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今のダニエルはキャストール侯爵をいずれ継ぐ者としてスカーレット寄り。それがプレストン子爵と共にダニエルが去った後の薫達の共通見解だった。
「殿下からあった側近の話もダニエルは自分で考え断ったそうよ。お父様に言われたわけでもなく」
「キャストール侯爵と同じスタンスで王家に自分も仕えるという意思を表したかったのかもしれないな」
「そうね、本人に理由を聞いてはいないから、本当のところは分からないけれど」
アルフレッド、ダニエル、キャストール侯爵の間でそれぞれどのような話があったのかを知らない薫。二重国籍という制度が、それぞれにスカーレットのこれからを深く考えさせる切っ掛けになったとは勿論知る由もない。
「ところで殿下からの贈り物はどういう意味が?キャロルが人前で涙を流すなんて…、気になって仕方なかった。しかも俺が贈ったものと同じシリーズの特注品と聞いては心が穏やかでいられない」
「穏やかでいられないことの根底は?心配、怒り、それとも別の感情?」
「悔しさかもしれない。キャロルが美しい涙を流したことへの」
「わたしもどうして瞬時に涙が零れたのかは良く分からない。ただ、過去が確かにあったのだと思った。全てが消えてしまったのではないと。でも、嬉しいとか良かったという涙ではないの。なんだろう、一つのことが漸く区切りがついたって感じかしら。こんな風にはっきりと説明できないくらいあやふやな感情なの」
「俺はキャロルが傷付いていないならいいよ」
「優しいのね、デズ」
「君ほどではない。驚いたよ、いくら弟とはいえ、傷付けられた相手をあんな風に受け入れられるなんて」
「そうね…」
創造主が引用し終わったストーリーからそれぞれの主要人物が解放されたことを知る薫は、ダニエルもまた当時は流れに沿っていただけなのだと知っている。そしてその中で過ごしていたスカーレットの悲しみや苦しみも。
薫が受け継いだ記憶にあるスカーレットとダニエルはとても仲が良かった。その分貴族学院でのダニエルの態度はスカーレットにとり非常に堪えるものだった。それでもスカーレットは一度も口にしていない、当時の心無いことを言った者達への恨みつらみを。だから薫はスカーレットならば取ったであろう行動をしたまで。
事実を知ることは時にとても残酷だ。シシリアに陶酔してたダニエルが、事実を知ってしまった時もそうだろう。信じていた存在、その存在が作り出す未来が消えたのだ。そして大切にしてきた過去の思い出、それを共に作りあげてきた姉という存在も失った。
この部屋の扉を開け、スカーレットの姿を目にしたダニエルが一目散に今にも泣きそうな顔をしながら駆け寄ってきた時薫は理解した。ダニエルの後悔、謝罪、どうにもならない感情を。
「受け入れた、というよりも、ダニエルの感情を受け止めたのかも」
「それは姉だから?」
何故だろう、そう言ったデズモンドの表情は先ほどの泣きそうな顔をしていたダニエルよりも悲しそうに薫には見えたのだった。
「殿下からあった側近の話もダニエルは自分で考え断ったそうよ。お父様に言われたわけでもなく」
「キャストール侯爵と同じスタンスで王家に自分も仕えるという意思を表したかったのかもしれないな」
「そうね、本人に理由を聞いてはいないから、本当のところは分からないけれど」
アルフレッド、ダニエル、キャストール侯爵の間でそれぞれどのような話があったのかを知らない薫。二重国籍という制度が、それぞれにスカーレットのこれからを深く考えさせる切っ掛けになったとは勿論知る由もない。
「ところで殿下からの贈り物はどういう意味が?キャロルが人前で涙を流すなんて…、気になって仕方なかった。しかも俺が贈ったものと同じシリーズの特注品と聞いては心が穏やかでいられない」
「穏やかでいられないことの根底は?心配、怒り、それとも別の感情?」
「悔しさかもしれない。キャロルが美しい涙を流したことへの」
「わたしもどうして瞬時に涙が零れたのかは良く分からない。ただ、過去が確かにあったのだと思った。全てが消えてしまったのではないと。でも、嬉しいとか良かったという涙ではないの。なんだろう、一つのことが漸く区切りがついたって感じかしら。こんな風にはっきりと説明できないくらいあやふやな感情なの」
「俺はキャロルが傷付いていないならいいよ」
「優しいのね、デズ」
「君ほどではない。驚いたよ、いくら弟とはいえ、傷付けられた相手をあんな風に受け入れられるなんて」
「そうね…」
創造主が引用し終わったストーリーからそれぞれの主要人物が解放されたことを知る薫は、ダニエルもまた当時は流れに沿っていただけなのだと知っている。そしてその中で過ごしていたスカーレットの悲しみや苦しみも。
薫が受け継いだ記憶にあるスカーレットとダニエルはとても仲が良かった。その分貴族学院でのダニエルの態度はスカーレットにとり非常に堪えるものだった。それでもスカーレットは一度も口にしていない、当時の心無いことを言った者達への恨みつらみを。だから薫はスカーレットならば取ったであろう行動をしたまで。
事実を知ることは時にとても残酷だ。シシリアに陶酔してたダニエルが、事実を知ってしまった時もそうだろう。信じていた存在、その存在が作り出す未来が消えたのだ。そして大切にしてきた過去の思い出、それを共に作りあげてきた姉という存在も失った。
この部屋の扉を開け、スカーレットの姿を目にしたダニエルが一目散に今にも泣きそうな顔をしながら駆け寄ってきた時薫は理解した。ダニエルの後悔、謝罪、どうにもならない感情を。
「受け入れた、というよりも、ダニエルの感情を受け止めたのかも」
「それは姉だから?」
何故だろう、そう言ったデズモンドの表情は先ほどの泣きそうな顔をしていたダニエルよりも悲しそうに薫には見えたのだった。
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