オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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王都とある修道院3

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これも奉仕活動。しかも修道院の中で貴族に仕えるメイドが潤うという。
修道院に奉仕活動にやって来る貴族の令嬢に仕えるメイドと修道女の立場が如何に異なるのか教育を施してあげてもいるのだ、クリスタルは。
同じ『働く』でも尊い貴族の令嬢に仕えることは格が違うのだと。それに、貴族の令嬢に仕えるメイドも品位を保つ為に実入りがいいほうが良いに決まっている。なんて道理に合った奉仕活動だろうとクリスタルは思った。

「お嬢様、こちらが本日の分です」
買収したメイドがクリスタルに差し出したハンカチの束。残念ながら品評会に出すクリスタルの腕前には遠く及ばないものばかり。しかし、今回は品評会ではなく教会のバザーに出すだけ。どうせ安価で売られるのだ、こんな程度で良いのかもしれない。

「ねえ、これとは別のものをお願いしたいのだけれど、あなたの友人にもっと腕前の良い子はいない?勿論その分、代金もはずむわ」
クリスタルは早々にリーサルト・セーレライドの飾り文字イニシャル刺繍は諦めた。出来ないと分かっているのにみっともなく藻掻くのは馬鹿げたこと。しかし何も持っていかなければ、面倒なことになる。そこで、刺繍の入った絹のハンカチだけは用意しておこうとクリスタルは考えたのだった。
やって来た執事も言っていたではないか、奉仕活動の合間で構わないと。それは大作でなくて良いということだ。

「勿論、紹介してくれたあなたにも仲介料ははずむわ」
平民には金、サブリナには伯爵家の嫁で居続ける為の理由。それぞれが欲しているものを与えてやれば、世の中上手く回るようになっていることをクリスタルは伯爵家の娘として良く知っている。使う側は使われる側の欲求を満たしてあげれば良い、但し足元を見ながら。

そう言えば愚かな侯爵家のご令嬢がいたとクリスタルはスカーレットのことを思い出した。子爵家の娘に婚約者を奪われるだなんて馬鹿げている。早々に金と力を使い子爵家自体を潰してしまえば良かったものを。キャストール侯爵家ならばいくらでも遣り様はあったはずだ。
けれど、そうしなかったスカーレットは貴族学院で立場を弱めていった。お陰でクリスタルも心の中に鬱積していたことを上手く違う言葉でぶつけることが出来たわけだが。

…しかしそのせいで、クリスタルは今、ここにいる。
子爵家を潰さなかったスカーレットに分を弁えなかった子爵令嬢。あの二人のせいで。
ジョイスはそのうちアルフレッドの側近ではなくなると言われている。本当ならば、クリスタルはジョイスの妻となり、子を生し、次代の王子か王女の乳母になるはずだったのに。
スカーレットが産む子供を管理し、ジョイスと共に確固たる立場を形成していただろう。

美しいジョイスは捨てがたいが、アルフレッドの側近でなくなってしまうのは頂けない。
(だったら…、わたくしがアルフレッド殿下のお傍へ行けばいいのだわ。同世代でわたくしよりも美しく教養がある娘などいないのだもの)

アルフレッドの隣は空いている。まるでクリスタルにその場所に来ないかと問うように。
時間だけはたっぷりある修道院での生活。空いた隣をどう手にするかクリスタルは考えなくてはいけないと思ったのだった。
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