オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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王都リプセット公爵家9

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翌日まで残すところ二時間、そんな時間にもかかわらずリプセット公爵の執務室には公爵、ジョイス、ハーヴァンの三人が居た。時間は遅いが、火急の事態で三人は集まっているわけではない。けれど、急ぎではないがとても重要な話であることには間違いなかった。

「そうか、殿下から長くとも残り三月と具体的な数字が出たんだな」
「はい。わたしの読みでは二月くらいではないかと思います。そこで、ハーヴァンを区切りの良い次の月末でわたしの従者から外してもらいたいのです」
「ハーヴァン、いいのか?残りたければ邸内でいくらでも働く場所はあるが」
「お申し出、ありがとうございます。ですが、一度家へ戻り、それから気になっていることをやってみたいと思います」
「分かった」
「父上、そこでお願いがあります。ハーヴァンが退職するのはわたしが原因ですので、退職金に色を付けてもらえないでしょうか」
「ジョイス様、お気遣いは不要です」
「ハーヴァン、わたしは気遣いなどしないから安心しなさい」
「ですが、父上」
「ところで、ハーヴァン、やりたい事があると言ったか?それならば、再出発支度金を用意しよう」
「父上…ありがとうございます」
「支度金はおまえにもある、ジョイス。ただし、使い道の決まっている支度金だ」

公爵はハーヴァンの実家クロンデール子爵家から二人にそれぞれ馬を購入すると伝えたのだった。

「二人ともこれから長い距離を移動しなくてはならないだろう」
「父上、わたしには脚の丈夫な馬がいますので不要です」
「ジョイス、一頭は引けばいいだけだ。そのうち二人でクロンデール子爵の厩舎へ行き相性の良い雌雄を見定めておきなさい。どうやらおまえ達二人は同じ場所を目指すようだ。ジョイスが連れて行く馬は、そこにいる人物への手土産になるだろう、世話になるんだそれくらいはしないと」

ジョイスは隣国から戻ったその日に、父からキャストール侯爵が私兵として採用してくれることになったと聞いていた。しかも希望通りファルコールで。二人の間にどういう遣り取りがあったのかは分からないが、ジョイスはその結果に感謝した。
そしてその感謝を返すべく、翌日から王宮で働き続けた。結果は採用してくれた侯爵の娘、スカーレットの為になるのだからと。

「ところで父上、どうしてハーヴァンの行き先までご存知なのですか?」
「古くからの友人の娘さんが面白いことを色々考えているようでね、たまたまその考えの一つについて話すことがあった。そうしたら、具体的な計画案の中にハーヴァンの名前が含まれていた、それだけだ」

ジョイスは父の言葉で初めてハーヴァンが公爵家での仕事を辞めた後、ファルコールへ向かうことを知った。しかも、自分とは違いハーヴァンは当てにされている存在なのだと。

ハーヴァンのことだ、ファルコール行きをジョイスに言わなかったことに他意はないように思える。まだ考え中の可能性も考えられるし。
ただ、ジョイスがファルコールを去った後、ハーヴァンがどのような日々をキャロルと共に過ごしたのか今更ながらに気になって仕方なかった。そこでキャロルから当てにされるような話をしたのは間違いないだろうから。
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