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とある国の離宮5

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一国の末姫とその求婚者。テレンスが騎士だったら御伽話にでもなるのだろう。しかしテレンスは末姫にとって外国の侯爵家次男で、王子の元側近だったというだけの男だ。マリア・アマーリエが淡々と話した条件より悪く思える。

比べてはいけないと分かっているが、それに引き替えアルフレッドとスカーレットの婚約には如何に多くの利益や恩恵が様々な階級の人々にあったことだろう。本当に見事な政略結婚だ。しかも、政治の駒となり婚姻を結ぶことだけにならないよう小さい頃から互いを理解し合う時間まであったとは。

テレンスの禁欲などどうでも良い。しかし、二年という年月でお互いをどこまで知り合えるのかという疑問は残る。分かり合えなければ、マリア・アマーリエは婚約を解消することも厭わないだろう。それが婚期を逃すことに繋がろうとも。

『様々な情報からもっと深く考えろ』、テレンスは自分自身に奮起を促した。

自国内で結婚をさせたい父である国王と、それとなしに求婚者から断らせようとしているマリア・アマーリエ。この方向性の違いは何が起点なのか考えなくてはいけない。ここを理解しない限りは、テレンスがマリア・アマーリエの話した内容を承諾したところで求婚者から婚約者となる未来は到底訪れないと断言出来る。

アルフレッドの読みはマリア・アマーリエの母は他の妃の手の者からの他殺。正妃か第一側妃あたりではないだろうかと話していた。
正妃は政治的側面を考慮し外国から娶った妃。王が第三側妃に入れあげ政治に不都合が生じることがないよう手を下した可能性があると言っていた。シシリアで政治的不都合を生じさせたアルフレッドの言葉なだけに、テレンスはその時頷くことがなかなか難しかったが。そして第一側妃は身分が低い第三側妃が最も愛されていることで、自分の身分が脅かされることを嫌ったのではないかとも。
あくまでもアルフレッドの読みだが、当たらずしも遠からずではないかと思える。妃同士が手を組むこともあっただろうし。

三人の妃達はその後も王宮で暮らしている。それは、誰が手を下したか決定的な証拠が無かったということ。正妃を疑おうがものなら国際問題へ発展するし、第一側妃を問い質せば国内最大派閥の貴族からの協力が得られなくなる。案外、その隙間を狙った第二側妃の可能性も捨てきれない。
この国の王族は絶妙なバランスの上に成り立っているのだろう。王の愛情が故に迎え入れられた第三側妃を排除した後は特に。

「殿下、二人で生きる未来を思い描いてみませんか?わたしは次男ですが、自国の家は国で一、二を争う侯爵家です。簡単にはこの世から消えない方法を色々知っています」
「テレンス様…」

やはりそうかとテレンスは思った。マリア・アマーリエの配偶者になることは、様々な危機を覚悟しなければならない、特に生命の。
アルフレッドの側近でなくなること、貴族籍を失うこと、そんなことよりも大きなものを失う可能性がある婚姻ということだ。
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