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スカーレットの心境の変化がどうして起きたのか、サブリナは経緯を正しく伝えることでデズモンドに納得させた。そこにこれから起こる離縁という貴族の女性には汚点でしかないことまで話し。デズモンドに対し、スカーレットの気が急に変わったと言い切るには無理があると察していたのだろう。それにサブリナは決心と実行に移すことが違うと良く分かっているからこそ、この場を設けたのだと薫は気付いた。
心の中で決心しても、実行するまでには時間が掛かる。場合によっては、その決心を無かったことにしてしまうことも。
有言実行とは良くいったものだ。有耶無耶にしない為にも、周囲に意思を示すことはとても重要。けれど、デズモンドの前で言われてしまうとは。鉄は熱いうちに打てと言うが、これは熱すぎる。
しかしどんなに熱くてもサブリナの行動は正しかった。デズモンドからもたらされた情報を利用するなら、未だ間に合うからだ。
サブリナ同様デズモンドは、キャリントン侯爵家で何故隣国の貴族を招いた晩餐会が開かれるのか経緯を説明してくれた。そこにスカーレットにとりとても懐かしい名前を出して。
「じゃあ、テレンス様が婚約者に選ばれなければ」
「そういうことだ。人知れずこの国に戻ってくるか、途中の国で暮らしていくか。婚約者になれたとしても、結果的に侯爵は息子を一人失うことになる。隣国からの貴族をいくつも呼べるのは王家としての誠意みたいなもんだ。招待客にはテレンス様が通過した領の貴族もいるから、表向きの大義名分はあるし」
「キャリントン侯爵は…、テレンス様を…」
「一度だけ本人に確認したそうだ。侯爵としてではなく、父親として。そしてテレンス様が選んだ道を尊重した。後は本来のキャリントン侯爵として損がないよう、寧ろそのことを利用する為に動いた。そして俺に命じてきた、リストにある隣国の貴族情報で持っているものを全て出せと」
キャリントン侯爵は抜かりない。女性を虜にすることに長けたデズモンドをただスカーレットの傍に送っただけではなく、王都と頻繁に遣り取りをしてもおかしくない国境管理の仕事を与えた。それも、キャストール侯爵家の今までの負担を減らすという名目で。しかしそれは表裏の一面。裏を見れば、王都から一番離れた場所でキャストール侯爵家が何か企まないかという監視でもある。スカーレットが一方的な理由でアルフレッドの婚約者でなくなったことを上手く利用し、キャストール侯爵家が受け入れなければならない状況にしたのだ。
「いいの、そこまで話してしまって」
「大切な女性には全てを知っていてもらいたい」
こんな真剣な話をしていても、デズモンドは息をするようにアピールを忘れないようだ。
「それで最初の話に戻ると、その晩餐会にセーレライド侯爵家が参加する。サビィ、俺が知っているのはオランデール伯爵家が取引量を増やそうとしていること。そして、どうやらクリスタル嬢を隣国へ嫁がせようとしている。だから、離縁の噂を撒けば、早々に収束に動くはずだ。ただ、それは君の名誉を傷付ける方法を彼等が取ることに繋がるが」
「わたしの名誉はどうでもいいわ。わたしはわたしの尊厳を取る。そしてあなたの情報はある意味とてもありがたい。だから、あなたの持つ情報が完全になるとっておきを話すわ。きっとキャリントン侯爵が喜ぶことよ」
趣旨がずれてきているが、今後のことを前向きに話し合っているのは良いことだ。それにデズモンドからの恋をしようアピールに浸ってしまったら、それこそ口付けでしか息が出来なくなる恐れがあるのでこれでいいのかもしれないと薫は思った。
心の中で決心しても、実行するまでには時間が掛かる。場合によっては、その決心を無かったことにしてしまうことも。
有言実行とは良くいったものだ。有耶無耶にしない為にも、周囲に意思を示すことはとても重要。けれど、デズモンドの前で言われてしまうとは。鉄は熱いうちに打てと言うが、これは熱すぎる。
しかしどんなに熱くてもサブリナの行動は正しかった。デズモンドからもたらされた情報を利用するなら、未だ間に合うからだ。
サブリナ同様デズモンドは、キャリントン侯爵家で何故隣国の貴族を招いた晩餐会が開かれるのか経緯を説明してくれた。そこにスカーレットにとりとても懐かしい名前を出して。
「じゃあ、テレンス様が婚約者に選ばれなければ」
「そういうことだ。人知れずこの国に戻ってくるか、途中の国で暮らしていくか。婚約者になれたとしても、結果的に侯爵は息子を一人失うことになる。隣国からの貴族をいくつも呼べるのは王家としての誠意みたいなもんだ。招待客にはテレンス様が通過した領の貴族もいるから、表向きの大義名分はあるし」
「キャリントン侯爵は…、テレンス様を…」
「一度だけ本人に確認したそうだ。侯爵としてではなく、父親として。そしてテレンス様が選んだ道を尊重した。後は本来のキャリントン侯爵として損がないよう、寧ろそのことを利用する為に動いた。そして俺に命じてきた、リストにある隣国の貴族情報で持っているものを全て出せと」
キャリントン侯爵は抜かりない。女性を虜にすることに長けたデズモンドをただスカーレットの傍に送っただけではなく、王都と頻繁に遣り取りをしてもおかしくない国境管理の仕事を与えた。それも、キャストール侯爵家の今までの負担を減らすという名目で。しかしそれは表裏の一面。裏を見れば、王都から一番離れた場所でキャストール侯爵家が何か企まないかという監視でもある。スカーレットが一方的な理由でアルフレッドの婚約者でなくなったことを上手く利用し、キャストール侯爵家が受け入れなければならない状況にしたのだ。
「いいの、そこまで話してしまって」
「大切な女性には全てを知っていてもらいたい」
こんな真剣な話をしていても、デズモンドは息をするようにアピールを忘れないようだ。
「それで最初の話に戻ると、その晩餐会にセーレライド侯爵家が参加する。サビィ、俺が知っているのはオランデール伯爵家が取引量を増やそうとしていること。そして、どうやらクリスタル嬢を隣国へ嫁がせようとしている。だから、離縁の噂を撒けば、早々に収束に動くはずだ。ただ、それは君の名誉を傷付ける方法を彼等が取ることに繋がるが」
「わたしの名誉はどうでもいいわ。わたしはわたしの尊厳を取る。そしてあなたの情報はある意味とてもありがたい。だから、あなたの持つ情報が完全になるとっておきを話すわ。きっとキャリントン侯爵が喜ぶことよ」
趣旨がずれてきているが、今後のことを前向きに話し合っているのは良いことだ。それにデズモンドからの恋をしようアピールに浸ってしまったら、それこそ口付けでしか息が出来なくなる恐れがあるのでこれでいいのかもしれないと薫は思った。
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