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ナーサはやはり侯爵家の、しかも未来の王子妃になるスカーレットの侍女だった。やる時はやる、出来る侍女だったのだ。絵心があるのも、スカーレットをどう着飾るか思い付いたアイデアを残しておく為。勿論薫は髪型の絵しか見ていないから気付かなくて当然だが、動物の絵などは全く描けない。そう、ナーサは髪型、ドレスやワンピース姿、花の飾り方のみを上手に描くことが出来る侍女だったのだ。
更にイメージしたことを形にすることにも長けていた。

なんと何の資料もなく、ただ薫のイケていない絵からナーサは見事にサブリナを変身させたのだ。その見事な腕前に、薫は前世の変身番組を思い出さずにはいられなかった。

「どうでしょう?」
「いいわ、ナーサ!サビィがまるで妖精のよう。背中に羽を付けたいくらい」
「首元がすっきり見えるので、これからは服装も今までとは替えるといいかもしれませんね」
「ありがとう、ナーサ。そうね、伯爵家から持ってきた服は全部解いて生地やレースに戻して売るか、作り直すかにしてしまうわ」

薫に夫婦間のことまでは分からないが、きっとジャスティンが触れたであろう髪。そして伯爵家で用意された服。サブリナはこうして一つ一つ決別していくのだろう。

「そうだ、ナーサ。この間わたしに着せてくれたような服をサビィに着せてみてはどうかしら。ブラウスの襟ぐりが深めだったから、似合うと思う。それで、髪には幅の広い布で襟足から覆って、頭の頂点から少し右か左にずらしたところでリボン結びにするの。どう思う?」
「良いと思います!ツェルカさんがいる今のうちにサラと二人で作ってみます」
「だったら尚更、わたしの持ってきた服は全部使ってちょうだい。ナーサ達が思うように好きに使って。それであなた達の分も作って」


薫はふと思った。ちょっとした前世の服のアイデアをナーサに伝えることで、それは素晴らしいデザイン画になる。そして、ツェルカがいる今ならば型紙を起こしてもらい、服として仕上がっていく。前リッジウェイ子爵夫妻がファルコールを訪れる前までに、下着を含め色々試してみる価値はあると。

「折角だからツェルカとサラも加えて服作りの話をしましょう。わたしも持ってきたけど着そうにない服が沢山あるから、これを機に再利用してもらいたいわ」
「でも、キャロルの服は…」
「仕舞っているだけだもの。それでは服としての意味がない」

ナーサは渋々頷いたが、その理由は勿論分かる。どれも王都の服飾デザイナーの作品で、皆が未来の王子妃に着てもらおうと作成したものだ。しかしファルコールでは着る機会が全くないものが多いのも事実。それだったら生まれ変わって、日の目を見るほうがいいだろう。なにせ生地もレースも使われているものは超一流なのだ。

「それと今夜は食事にデズとリアムを呼びましょう。あの二人にサビィの髪型の感想を聞かないと。女性と男性では感覚が違うから」
「別にいいわよ、そんなことをしなくても」
「駄目よ。だって、サビィはこれから活発になるんでしょ。そこにはわたし同様恋も含まれるでしょうから。女性を間近で沢山見てきた二人の意見は重要だわ」

このファルコールの館にいる隣国から来た騎士達やスコット、そしてケビンとノーマンには申し訳ないが、女性に関してはやはりデズモンドだろうと薫は思ったのだった。
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