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五十嵐

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王都オランデール伯爵家19 毒が毒を呼び離縁に繋がる

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輝かしいオランデール伯爵家の唯一の汚点、何の役にも立たないのがサブリナだと言われようと、前リッジウェイ子爵夫妻は申し訳なさそうな顔をし続けた。
勿論オランデール伯爵夫妻は直接的な物言いはしない。しかし何かにつけて簡単に剥がれるベールに包みサブリナを扱き下ろしたのだ。

前リッジウェイ子爵夫人はオランデール伯爵夫人がサブリナに対し『大切』という言葉をもはや使用しなくなったことに心から喜びを覚えながらも申し訳なさそうな顔を、前リッジウェイ子爵は今後オランデール伯爵家が直面するであろう問題を思いながら悲痛な表情を装った。それでも表情が保てそうにない時に二人は、親としてサブリナの苦しみにもっと早く気付けなかったことを思い浮かべた。

お茶会というよりは、一方的に愛娘への叱責を聞くだけの会。それでも前リッジウェイ子爵夫妻は耐え続けた。こういう毒は吐き切ればすっきりするものではない。毒が毒を呼ぶのだ。次から次へと不満は出て来る。二人はその不満が充満し破裂する瞬間を待った。効果的にサブリナを子爵家で引き取るという謝罪、即ち離縁をオランデール伯爵夫妻に受け入れさせる為に。

直ぐに離縁を持ちかけるよりは、態と焦らした方が良い。前リッジウェイ子爵夫妻が何を言われようとサブリナが伯爵家の嫁であることを捨てきれないのだと思わせた方が。しかし最後に離縁という言葉を引き出せれば、それはオランデール伯爵夫妻にとり勝利となる。離縁を勝ち取ったことになるのだ。ただし、前リッジウェイ子爵夫妻からすれば見せかけのオランデール伯爵家の勝利。本当の勝利は、その先にあるサブリナの尊厳だ。

前リッジウェイ子爵夫妻は、こんな時間など今までサブリナがこの家で過ごしてきた長さに比べればたいしたことはないとただそのタイミングを待ったのだった。

「どうでしょう、サブリナは今ファルコールにおります。あの子を迎えに行くのはリッジウェイ子爵家の馬車で、向かう先もリッジウェイ子爵家というのは。このままお優しいジャスティン様に会うことなく、親としてわたくし共に全ての手続きをさせていただけませんでしょうか。これ以上伯爵家へご迷惑を掛けるわけにはいきません」

オランデール伯爵にとり何の価値もないと思っているサブリナをファルコールへ迎えに行くことは無駄な出費。だからこそ前リッジウェイ子爵は伯爵がこの申し出に必ず頷くと考えていた。

「そうだな、この邸からリッジウェイ子爵邸へ馬車が向かえば騒がしくなる。しかし、その方法ならば静かなままだろう」
「もし本日書類をご作成いただければ、明日にはわたくし共で貴族院での手続きを行います。これ以上ご迷惑をお掛けするのはわたくし共も気が引けますので。サブリナの私物は全て売り払うなどの処分をして下さい」
「では、双方納得の上での円満離縁ということでいいな」
「はい。ご配慮ありがとうございます」

この邸の物など何一つ不要、それが前リッジウェイ子爵の本音だった。この後オランデール伯爵が離縁申し立ての書類に持参金の扱いをどうすると書くかもどうでもいい。そんなことよりは、ただ一日でも早くサブリナの尊厳を取り戻したい、それが前リッジウェイ子爵の希望であり願いだった。


オランデール伯爵邸からの帰りの馬車の中、前リッジウェイ子爵夫妻の会話は弾んだ。もしもそこに第三者がいたのであれば、娘の離縁が決まったばかりだとは思わないだろう。

「夕方にはキャストール侯爵家からあの方が遣わされてくるのよね?」
「ああ。状況確認の為にな」
「おめでたい日のお客様ですもの、あの方も交えて本来のお茶でもしましょう」
「クライドは一日で片が付くと予想していたのだろうか?」
「いいえ、一日で片が付くようにしてくれたのでしょう」
「それもそうだな、あいつのことだから。しかもジャスティン様はサブリナとの離縁が成立するとは知らないときている。愉快なことだ」
「もうあなたったら」

お茶の前に、サブリナへ宛てた手紙を認めなければならないと前リッジウェイ子爵夫妻は思ったのだった。
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