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「サビィ、じゃあ、いいのね。それがあなたの決心ならば、もうオランデール伯爵家へ戻る必要はない。寧ろ、後は家同士で話を付けたほうがいいと思うから」

薫は敢えて『家へ戻る』という表現を使った。オランデール伯爵家はサブリナが帰るべき場所ではないと言う為に。

「ええ。あなたが考えている理由はきっと伯爵を喜ばせるわ」
「やっぱり分かってしまうのね。ごめんなさい、あなたを追い込んだ理由を逆手に取るようなことをして。でもここは離縁を円滑に進める為にこの理由が一番だと思うから許してちょうだい」
「結論を出した時点で、その後のことを助けてもらうあなたに従うつもりだったわ。それでこの結論で得られるあなたの利は?そんな価値があるようなことではないと思うのだけど…」

冷静に物事を捉えられるサブリナの推察力に、薫は話したくないことを言わずに済むことを有り難く思った。報告書を見る限り、オランデール伯爵はサブリナの現状の根幹に絡んでいないことが窺える。しかし、絡んでいない伯爵こそが伯爵家の決定権を持つ人なのだ。今回サブリナがファルコールへやって来れたのも、家と家との話し合いの結果。だから、離縁も同じように家同士での話し合いが最も良い方法だろう。

オランデール伯爵家の現夫人は侯爵家出身。今までも、伯爵家は上位爵位か同じ伯爵家から妻を娶っていた。例外はサブリナだけ。その例外を犯してまで迎え入れたサブリナが子を生さなければ、オランデール伯爵家の直系が途絶えてしまう。申し訳ないがサブリナが引け目に感じていることを利用すれば、オランデール伯爵は喜んで離縁を受け入れるだろう。

微妙なバランス過ぎるジェンガを、薫は次の一手で崩れるようにするだけ。そして、その役目は伯爵家を確固たるものにしたい伯爵自身に行ってもらえばいい。息子や妻が一人を犠牲にすることで土台をしっかり築いていたと知るべきだ。けれど、その土台は六年という年月で手入れされるどころか腐らせてしまったと。

しかし伯爵家はゲームとは違う。目に見えて崩れるようなことはないだろう。どうなるかは分からないが、ジャスティン、クリスタル、夫人は今まで楽をしていた分の苦労は避けられないとはいえ。それにオリアナも。

サブリナとジャスティンの離縁が成立すれば、オリアナも立場が変わる。伯爵はジャスティンの次の相手には必ず伯爵家以上の相手を探すはずだ。それこそ侍女を実家から連れてきそうな。オリアナは侍女ではなくなるだろうし、メイド長も爵位が上の者にはサブリナと同じ接し方など絶対にしない。場合によっては、危険因子のオリアナを端から除外することも考えるだろう。

オランデール伯爵家の様子を遠いファルコールで報告を受ける。これが薫の利、…そんなことはない。薫はただサブリナに使い捨てられるだけの人生を歩んで欲しくなかった。そしてただ知りたかった、本来は賢いサブリナに必要な情報が全て与えられた時にどういう判断を下すのか。
その判断が、あの頃の薫の行動を『どうしようもない』ことだと慰めてくれるのか、『だめじゃない』と叱ってくれるのか知りたかったのだ。

「ううん、とても価値がある。だって、わたしは本当のスカーレットになって恋をしてみようと決心したのだから」


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何故、最後のその一言に?と思われた方、すみません、そろそろ仕事へ行く準備なもので
次に書きます。
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