オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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薫から新たにテーブルに加わったサブリナとツェルカの名前が伝えられると、夕食は直ぐに始まった。突っ込んだ質問もなければ、ただみんなが口々に『これから宜しく』程度の言葉を掛けただけだった。

「サビィが早速今日のベーコンステーキを担当してくれたのよ」
「ありがとう、サビィ。とっても旨いよ」

ベーコンステーキを一口食べ終わりご満悦そうなカークスに薫が声を掛けると、透かさず期待通りの回答がやって来た。薫の見立て通りカークスはやはりそういうキャラだった。いつだったかもキースを肘で小突いていたが、直ぐに反応してくれるタイプだ。
しかも騎士三人はベーコンステーキが焼くだけでこの味になるとは知らない、実に都合の良い人物だった。

「へぇ、良かったですね、キャロル。ここの大所帯に料理が出来る人が来てくれて」
そしてキースが最高に良いアシストをしてくれた。サブリナに対し料理が出来る人だと言ってくれたのだ。薫がちらっとノーマンを見ると小さく頷いてくれた。首尾は上々ということだろう。サブリナに自信を持たせることが出来たようだ。

それは食後のサブリナの言葉にも表れた。
「キャロル、わたしとツェルカは朝食の手伝いはどうすればいいのかしら」
「ちょっと早めに来て手伝ってくれると嬉しいわ」
「分かった。ツェルカ、朝、起こしてね」
「はい」

手伝うと申し出た割に、サブリナはツェルカに起こしてもらうようお願いしている。サブリナは年上の女性だが、そこが何だか可愛らしいと薫は思った。それにお願いされたツェルカも嬉しそうだ。
考えてみれば、ファルコールに来てからサブリナが前向きな意思を表したのは初めて。『帰る』とか『出来ない』という後ろ向きの言葉ではなく。小さな変化、けれど大切なこと。この積み重ねが、サブリナに大きな変化をもたらしてくれれば良いと薫は願った。

翌日、朝食も無事に終わりこれから全てが上手く行きそうだと思った薫の下に再びBがやって来た。いくら何でも御者に渡した手紙の結果が来るはずはない。ということは、侯爵に依頼したこととは別の要件ということだ。

「今回も一泊くらいは出来るの?」
「はい」
「良かった。毎回、ここまでごめんなさいね」
「いえ、ここは温泉がありますから、楽しい仕事ですよ」

温泉だけでなく、美味しい食事もあるファルコールの館へやって来るのは褒美のような仕事だとBは思っている。仕えるキャストール侯爵にスカーレットの楽しそうな様子を伝えることもどんな仕事よりも喜ばしいし。
ただ、今回はどうだろうか。手紙の内容を知るBとしては、内容を確かめた後のスカーレットがどういう表情を浮かべるのか注意しなければならない。

「閣下への返信に時間が掛かるようでしたら、二泊までは滞在可能です」
開封する前のBからの言葉。それは、手紙の内容が面倒なことだという前振りだと薫は理解した。
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