オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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王都キャストール侯爵家23

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王宮から戻ったダニエルはアルフレッドへの報告内容を伝える為に父の執務室へ向かった。
これは義務。そして安心。ダニエルがアルフレッドに話してきた内容を父が知っていてくれるのならば、スカーレットに今後何かが起きたときに逸早く動いてくれる。
しかし逆も然りとはならない。父がダニエルに多くを話したとこで安心はおろか、出来ることなど限られている。経験値が、そして人としての器が違うだけでは片付けられない何かがダニエルには足りないのだろうから。

貴族学院ではダニエルもジョイスも失態を犯した。けれど、ジョイスはキャストール侯爵家に私兵として迎え入れられる。ダニエルは未だこんな状況だというのに。ここでもまたジョイスにはあるものがダニエルには足りないということ。
だからダニエルは知りたいと思った。どうしてジョイスが受け入れられるのかを。そこが分かれば、ダニエルの今のこの状況が少しでも打開出来る気がしたのだ。

「今日、個人的にジョイス様と話す機会がありました。その際、ジョイス様が今後キャストール侯爵家の私兵となりファルコールへ向かうことを知りました。どうして姉上とあんなことがあったジョイス様を迎え入れるのですか」
「その理由をリプセットの倅には尋ねたのか」
「はい。わたしは父上から許しを得たのか尋ねました。それに対しジョイス様は許されてはいないが、父上が未来の可能性を閉じなかったのだろうというようなことをおっしゃっていました」
「そうか、許されていないということは理解しているんだな」
「何故ですか。わたしもジョイス様も父上からの許しを得ていないのは同じなのに、片や姉上のいるファルコールへ行くことを禁じられ、片や堂々と向かうというのは」
「ダニエル、おまえは結果だけを比較している。そこまでの過程を見ずに。尋ねた内容も結果であるわたしの許可を得たのかどうかだ」
「過程…」
「リプセットの倅はおまえよりも多くを悩み、スカーレットにどう謝罪すべきか考えた。スカーレットの傍に向かう為にわたしに謝罪し私兵になることを願った。しかしおまえは違うだろう。スカーレットのところへ向かいたいと願っただけだ。ダニエル、おまえはもっと悩み藻掻く必要がある。そして強くなれ」

父は久し振りに多くをダニエルに語ってくれた。比較を用いるならば、スカーレットもダニエルも同じくらい愛する子供だと。そしてその愛情に限りはないことも。しかし、限りない愛情は限りなく甘やかすことではない。親は子より先に逝く。だからこそ、その後のことを考え厳しくもするし、同じ間違いを犯さないよう出来るだけ導こうとする。

ジョイスがファルコールへ向かうことを許したのは、深く悩み反省に辿り着いたようだったからとも父は話してくれた。既にジョイスは同じ間違いを犯さないではなく、どうやってこれからのスカーレットの心を守るかに切り替えたからだと。確かにジョイスの思考は未来に向かっている。過去のことをどうにかする為にスカーレットに会いたいと思ったダニエルとは違う。

「おまえはスカーレットがファルコールへ向かう前、全く話を聞こうとしなかったことを覚えているか?」
「はい」
「聞きたくなかったのか、聞く必要を感じなかったのか。しかしその姿をわたしも見ていたということは分かっているな」
「それは…」
「上に立つ者は聞きたくない話にも耳を傾けなければならない。都合の良い話ばかりを聞く者だと思われては、おまえは他者から操られるだけだ。殿下がどうしてわたしではなく、おまえに二重国籍証明書を届けさせたか考えろ。でも、まあ良かったじゃないか、結果的にはスカーレットに会えたのだ。そして弟として接してもらえたのだろう?」

父の言うことは尤もだ。スカーレットはダニエルを弟として迎え入れた。あの時スカーレットの部屋に居た他の者達のように相談相手ではなく。アルフレッドにダニエルが持ち帰った内容も、相談相手達とスカーレットが話し合った結果に過ぎない。

「父上、わたしはただの弟から頼られ時には相談を持ち掛けられる弟になりたいです」
「そうか、ならば尚更先々を読めるよう学ぶことだ。それと馬の扱いをもっと練習しろ、年末年始の休みにファルコールへ向かえるくらいには」

ジョイス同様、ダニエルも父からは許されていないようだ。しかし、父は未来を閉ざすことはやはりしない人なのだとダニエルは思ったのだった。
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