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とある国の離宮12
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マリア・アマーリエからの提案という体を取った『共寝』はテレンスが思ったよりも早く実現される運びとなった。それはそうだろう、マリア・アマーリエはこの離宮の最高権力者なのだから、反対意見を唱えられる者は誰もいない。
「ではこちらの書類をご確認下さい」
しかし『共寝』はテレンスが思っていたよりも大事だった。細かい約束事があるのは分かる。けれど、それを記した書類に血判を求められるとは考えもしなかった。
「心臓側の人差し指の先に傷をつけてサインの最後に血判をお願い致します」
侍従長はいつものように感情を見せることなく羽ペンとナイフを差し出した。生殺与奪権をマリア・アマーリエにテレンスは差し出したつもりでいたが、考えが甘かった。そうは言っても、マリア・アマーリエが気まぐれに人を呼べば捕縛されるくらいだと思っていたが、本気で命を懸けなければいけないようだ。
マリア・アマーリエがテレンスとの共寝で手にする呼び鈴は二種類。一つは通常の侍女を呼ぶもの。これを鳴らせば、テレンスは捕縛される。そしてもう一つ、こちらならばテレンスは体の一部、若しくは生命を奪われても何も言えない。まあ、命を奪われたならば本当に何も言えないが。
親睦を深めるのも命懸けということだ。
その命を懸けた相手は部屋に入ってきたテレンスを呆れ気味で見つめた。
「あなたが躊躇せず血判を押したと侍従長から聞いたわ。止める間も無かったと。そこまでしなくても良かったのに。分かっていたでしょうに、国が違うからサインまでしか出来ないと言えると」
「リエーへの本気を侍従長にも伝えたかっただけですよ」
「あなたに」
「出来ればテリーと。そこまでの本気を見せたわたしに褒美があっても良いとおもいませんか?」
「やっぱりあなたは狡いわ。テリーと呼ぶのはもう決まっていることだもの。あなたは、わたくしに、他の褒美を要求しているのよね?」
「さあ?」
この二人きりの時間を持てることがテレンスには既に褒美。けれどそれを言葉にしなかったら、マリア・アマーリエはどうするのかテレンスは気になった。
「うっかりこの呼び鈴にわたくしが触れ、あなたに何かあったら国際問題になってしまうわ。だから、これは部屋の片隅にでも片付けてちょうだい。でも、こちらは残しておくわよ」
「王女殿下ともあろう方にうっかりなんてあるんですか?」
「あるわ、ここは未来の夫と二人きりの空間ですもの。わたくしがただのリエーになる」
たった二年しかないから、お互いを知る為に二人だけの空間で共に過ごす。起点は二年という時間の短さにあった共寝。しかしマリア・アマーリエが何気なく口にした未来の夫という言葉に、テレンスはまた二年が百年のようだと感じずにはいられなかった。
こうして会話をすることで、テレンス同様マリア・アマーリエもまた二年を長く感じてくれればいい。テレンスはそう思いながら、初めての二人で過ごす夜に知りたいことをマリア・アマーリエに告げた。
「わたしの未来の妻は何色の花を贈られるのが好きですか?」
「どうして知りたいの?」
「簡単だよ、リエーに贈る絵に描きたい。それに、寝室にもその花を届けたいから。未来の夫として」
「あなたは本当に恥ずかしい人ね」
そう言って頬を染めるマリア・アマーリエがテレンスにはただの女の子に見えた。この空間でもっと人間味溢れる女の子としての時間を過ごさせてあげたいと。
そして小さな疑問を持った。あれだけの年月をスカーレットと共にしてきたアルフレッドも、こういう気持ちを持っていたはずだっただろうと。
「ではこちらの書類をご確認下さい」
しかし『共寝』はテレンスが思っていたよりも大事だった。細かい約束事があるのは分かる。けれど、それを記した書類に血判を求められるとは考えもしなかった。
「心臓側の人差し指の先に傷をつけてサインの最後に血判をお願い致します」
侍従長はいつものように感情を見せることなく羽ペンとナイフを差し出した。生殺与奪権をマリア・アマーリエにテレンスは差し出したつもりでいたが、考えが甘かった。そうは言っても、マリア・アマーリエが気まぐれに人を呼べば捕縛されるくらいだと思っていたが、本気で命を懸けなければいけないようだ。
マリア・アマーリエがテレンスとの共寝で手にする呼び鈴は二種類。一つは通常の侍女を呼ぶもの。これを鳴らせば、テレンスは捕縛される。そしてもう一つ、こちらならばテレンスは体の一部、若しくは生命を奪われても何も言えない。まあ、命を奪われたならば本当に何も言えないが。
親睦を深めるのも命懸けということだ。
その命を懸けた相手は部屋に入ってきたテレンスを呆れ気味で見つめた。
「あなたが躊躇せず血判を押したと侍従長から聞いたわ。止める間も無かったと。そこまでしなくても良かったのに。分かっていたでしょうに、国が違うからサインまでしか出来ないと言えると」
「リエーへの本気を侍従長にも伝えたかっただけですよ」
「あなたに」
「出来ればテリーと。そこまでの本気を見せたわたしに褒美があっても良いとおもいませんか?」
「やっぱりあなたは狡いわ。テリーと呼ぶのはもう決まっていることだもの。あなたは、わたくしに、他の褒美を要求しているのよね?」
「さあ?」
この二人きりの時間を持てることがテレンスには既に褒美。けれどそれを言葉にしなかったら、マリア・アマーリエはどうするのかテレンスは気になった。
「うっかりこの呼び鈴にわたくしが触れ、あなたに何かあったら国際問題になってしまうわ。だから、これは部屋の片隅にでも片付けてちょうだい。でも、こちらは残しておくわよ」
「王女殿下ともあろう方にうっかりなんてあるんですか?」
「あるわ、ここは未来の夫と二人きりの空間ですもの。わたくしがただのリエーになる」
たった二年しかないから、お互いを知る為に二人だけの空間で共に過ごす。起点は二年という時間の短さにあった共寝。しかしマリア・アマーリエが何気なく口にした未来の夫という言葉に、テレンスはまた二年が百年のようだと感じずにはいられなかった。
こうして会話をすることで、テレンス同様マリア・アマーリエもまた二年を長く感じてくれればいい。テレンスはそう思いながら、初めての二人で過ごす夜に知りたいことをマリア・アマーリエに告げた。
「わたしの未来の妻は何色の花を贈られるのが好きですか?」
「どうして知りたいの?」
「簡単だよ、リエーに贈る絵に描きたい。それに、寝室にもその花を届けたいから。未来の夫として」
「あなたは本当に恥ずかしい人ね」
そう言って頬を染めるマリア・アマーリエがテレンスにはただの女の子に見えた。この空間でもっと人間味溢れる女の子としての時間を過ごさせてあげたいと。
そして小さな疑問を持った。あれだけの年月をスカーレットと共にしてきたアルフレッドも、こういう気持ちを持っていたはずだっただろうと。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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