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「既に連絡し調整済みですが、忙しい時間帯ですので中断があることもご了承下さい」
デズモンドに一番余裕のある昼下がりの時間帯に国境検問所にある執務室にやって来たというのに、プレストン子爵はそう言った。

「どのような仕事を引き渡したのか効率良くダニエル様にご説明したいのは山々ですが、マーカム子爵が急ぎの対応をしなくてはならない時はお待たせしてしまうかもしれません」
「承知しております。わたしは見学の身、マーカム子爵は実務を行っていらっしゃいますから」
「ありがとうございます。では、執務室内に大勢で押しかけるわけにはいきませんし、元々キャストール侯爵家一門が行っていたことですから、お話しさせていただいた通りダニエル様のみご案内いたします。その間、皆様には国が全てを運営することとなった国境検問所を見学していただけるようマーカム子爵が案内係を手配されています」

ファルコール到着日の午後、移動疲れがあるもののダニエルはプレストン子爵に昼食の際言われた通り国境検問所へやって来た。同行している事務官達も疲れているだろうが、ここまでやって来た理由は仕事。当然ダニエルに付いてきたというわけだ。疲れは思考力を低下させる最高のエッセンスだとプレストン子爵とデズモンドが考えていたなど露知らず。そもそも、キャストール侯爵家一門のプレストン子爵とキャリントン侯爵の右腕とまで評されるデズモンドが通じているなど、ダニエルを含め誰も思ってもいなかったことだろう。まさかプレストン子爵の事前情報によりダニエルのお供にどういう人物がやって来るか知ったデズモンドが案内係を決めていたとは。

事務官も護衛もそれぞれが興味を持つ内容を案内されることで、ダニエルへ対する注意力が薄くなるよう図られているとは気付きようがなかった。プレストン子爵の『忙しい時間帯の為時折中断してしまうかも』という事前情報も手伝って、事務官達は見学を早々に切り上げてデズモンドの執務室前へ行くという考えすら不要に思えたのだ。誰も冷静に忙しい時間帯にわざわざ国境検問所に来る必要性について考えなかった。寧ろ業務を見学するには最良の時間帯だと思ってしまったのだった。

そして事務官達を扉の前で見送ったダニエルは、王宮から派遣された者が誰一人としていない状況でデズモンドに会えるのは千載一遇に思えたのだった。

実の姉のことだというのに、噂話でしか知らないというのも複雑ではあるがデズモンドと姉は良い関係だという。ダニエルとしては恋多きデズモンドと姉がどういう『良い関係』かなど知りたくはない。けれどその関係が率直に話せる良い関係ならば、今のスカーレットを知るにはデズモンドは最良の人物だ。しかしデズモンドがキャリントン侯爵の右腕だということも忘れてはならない。ファルコールの館に隣国の騎士やダニエルが話してみたいと思っている隣国の医師が暮らしているのも、デズモンド対策であるのだから。

この扉の先にいるデズモンド。限られた時間でどう話を切り出すべきかダニエルは考えを巡らせたのだった。


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たまには話の速度をあげてみました。
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