の予約も済ませているのよ」
「それは、…馬の為の施設というからにはクロンデール子爵家の者としては見ておかねばならないと思いだな」
「ええ、そうですね。でも、あなたも知っている通りファルコールの館の予約は大変なのよ、ハーヴァン。お父様、頑張ったと思わない?」
「父上、ありがとうございます」
「馬の飼育を生業とするクロンデール子爵家に恥じぬよう励みなさい」
「はい」
「あなた、ハーヴァンは今や馬だけではないのよ。何とお菓子作りまで厨房で手伝っていたのだから」
「菓子作り?」
「はい。これはファルコールでキャストール侯爵令嬢に言われ始めたことなのですが、利き手ではない右手を使う練習にと行っています。菓子作りは案外力、そして時には微細な加減も必要ですので」
「まあ、何でもいいが、しっかり役に立ってこい。我々がファルコールの館へ到着するや否やおまえのことを不要だと突き返されないよう」
リプセット公爵家、キャストール侯爵家、そしてクロンデール子爵家の間でどういう話し合いがなされたのかは分からない。しかし何だかんだ言っても、父がハーヴァンの背を押してくれるのはリプセット公爵の力が大きいのだろう。
公爵は様々な根回しもさることながら、ジョイスとハーヴァンに最適な居場所も作ってくれた。
隣国からの帰路で悪天候に見舞われ、怪我をした上に病気になったハーヴァン。あの時、ファルコールの宿に一軒も空きが無かったことが寧ろ良かった。お陰でスカーレットのいるファルコールの館まで辿り着けたのだ。
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クロンデール子爵家に生まれ、リプセット公爵家に仕えることが当然だったハーヴァンが、初めて家ではなく、自分の選んだ人の為に働きたいと思った瞬間だったのだ。
それがあともう少しで叶う。けれど、そこではジョイスとの関係も今までとは違うものになる。若干の不安はあるものの、きっとスカーレットの下ならば上手く行く。不思議とハーヴァンはそう思えたのだった。
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