オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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教えられた最近のダニエルの様子に薫は驚いた。侯爵はダニエルを後継者として鍛える為に、貴族院で行われる会議に時折出席させ始めたという。また、休日には侯爵邸で昼食会やガーデンパーティを催させているとも。

「坊ちゃまは過去のお茶会等の資料を基に出席者の人選、席次を考えているようです」
「そうね、自分の顔を売りつつも、情報収集もしなければならないものね。上手く行っているのかしら?」
「閣下からその都度様々な指摘を受けていらっしゃいますよ。評価はかなり厳しい目で付けられているのではないかと」
「お父様らしいわね。甘やかすことなく、鍛えていらっしゃるのよ」
「それと王宮へ出向くことで殿下との接触があったようです。側近の打診があったようで」
「当ててもいい、ダニエルは断ったんじゃない?」
「はい。閣下は好きにしていいとおっしゃっていましたが、最終的にご自身の判断で断ったようですね」
「わたしはてっきりお父様がダニエルに命じたのかと思ったけど、違ったのね」

アルフレッドとダニエルの今の距離感を計るには、ちょうど良い話だと薫は思った。
侯爵が断らせたのではなく、ダニエルが自分自身の判断で断ったということで何となく距離感が掴める。

二人は近くない。寄ろうとしたのはアルフレッド。離れたのはダニエルだ。
しかしこれはお題が側近だからとも言える。既に学生ではないアルフレッドに、在学中のダニエルでは必要な時に傍にいられない可能性が高い。それを理由に、冷静な判断をした可能性もある。もう一つの見方をするならば、それを知りつつアルフレッドが是非側近になれとも、ダニエルが是非側近になりたいとも言っていなかったということだろう。即ち両者共に、近づきたいという気持ちを前面に出してはいないということだ。

では、何故アルフレッドはダニエルを使い二重国籍証明書をスカーレットに届けさせるのか。侯爵の手紙にあるようにダニエルに偵察させようとしている可能性は高い。姉弟なのだから、王宮の係官達よりも確実にスカーレットに近付くことがダニエルには出来るのだから。それが故に薫はアルフレッドがダニエルに踏絵をさせると考えたのだ。
けれどアルフレッドから距離を取ろうとしているダニエルならば、思っていた状況よりは不利ではないのかもしれない。

「お父様への手紙は今晩中には書けるわ。だから一泊で良いけど、二泊したいようなら滞在していってね」
「ありがとうございます。いえ、一泊で大丈夫ですよ」
「そう?先に返信に書く内容を伝えておくわ。ダニエルがファルコールに到着するくらいにあなたか、もう一人のどちらかにここに来ていて欲しい。ダニエルの様子を見てからでないと、今後の方針は決められないでしょう。でも、決めたのならば、ダニエルが王都へ戻る前にお父様へ手紙を届けてもらいたいの」
「畏まりました。どちらかが必ずその時にファルコールに来ていられるよう、閣下と打ち合わせをしておきます」
出来れば自分が来たいとBは思ったのだった。
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