オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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国境検問所の流れを良く知るプレストン子爵は、デズモンドに一番余裕のある昼下がりの時間帯にやって来た。誰もが感じる人好きのする雰囲気は周囲の人間に警戒心を与えることなどない。当然国境検問所警備の者達は、プレストン子爵がデズモンドの様子を見に来た程度にしか思わないだろう。

しかしデズモンドは既に理解している。この雰囲気とは裏腹に、プレストン子爵が計り知れない人物だと。王都から離れ隣国と接しているファルコール。そこをあのキャストール侯爵が託すにはそれなりの理由がある。信用出来るからだ。それはスカーレットも知るところ。あの日何気なくデズモンドに伝えた『次期キャストール侯爵にファルコールの重要施設をその日の午後に視察してもらいましょう。先ずはプレストン子爵からマーカム子爵へ移った国境検問所から』というスカーレットの言葉からもそれは窺える。

ファルコールにやって来た当初デズモンドは、プレストン子爵に関しもう一つの可能性も考えていた。それはキャストール侯爵がプレストン子爵を敢えて泳がし隣国の親戚に様子を窺わせているのではないかということ。けれどその線は早々に消える程の人物だとデズモンドは理解し、自分の貴族人物録に記憶したのだった。

「ケビンから連絡を受けたが、ダニエル様だけをここに連れて来るには時間に縛りがある」
「はい。理解しております」
「それにスカーレットお嬢様には目立たないようここまで来てもらわないと」
「それが一番の問題ですね。本人はドレスを着ていなければ誰も気付かないと主張していましたが、何を着ていても難しいかと。当日はケビンかノーマンが馬に乗せ午前中にはこちらに来てもらいます。決してキャストール侯爵ご子息が連れている人物達とかち合わないよう」
「…」
プレストン子爵が言いたいことは分かる。ダニエルが来るのは午後。長い時間スカーレットとデズモンドが同じ空間に居ることは好ましくないと考えているのだ。

「ご安心下さい。スカーレットお嬢様は弟君を迎える準備をする時間も欲しいとのことです。それにケビンかノーマンのどちらかも連れて来るのですから」
序にデズモンド達と昼食を楽しむとは敢えて言うことを避け、デズモンドにしては色気を封印したキャリントン侯爵と話す時の真面目な顔でプレストン子爵に伝えた。

「…ところでここの仕事はどうだ」
「隣国との緊張などない場所だから穏やかですよ。予算取りや運営も問題ありませんし」
「想定外だったが、マーカム子爵は仕事の回し方がとても上手いんだな」
「ありがとうございます。ですが、わたしは踏襲しただけですから、プレストン子爵が上手い枠組みを作ったと言えるのでは」
「女性だけでなく、こんな老いぼれにまで気を使わんでいいよ」

気を使うのは回りまわって自分の為とは言わず、デズモンドは性別関係なく見る者の心を掴む笑みを浮かべながら話を続けた。

「いえいえ、老いぼれなんて。まだまだプレストン子爵にはしっかり働いてもらわないと。今後ファルコールは隣国からの長期滞在者と労働者をもっと受け入れることになるでしょうから、プレストン子爵の仕事も増えるかと」
「そう言えば既にスカーレットお嬢様のところに数名来ていたな」
「今はファルコールの館と騎士宿舎にのみですが、良い噂は人を呼びますから」
「そうだな。スカーレットお嬢様が来てからのファルコールは徐々に良くなっている。しかしお嬢様はここに滞在しているだけ。ダニエル様の代になった時のことは未知数だ」
「そうですね」

デズモンドとしてはスカーレットが居るファルコールで暮らし続けたいが、それはダニエルの考え次第。それ以上にアルフレッドが何をダニエルに託したかだ。

「聞いた話によると、スカーレットお嬢様が王都を出立する日もダニエル様は話もしなかったようだ。貴族学院でお二人の関係はかなり拗れたのだろう。殿下の命を受けたとはいえ、ダニエル様もここに来ていきなりスカーレットお嬢様と何を話していいものか悩まれているんじゃないか」

二人の間に何があったのかは分からないが、デズモンドは二人が再会するときにスカーレットの傍に居れることに感謝したのだった。何があろうとも、その時にスカーレットを支えてあげられると。


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プレストン子爵、最初の頃とたまに名前が出るくらいでしたが…ここに来て登場回数が増えました!
元々こちらでお仕事をされていた方です。今回、ダニエルが滞在する先でもあります。
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