オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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王宮では30

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手渡されたキャストール侯爵からの書簡。純粋な礼状なのか、一種の警告なのか。真意は計り知れないものの、携えてきたダニエルに侯爵の深い意図までは伝えられていないとアルフレッドはその様子から理解した。これでダニエルが一芝居打っているのならばたいしたものだが、まだそこまでではない。あの海千山千の者達が集まる会議に出席し始めようと。
見るからにダニエルは侯爵の申し出を伝えに来ただけ。否、必ずこの内容をアルフレッドに承諾してもらう為にやって来たといった方が正しいだろう。

侯爵はご尤もらしくファルコールで十分なもてなしを出来るのは領主館くらいしかないと書いてきた。だからそこにアルフレッドが手配する一行を招待したいと申し出ることは、普通に考えればその通りとしか言いようがない。しかしそれは同時に一行を管理することでもある。礼を尽くす申し出の体を取りながら、無闇にファルコール内をうろつくなという警告といったところだろう。

この申し出を断れば、侯爵はダニエルがスカーレットに会うことを療養という理由で阻む可能性もある。ダニエル一行がファルコールを去るまで、スカーレットの姿を隠すことも侯爵ならば容易く出来るだろうし。今回の件でスカーレット本人が必要な動作は、受領書類へ署名することだけなのだ。そこにダニエルと姉弟の会話は必要ない。

「残念なことがありましたが、キャストール侯爵家は王家の忠実な家臣です。是非、殿下のご配慮への礼を尽くさせて下さい」
アルフレッドは心の中でキャストール侯爵が都合の良い駒を送ってきたのだと理解した。二重国籍を取得し、大切な娘を婚約破棄された侯爵には先程のダニエルの言葉は使い辛い。キャストール侯爵家で唯一二重国籍を取得していないダニエルだからこそ言える言葉だ。

「分かった。侯爵の申し出を有り難く受け取ろう。ところでダニエル、おまえはどうやって姉への訪問を取り付けるのだ」
「はい、わたしの到着日に合わせ領主代理を行っているプレストン子爵へ早馬を送ります。そこから姉上への体調確認とわたしの訪問受け入れの日程調整をお願いしようかと」
「公には頭を下げられないが、わたしもスカーレットには申し訳ないことをしたと思っている。折角ファルコールを訪ねたダニエルが無駄足を踏むことがないよう、わたしからもプレストン子爵へ手紙を送るとしよう。いつかわたしも国境視察へは行かねばならない。その為にも子爵とは情報共有も必要になるだろうしな」

キャストール侯爵の申し出を易々と受け入れたのでは、まだまだ子供と思われるだけ。アルフレッドなりに少しでも抵抗したいと思った現れだった、プレストン子爵へ手紙を直接送ることは。
そして今更だが、元婚約者への詫びのしるしも贈りたいと思った。目を閉じると思い出される、花一輪でも喜んでくれたスカーレットへ。次に目を開けた瞬間、本人がその花を持ちながら隣で『ありがとう』と微笑んでくれたらどんなに良かったことか。
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