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王都から遠く離れたファルコール。そこで王子から婚約破棄されたキャストール侯爵令嬢とその侍女、キャストール侯爵家の本来は特殊任務を担う二人、子爵家なのにどこの派閥にも属すことのない力ある家に古くから仕える使用人の五人がひっそりと話し合いをしている図は悪巧みをしているように見えるのではないかと薫は思った。
これで本当にアルフレッドの名前が飛び出したのならそうかもしれないが、議題はサブリナに纏わること。リッジウェイ子爵家からやって来ているツェルカは『奥様もきっとその意見に賛成なさいます』と頷いたのだった。
ツェルカから許可が下りたことで、薫はケビン達にサブリナから聞いた話を先ずは伝えた。但し、これは裏の取れていない一方向から見た話だとして。そして、デズモンドからの情報も。その上で薫の予想を伝えたのだった。
サブリナの話を聞く限り、ジャスティンの『善意』の囁きは結婚の一年後くらいから始まったようだ。この時期を早くからと捉えるのか、そうでないと見做すかで二人の結婚がジャスティンの先々を見越した計画か否か別れてくる。
後者ならば結婚後一年くらいまでは、サブリナを貴族学院で見初めたジャスティンで済むかもしれない。けれど前者なら…ジャスティンは端からサブリナを食い物にしようとしていたということだ。しかも長男の嫁として一番なさなくてはならないことを何らかの方法で阻止し続け。
薫から話を聞いていたその場の全員は、十八歳のスカーレットから『何らかの方法』という言葉が出た瞬間一様に驚いた。しかし、薫はその方法に関しても周囲の驚きを他所に淡々と話し続けた。サブリナが孕まないよう、肝心なことをしなかったか、薬でも使い続けたのだろうと。予想の体を取りながらも、薫はサブリナが妊娠可能だと夢で知っているだけに許せない気持ちを込めながら伝えた。
「オランデール伯爵子息は、いいえ、ここではジャスティンと呼び捨てればいいわね。彼は誰かに産んでもらった子をサブリナと自分の間に出来た子として育てようと一年前くらいから言い始めた。そうすることで、サブリナは伯爵夫人の地位を失わなくて済むと」
「養子を実子としてどこかから買うということですか?」
「違うわ、ナーサ。それならまだ良い。ジャスティンはオランデール伯爵家の血が入った子を望んだの。サブリナに公然と他の女性との間に子供を作ると言ったってわけ。サブリナがどれだけ絶望したか…、今の彼女が頼れるのはジャスティンしかいないのに。けれど、そのジャスティンの残酷な意見はサブリナの立場を守る為。上手く考えたものよね」
「でも、考えることは出来てもそれを実行するには、その、浮気相手が、それも子供を身籠っても大丈夫な…」
「その通りよ、ナーサ。だから、わたしの仮説はジャスティンの計画だったということ、最初からね。そして相手は伯爵家内にいる、即ち使用人の誰か。そう仮定すると話が色々繋がるの。次期伯爵として、貴族の娘と結婚しなくてはならないジャスティン、嫁にやって来たサブリナが気に入らない使用人、とね」
「だから、お嬢様は使用人内で話される自分のことを耳にしていた、ということですか?」
「そうなるわね。そしてそれはサブリナを苦しめた。けれど、タイミング良くジャスティンが優しい言葉を囁く」
「でも、どうしてお嬢様をオランデール伯爵子息は」
「これも仮説だけれど、都合が良かったんだと思う。自分よりも爵位が低い家で真面目なサブリナは。実際、サブリナの話を聞く限りでは、随分と仕事をさせられているわ」
ナーサとツェルカとは対照的にケビンとノーマンは全く表情を変えずに話を聞き続けていた。そして、頭の中で何をどう調べれば真実に逸早く近付けるか考えていたのだろう。薫の話が一段落すると、ケビンがこれからのことを話し始めた。侯爵家の力で何が出来るか分かっているケビンの言葉は即ち実行を示す。
「キャロルの仮説を正しいと実証するには伯爵邸内に浮気相手がいるかをあたればいいかと。その相手とどれくらいの期間関係を…、すみません、その」
「分かっている、浮気相手がいた場合は、サブリナと結婚する前から関係を持っていたかどうかを調べればいいということね」
「まあ、いなかったとしても、十分サブリナ様を苦しめている元凶ではありますが、その男は」
「ケビン、わたし達の主観を入れることなくジャスティンとその周辺を調べてもらえるよう手筈を整えて。出来るだけ早く。既に一度調べて欲しいという手紙は送ってあるから、その方向性を明確にするものがいいわ。わたしの仮説が間違っていても何か埃は出るでしょう。それとツェルカ、前子爵ご夫妻に宛てて、場合によってはわたしが力を使ってサブリナを離縁させてもいいか手紙を送って。ケビンに渡してくれれば、確実に早く届けられるわ」
