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王宮では31
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貴族学院が長期休暇に入った翌日、ダニエルはアルフレッドの指定時刻通りに必要な荷物を携え王宮へ到着した。待ち構えていた侍従はダニエルから荷物を預かると、そのままアルフレッドの執務室へ案内したのだった。
ダニエルが入室すると、そこには久し振りに顔を合わせるジョイスが。テレンスがアルフレッドの側近から外れた分、ジョイスが今まで以上に忙しいのは確かだ。しかし、不思議とジョイスからはそんな雰囲気をダニエルは感じることがなかった。寧ろ、端正な顔立ちにより一層磨きがかかったように見えるくらいだった。
「堅苦しい挨拶は必要ない、ダニエル、そこに掛けてくれ。これからのことを簡単に説明するから」
アルフレッドは四泊五日の行程でファルコールへ向かう予定を組んだことをダニエルに伝えると、宿泊予定の町や宿についても補足を加えた。そしてそれぞれの町でのダニエルの仕事に関しても。
「悪いな。俺の為に少し働いてきてくれ」
言葉ではそう言うもののアルフレッドに悪びれる様子は全くない。寧ろダニエルが働くことが当然のように細かい指示を出したのだった。そして気付く、アルフレッドの指示はどれもキャストール侯爵家のダニエルにこそ必要なことなのだと。
「では、よろしく頼む」
「畏まりました。それぞれの町を見ることはわたしにとっても重要ですから、良い機会です」
「そうか。では、夕食は労働者が集まるような食堂で取ることも追加させてくれ。そこで、平民達の声を拾って欲しい。キャストール侯爵家が整備した街道周辺に暮らす者達の生活に変化はないはずだが、今後のことで不安等を抱いていないかは分からないからな」
「はい」
「ジョイス、では直接ダニエルに二重国籍証明書を渡してくれ」
ジョイスから手渡された二重国籍証明書には良く知る姉、否、良く知っていると思い込んでいた姉の名が記されていた。
スカーレット・キャロライン・キャストール、ただの文字が姉の名前を綴っているだけなのにダニエルは何故か懐かしさを感じずにはいられなかった。
「これが受領書だ。ここにキャストール侯爵令嬢の署名を貰ってきてくれ」
「承知いたしました、ジョイス様」
ダニエルが書類を仕舞うと、アルフレッドは立ち上がり執務机の引き出しから何かを持ってきた。明らかに贈り物と分かるそれ。アルフレッドが誰の為に用意したかなど聞くまでもないだろう。しかし、その目的が何なのかは知らなくてはいけないとダニエルは思った。
「これも届けて欲しい」
「こちらも受領の署名が必要でしょうか」
「疑いはしないから署名は不要だ。ただ渡して欲しい」
「何と言って姉に差し出せば良いのでしょうか」
「スカーレットのコレクションに加えてくれとでも言ってくれればいい」
ダニエルの質問はそういうことを言っていたのではない。この贈り物の本当の意味を知りたかったのだ。例えば、病気見舞いのような。
「殿下、ご存知かもしれませんが姉の誕生日はまだ先です」
「ああ、知っている。スカーレットの誕生日は寒くなる時期だ。人肌が恋しくなり始める」
「では、殿下からの贈り物とだけ伝えます」
「それよりも、通常のレモンシトリンではなくペリドットで作られた特注品だと伝えてくれ」
そう言ったアルフレッドの表情が一瞬陰ったようにダニエルには見えた。アルフレッドの言葉が何を意味するのかは分からない。けれど二人にはこれで分かる何かがあるということだけはダニエルにも理解出来たのだった。
ダニエルが入室すると、そこには久し振りに顔を合わせるジョイスが。テレンスがアルフレッドの側近から外れた分、ジョイスが今まで以上に忙しいのは確かだ。しかし、不思議とジョイスからはそんな雰囲気をダニエルは感じることがなかった。寧ろ、端正な顔立ちにより一層磨きがかかったように見えるくらいだった。
「堅苦しい挨拶は必要ない、ダニエル、そこに掛けてくれ。これからのことを簡単に説明するから」
アルフレッドは四泊五日の行程でファルコールへ向かう予定を組んだことをダニエルに伝えると、宿泊予定の町や宿についても補足を加えた。そしてそれぞれの町でのダニエルの仕事に関しても。
「悪いな。俺の為に少し働いてきてくれ」
言葉ではそう言うもののアルフレッドに悪びれる様子は全くない。寧ろダニエルが働くことが当然のように細かい指示を出したのだった。そして気付く、アルフレッドの指示はどれもキャストール侯爵家のダニエルにこそ必要なことなのだと。
「では、よろしく頼む」
「畏まりました。それぞれの町を見ることはわたしにとっても重要ですから、良い機会です」
「そうか。では、夕食は労働者が集まるような食堂で取ることも追加させてくれ。そこで、平民達の声を拾って欲しい。キャストール侯爵家が整備した街道周辺に暮らす者達の生活に変化はないはずだが、今後のことで不安等を抱いていないかは分からないからな」
「はい」
「ジョイス、では直接ダニエルに二重国籍証明書を渡してくれ」
ジョイスから手渡された二重国籍証明書には良く知る姉、否、良く知っていると思い込んでいた姉の名が記されていた。
スカーレット・キャロライン・キャストール、ただの文字が姉の名前を綴っているだけなのにダニエルは何故か懐かしさを感じずにはいられなかった。
「これが受領書だ。ここにキャストール侯爵令嬢の署名を貰ってきてくれ」
「承知いたしました、ジョイス様」
ダニエルが書類を仕舞うと、アルフレッドは立ち上がり執務机の引き出しから何かを持ってきた。明らかに贈り物と分かるそれ。アルフレッドが誰の為に用意したかなど聞くまでもないだろう。しかし、その目的が何なのかは知らなくてはいけないとダニエルは思った。
「これも届けて欲しい」
「こちらも受領の署名が必要でしょうか」
「疑いはしないから署名は不要だ。ただ渡して欲しい」
「何と言って姉に差し出せば良いのでしょうか」
「スカーレットのコレクションに加えてくれとでも言ってくれればいい」
ダニエルの質問はそういうことを言っていたのではない。この贈り物の本当の意味を知りたかったのだ。例えば、病気見舞いのような。
「殿下、ご存知かもしれませんが姉の誕生日はまだ先です」
「ああ、知っている。スカーレットの誕生日は寒くなる時期だ。人肌が恋しくなり始める」
「では、殿下からの贈り物とだけ伝えます」
「それよりも、通常のレモンシトリンではなくペリドットで作られた特注品だと伝えてくれ」
そう言ったアルフレッドの表情が一瞬陰ったようにダニエルには見えた。アルフレッドの言葉が何を意味するのかは分からない。けれど二人にはこれで分かる何かがあるということだけはダニエルにも理解出来たのだった。
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