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王都キャストール侯爵家20
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迎えた翌日、前リッジウェイ子爵夫妻は約束した時刻よりやや早めにキャストール侯爵家にやって来た。この約束はあくまでもキャストール侯爵の手紙到着予測に基づいたものだというのに。
「予想が外れるとは考えなかったのか?」
「こういうことをクライドが外すなどと予想は出来ない。それで?」
「外すはずがないだろう」
キャストール侯爵は前リッジウェイ子爵にサブリナの手紙を渡すと、ソファにどっかと座った。二人には手紙を読み、気持ちを整理する時間が必要になる。侯爵は待つのではなく、そこにただ居るだけになるように努めたのだった。
「カルメーラ、大丈夫か?」
「はい、わたくしは。ですが、あの子を六年もそんな環境に置いてしまった自分が許せません。もっと早く気付いてあげていれば…」
「否、違う。サブリナの言葉を信じつつも、色々と事前に調べなかったわたしの落ち度だ」
侯爵は二人の遣り取りを聞きながら、自分もまた娘を不幸にしてしまったことを悔いた。サブリナは六年という月日をオランデール伯爵家の嫁として過ごし、離縁に踏み切ろうとしている。サブリナの意思で。しかしスカーレットは自分の意思とは関係なく幼少期からの十年を王家とアルフレッドに捧げ、無残にもたった一言で婚約破棄をされてしまった。娘を不幸にしてしまったという点では同じことだが、侯爵は目の前にいる前リッジウェイ子爵夫妻よりも自分の責任は大きいと理解している。
貴族学院で起きていたことはスカーレットから聞いていた。そして、スカーレットが侯爵の手を借りることなく事態を収拾しなければならないと努力していたことも知っていた。それでも、直接手を出さないまでも何らかの方法で守るべきだったのだ。
亡き妻が生きていたら、前リッジウェイ子爵夫人のようにスカーレットの表情から何かを読み取り今とは違う状況になっていたのだろうか。
「スカーレット嬢には何とお礼を言っていいか。今の状況を上手く利用し、サブリナをファルコールへ呼び寄せてくれただけではなく人生を見直す機会まで与えてくれるとは」
「あの子はサブリナ夫人、違うな、サブリナ嬢が好きだったから力になりたかったのだろう。サブリナ嬢はスカーレットにとり姉のような大切な存在だったから。スカーレットの手紙にはサブリナ嬢が思うような方法での離縁が出来るよう進めて欲しいとある。バルラトルとしては思うところがあるだろう、しかしここは娘達の筋書きを優先していいな?」
「ああ」
「では、サブリナ嬢の手紙内容を教えてくれ。大方はスカーレットが書いてきた内容だとは思うが、念の為に」
前リッジウェイ子爵からサブリナの手紙内容を聞くと、キャストール侯爵はスカーレットの手紙を手渡した。
「これも読んで欲しい」
「これは…」
「スカーレットは今後起きるだろうことも予想してきている。マーカム子爵からの情報を合わせて考えたようだ。どうするバルラトル?サブリナ嬢の希望する方法で離縁を成立させた後は?」
「あの子の為にも離縁を境に一切の縁を切るだけで十分だ。ここに書かれていることは、必然的に起こるとスカーレット嬢が予想しているんだから。なあに、クライドの娘だ、予想を外すことはないだろう」
「そうだな。二人との話し合いもこうなると予想していたから、ジェラルドにも昨夜既に手紙を送った。ジェラルドが偶然を利用し、必然的を招いてくれるさ」
「そうそう、クライド、ファルコールの館の予約をしていきたいんだが。ツェルカを迎えに行くついでに、また滞在させて欲しい」
既に随分引き合いが来ていて困っているのだがとキャストール侯爵は思ったのだった。
「予想が外れるとは考えなかったのか?」
「こういうことをクライドが外すなどと予想は出来ない。それで?」
「外すはずがないだろう」
キャストール侯爵は前リッジウェイ子爵にサブリナの手紙を渡すと、ソファにどっかと座った。二人には手紙を読み、気持ちを整理する時間が必要になる。侯爵は待つのではなく、そこにただ居るだけになるように努めたのだった。
「カルメーラ、大丈夫か?」
「はい、わたくしは。ですが、あの子を六年もそんな環境に置いてしまった自分が許せません。もっと早く気付いてあげていれば…」
「否、違う。サブリナの言葉を信じつつも、色々と事前に調べなかったわたしの落ち度だ」
侯爵は二人の遣り取りを聞きながら、自分もまた娘を不幸にしてしまったことを悔いた。サブリナは六年という月日をオランデール伯爵家の嫁として過ごし、離縁に踏み切ろうとしている。サブリナの意思で。しかしスカーレットは自分の意思とは関係なく幼少期からの十年を王家とアルフレッドに捧げ、無残にもたった一言で婚約破棄をされてしまった。娘を不幸にしてしまったという点では同じことだが、侯爵は目の前にいる前リッジウェイ子爵夫妻よりも自分の責任は大きいと理解している。
貴族学院で起きていたことはスカーレットから聞いていた。そして、スカーレットが侯爵の手を借りることなく事態を収拾しなければならないと努力していたことも知っていた。それでも、直接手を出さないまでも何らかの方法で守るべきだったのだ。
亡き妻が生きていたら、前リッジウェイ子爵夫人のようにスカーレットの表情から何かを読み取り今とは違う状況になっていたのだろうか。
「スカーレット嬢には何とお礼を言っていいか。今の状況を上手く利用し、サブリナをファルコールへ呼び寄せてくれただけではなく人生を見直す機会まで与えてくれるとは」
「あの子はサブリナ夫人、違うな、サブリナ嬢が好きだったから力になりたかったのだろう。サブリナ嬢はスカーレットにとり姉のような大切な存在だったから。スカーレットの手紙にはサブリナ嬢が思うような方法での離縁が出来るよう進めて欲しいとある。バルラトルとしては思うところがあるだろう、しかしここは娘達の筋書きを優先していいな?」
「ああ」
「では、サブリナ嬢の手紙内容を教えてくれ。大方はスカーレットが書いてきた内容だとは思うが、念の為に」
前リッジウェイ子爵からサブリナの手紙内容を聞くと、キャストール侯爵はスカーレットの手紙を手渡した。
「これも読んで欲しい」
「これは…」
「スカーレットは今後起きるだろうことも予想してきている。マーカム子爵からの情報を合わせて考えたようだ。どうするバルラトル?サブリナ嬢の希望する方法で離縁を成立させた後は?」
「あの子の為にも離縁を境に一切の縁を切るだけで十分だ。ここに書かれていることは、必然的に起こるとスカーレット嬢が予想しているんだから。なあに、クライドの娘だ、予想を外すことはないだろう」
「そうだな。二人との話し合いもこうなると予想していたから、ジェラルドにも昨夜既に手紙を送った。ジェラルドが偶然を利用し、必然的を招いてくれるさ」
「そうそう、クライド、ファルコールの館の予約をしていきたいんだが。ツェルカを迎えに行くついでに、また滞在させて欲しい」
既に随分引き合いが来ていて困っているのだがとキャストール侯爵は思ったのだった。
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