前世で都合良く使われていた薫、そしてヤツの離婚後の浮気相手は社内に居た。これは女の勘、浮気相手を気分良くさせる為にヤツもジャスティンも薫とサブリナを扱き使う姿を見せていたのではないかという。
これで本当にアルフレッドの名前が飛び出したのならそうかもしれないが、議題はサブリナに纏わること。リッジウェイ子爵家からやって来ているツェルカは『奥様もきっとその意見に賛成なさいます』と頷いたのだった。
ツェルカから許可が下りたことで、薫はケビン達にサブリナから聞いた話を先ずは伝えた。但し、これは裏の取れていない一方向から見た話だとして。そして、デズモンドからの情報も。その上で薫の予想を伝えたのだった。
サブリナの話を聞く限り、ジャスティンの『善意』の囁きは結婚の一年後くらいから始まったようだ。この時期を早くからと捉えるのか、そうでないと見做すかで二人の結婚がジャスティンの先々を見越した計画か否か別れてくる。
後者ならば結婚後一年くらいまでは、サブリナを貴族学院で見初めたジャスティンで済むかもしれない。けれど前者なら…ジャスティンは端からサブリナを食い物にしようとしていたということだ。しかも長男の嫁として一番なさなくてはならないことを何らかの方法で阻止し続け。
薫から話を聞いていたその場の全員は、十八歳のスカーレットから『何らかの方法』という言葉が出た瞬間一様に驚いた。しかし、薫はその方法に関しても周囲の驚きを他所に淡々と話し続けた。サブリナが孕まないよう、肝心なことをしなかったか、薬でも使い続けたのだろうと。予想の体を取りながらも、薫はサブリナが妊娠可能だと夢で知っているだけに許せない気持ちを込めながら伝えた。
「オランデール伯爵子息は、いいえ、ここではジャスティンと呼び捨てればいいわね。彼は誰かに産んでもらった子をサブリナと自分の間に出来た子として育てようと一年前くらいから言い始めた。そうすることで、サブリナは伯爵夫人の地位を失わなくて済むと」
「養子を実子としてどこかから買うということですか?」
「違うわ、ナーサ。それならまだ良い。ジャスティンはオランデール伯爵家の血が入った子を望んだの。サブリナに公然と他の女性との間に子供を作ると言ったってわけ。サブリナがどれだけ絶望したか…、今の彼女が頼れるのはジャスティンしかいないのに。けれど、そのジャスティンの残酷な意見はサブリナの立場を守る為。上手く考えたものよね」
「でも、考えることは出来てもそれを実行するには、その、浮気相手が、それも子供を身籠っても大丈夫な…」
「その通りよ、ナーサ。だから、わたしの仮説はジャスティンの計画だったということ、最初からね。そして相手は伯爵家内にいる、即ち使用人の誰か。そう仮定すると話が色々繋がるの。次期伯爵として、貴族の娘と結婚しなくてはならないジャスティン、嫁にやって来たサブリナが気に入らない使用人、とね」
「だから、お嬢様は使用人内で話される自分のことを耳にしていた、ということですか?」
「そうなるわね。そしてそれはサブリナを苦しめた。けれど、タイミング良くジャスティンが優しい言葉を囁く」
「でも、どうしてお嬢様をオランデール伯爵子息は」
「これも仮説だけれど、都合が良かったんだと思う。自分よりも爵位が低い家で真面目なサブリナは。実際、サブリナの話を聞く限りでは、随分と仕事をさせられているわ」
ナーサとツェルカとは対照的にケビンとノーマンは全く表情を変えずに話を聞き続けていた。そして、頭の中で何をどう調べれば真実に逸早く近付けるか考えていたのだろう。薫の話が一段落すると、ケビンがこれからのことを話し始めた。侯爵家の力で何が出来るか分かっているケビンの言葉は即ち実行を示す。
「キャロルの仮説を正しいと実証するには伯爵邸内に浮気相手がいるかをあたればいいかと。その相手とどれくらいの期間関係を…、すみません、その」
「分かっている、浮気相手がいた場合は、サブリナと結婚する前から関係を持っていたかどうかを調べればいいということね」
「まあ、いなかったとしても、十分サブリナ様を苦しめている元凶ではありますが、その男は」
「ケビン、わたし達の主観を入れることなくジャスティンとその周辺を調べてもらえるよう手筈を整えて。出来るだけ早く。既に一度調べて欲しいという手紙は送ってあるから、その方向性を明確にするものがいいわ。わたしの仮説が間違っていても何か埃は出るでしょう。それとツェルカ、前子爵ご夫妻に宛てて、場合によってはわたしが力を使ってサブリナを離縁させてもいいか手紙を送って。ケビンに渡してくれれば、確実に早く届けられるわ」
前世で都合良く使われていた薫、そしてヤツの離婚後の浮気相手は社内に居た。これは女の勘、浮気相手を気分良くさせる為にヤツもジャスティンも薫とサブリナを扱き使う姿を見せていたのではないかという。
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