オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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手で食べても、カトラリーを使ってもどちらでも良いと伝えたピザ。見事に性別で食べ方が別れた。何だかんだ言ってもスカーレットを筆頭に若い女性は貴族の娘だし、ツェルカはちょっと年配の女性なのだから手掴みは憚られたのだろう。

そして薫の予想を良い意味で裏切って、騎士宿舎への差し入れはあまり残りそうになかった。

「この料理は町の酒場で出したら人気が出るんじゃないか。手で食べられるのが良い。店にとってもこれだったら洗うのは皿だけで済むし」
「そうね、デズ。洗い物に関しては、他に何を食べるかによるから賛同出来ないけれど、手で食べられるのは気楽でいいわよね」

ファルコールの館で暮らす畜産研究所の職員と世話人二人も食堂の場所は違えど同じものを食べているので、ピザの感想を確認しなくてはと薫は思った。特に職員達には。デズモンドが言うように、町の酒場で出すとなると材料費を視野に入れなくてはならない。即ちそれが売価に直結するのだから。

畜産研究所はキャストール侯爵家直轄の施設。質の良い羊毛、食肉、乳製品の研究をしているが、最初に薫が残念がったように鶏は一羽もいなかった。それは、比較的高級な製品を研究しているからだ。材料のことを考えると、パン屋にパンの作り方を教えるのとは訳が違う。
職員達には、多少味が落ちても町に暮らす人達が納得出来る価格で卸せるよう今度はお金の面の研究をしてもらわなければならない。

ピザ釜、食材価格の調整と薫にはこれからもやらなければならないことが沢山ありそうだ。

「キャロル、難しい顔をしてどうしたの。まあ、どんな顔をしていても美しさは損なわれないけど」
サブリナのことは言えないと薫は思った。きっと、今の自分の顔も頬が赤くなっていることだろう。しかし薫には、デズモンドの心臓に悪い台詞免疫が随分備わってきた。にこりと笑みを見せてから、何も無かったように話を返すことが出来るのだ。その横でケビン達はその笑みは滅多矢鱈と見せないで欲しいと心の中で思うのだが、薫はこれこそがイケメンデズモンド返しだと思っているのでふんだんに振り撒いてしまうのだが。

「町で提供するには材料費のことを考えなくてはいけないと思って」
「そうか、食肉や乳製品は分からないけど、ナス、ピーマン、トマトとかは比較的多く一苗から収穫出来るんだ。トマトは支柱を立てれば木のように伸びるし。収穫量が多ければ、価格に反映する。美味しい食事の為ならば、相談に乗るよ」


『相談に乗るよ』その言葉がデズモンドの善意から出ていると理解は出来る。けれど、肝心なところから先がまた別料金だったらどうしようかと薫は考えた。ケビン達に至っては、善意よりもその先に待ち受けているものが未知数過ぎて恐ろしくもある。けれど、このピザという料理も美味しいし、キャロルもデズモンドの話に興味を示したようで何とも言えない気持ちになった。
そしてノーマンは『今後も役に立つはずだから』というキャロルの言葉を思い出しながら、ピザの上のたっぷりのチーズで気持ちを紛らわせたのだった。


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次こそはモンドとイマージュに…新たな世界を見せてもらいたい…
話の進みが遅くて申し訳ございません。
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