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王都オランデール伯爵家25
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「お父様、通訳なんてわたくしには無理ですわ」
「何故だ。あんなに良い成績を修めておきながら」
「だって…隣国の言葉の課題は全てサブリナお義姉様がわたくしの為に、わたくしが良い成績を修めてジョイス様の妻として周囲に認められるように行ったことですもの」
「どういうことだ、クリスタル」
「ですから、課題はサブリナお義姉様がわたくしの為を思い行っていたことです」
「だが、試験はクリスタルしか受けられないだろう」
「あれは、…必要なことだけを覚えて受けたのです。サブリナお義姉様にどの先生から習っているか伝えれば、大凡の試験内容を想定してくれたのです。他の教科も、お義姉様は先生方の癖を良くご存知で、引っかけ問題や知りたいであろう部分を全て予想してくれました。だから提出課題もそれぞれの先生が好むものを作ったようです」
「まて、クリスタル。提出課題もと言ったが、それでは隣国の言葉以外もサブリナが全て作成していたように聞こえるではないか」
「ええ、その通りですわ。あの方、お勉強は出来る人でしたから。問題はその頭の使い方を知らないこと。ですからわたくしが、伯爵家の嫁としてどう使えば良いかを教えて差し上げたの」
伯爵は目の前に得体のしれない闇が広がるように思えた。その闇は不思議なことに、灯をともしてはいけないような昏さ。明るくしては全てが消えてなくなる、若しくは闇を取り払ったというのに再び真っ黒になるように思えたのだ。そして闇の中クリスタルの言葉をかみ砕いた。課題は全てサブリナが作成し、試験問題予想もしていたという言葉。これが本当なら、サブリナは才女だ。しかし、ここにも二つの可能性があり、伯爵はその一つを捨てきれないでいた。
一つはサブリナが本当に才女で、クリスタルが良い成績を修められるようその力を発揮し続けた。もう一つは、クリスタルの地頭が良いから試験対策を適切に行うことで良い点数に繋がった。
クリスタルがここで言わなければ取り返しがつかなくなると思ったように、伯爵もまた今確認しなければ伯爵家として後で大きな問題を抱えかねないと考えた。だから、闇に灯をともさなければいけない。明るくした後で何を見ることになろうとも。
「クリスタル、出来る範囲で構わない。当日は通訳を」
「ですから、無理ですわ!わたくし、隣国の言葉などたいして覚えていないんですもの。だから、嫁ぐことも同様に無理、不可能なことです。言葉が分からないのに、どうやって生活をしろと」
「もういい、クリスタル。部屋に下がっていなさい」
伯爵はクリスタルが退室すると大きな息を一つ吐き出した。そして外に控えていた執事にジャスティンの従者を呼ぶよう伝えた。あの日は仕方がないと受け取った請求書。しかしここにも闇が潜んでいるように思えたのだ。
「旦那様、従者を呼ぶ前に一つ確認をさせて欲しいのですが」
「何だ」
「実は、明日は我々の給金の支給日なのですが、用意が進んでいないように思えるもので」
「どういうことだ」
「はい、前日にはわたしが明細に目を通すのですが、まだ受け取っていないもので」
これはサブリナが行っていたことではない。恐らく邸内がばたばたしていたから妻が忘れたのだろう。伯爵はこのことはせめてもの救いだと思ったのだった。
「何故だ。あんなに良い成績を修めておきながら」
「だって…隣国の言葉の課題は全てサブリナお義姉様がわたくしの為に、わたくしが良い成績を修めてジョイス様の妻として周囲に認められるように行ったことですもの」
「どういうことだ、クリスタル」
「ですから、課題はサブリナお義姉様がわたくしの為を思い行っていたことです」
「だが、試験はクリスタルしか受けられないだろう」
「あれは、…必要なことだけを覚えて受けたのです。サブリナお義姉様にどの先生から習っているか伝えれば、大凡の試験内容を想定してくれたのです。他の教科も、お義姉様は先生方の癖を良くご存知で、引っかけ問題や知りたいであろう部分を全て予想してくれました。だから提出課題もそれぞれの先生が好むものを作ったようです」
「まて、クリスタル。提出課題もと言ったが、それでは隣国の言葉以外もサブリナが全て作成していたように聞こえるではないか」
「ええ、その通りですわ。あの方、お勉強は出来る人でしたから。問題はその頭の使い方を知らないこと。ですからわたくしが、伯爵家の嫁としてどう使えば良いかを教えて差し上げたの」
伯爵は目の前に得体のしれない闇が広がるように思えた。その闇は不思議なことに、灯をともしてはいけないような昏さ。明るくしては全てが消えてなくなる、若しくは闇を取り払ったというのに再び真っ黒になるように思えたのだ。そして闇の中クリスタルの言葉をかみ砕いた。課題は全てサブリナが作成し、試験問題予想もしていたという言葉。これが本当なら、サブリナは才女だ。しかし、ここにも二つの可能性があり、伯爵はその一つを捨てきれないでいた。
一つはサブリナが本当に才女で、クリスタルが良い成績を修められるようその力を発揮し続けた。もう一つは、クリスタルの地頭が良いから試験対策を適切に行うことで良い点数に繋がった。
クリスタルがここで言わなければ取り返しがつかなくなると思ったように、伯爵もまた今確認しなければ伯爵家として後で大きな問題を抱えかねないと考えた。だから、闇に灯をともさなければいけない。明るくした後で何を見ることになろうとも。
「クリスタル、出来る範囲で構わない。当日は通訳を」
「ですから、無理ですわ!わたくし、隣国の言葉などたいして覚えていないんですもの。だから、嫁ぐことも同様に無理、不可能なことです。言葉が分からないのに、どうやって生活をしろと」
「もういい、クリスタル。部屋に下がっていなさい」
伯爵はクリスタルが退室すると大きな息を一つ吐き出した。そして外に控えていた執事にジャスティンの従者を呼ぶよう伝えた。あの日は仕方がないと受け取った請求書。しかしここにも闇が潜んでいるように思えたのだ。
「旦那様、従者を呼ぶ前に一つ確認をさせて欲しいのですが」
「何だ」
「実は、明日は我々の給金の支給日なのですが、用意が進んでいないように思えるもので」
「どういうことだ」
「はい、前日にはわたしが明細に目を通すのですが、まだ受け取っていないもので」
これはサブリナが行っていたことではない。恐らく邸内がばたばたしていたから妻が忘れたのだろう。伯爵はこのことはせめてもの救いだと思ったのだった。
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