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食べることは生きること。食事はとても重要なことだ。そしてここは大家族が住むファルコールの館。重要な食事を楽しく取ることが出来る場所でもある。
今日の夕食のメニューはみんな大好きベーコンステーキとサラダの温玉乗せ。パンにサラミとキノコペースト。そしてゴロゴロ野菜入りスープと安定の人気メニュー。しかもベーコンステーキは先にカットしてあるので、食べるのにはとても楽な仕様になっている。ケレット辺境伯領からやってきた四人はその提供の仕方に最初こそ驚いていたが、薫の『どうせ切って食べるのだから、この方が楽でしょ』という言葉にその通りと頷き、この気取らない食事スタイルを好意的に受け入れてくれた。
そして今晩のこのメニューには薫の思惑がある。ベーコンステーキ以外は、事前に簡単に作れてしまうということだ。そうかといって、ベーコンステーキが難しい料理という訳ではない。時間になったら焼くだけの誰にでも簡単に調理出来るもの。勿論サブリナにも。薫は少しでいいから、サブリナに参加してもらおうと考えたのだ。
「ナーサ、今夜の準備は終わったから、テラスでお茶でもしない?」
「いいですね。お茶はわたしが持っていきますから、先に座って待っていて下さい。ノーマンお願いね」
「ここからそこまでで、ノーマンの護衛は」
「いえ、何があるか分かりません。転ぶ可能性もありますよ」
「もう、ノーマンったら。でも、二人共ありがとう」
テラスの椅子に薫が座ると、ノーマンは近くで控えた。
「どうぞ、頭の中を整理して下さい。ナーサが来るまでここにいますよ。どうせナーサが来たら手伝いで立ち上がらなきゃいけませんからね」
ノーマンのこういう気遣いが本当に心憎いと薫は思った。何故薫が外の空気を吸いながらお茶をしたいのか理由を察していたということだ。
しかし、理由を察したとしても内容までは分からないだろう。今のこの状況ならば、サブリナへの対応の考えを纏めたいと思ってくれているだろうが。
でもそれは残念ながら合っているようで合っていない。薫はサブリナのことを考え始めると、どうしても前世の自分のことに辿り着いてしまうのだ。
伯爵家でのサブリナが前世の会社での自分に思えたのだ。
次期当主のジャスティン。次期社長のヤツ。
侍女やメイドの悪口と陰での嘲り。女子社員の悪口と堂々とした扱き下ろし。
貴族学院で見初められたこと。大学のゼミからの長い付き合い。
前世とこの世界のことを比べるのは無理がある。それなのに、何故か似通って見えてしまうのだ。
つい先日、サブリナは違うと否定した『都合がいい』女。
けれども、肯定すれば…
サブリナがジャスティンにとって、大切な『都合の良いサブリナ』ならば…、サブリナもまたボロ雑巾のように扱われるだけだ。
そしてそれに気付かない。嘗ての薫のように。始末が悪いことに、そうだと思っても直ぐに自ら否定してしまう、そんなことはないと。
今なら分かるあの軽くて薄っぺらな『愛している』という言葉に簡単に騙されてしまっていたのだ。
お願いされる度に自分は頼りにされていると感じ、利用されているとは思わない。しかも『ありがとう』や『助かった』という言葉を発する時に見せてくれる表情に、尽くして良かったと思ってしまう。ヤツはきっと心の中で馬鹿な女だとほくそ笑んだだろうに。
今日の夕食のメニューはみんな大好きベーコンステーキとサラダの温玉乗せ。パンにサラミとキノコペースト。そしてゴロゴロ野菜入りスープと安定の人気メニュー。しかもベーコンステーキは先にカットしてあるので、食べるのにはとても楽な仕様になっている。ケレット辺境伯領からやってきた四人はその提供の仕方に最初こそ驚いていたが、薫の『どうせ切って食べるのだから、この方が楽でしょ』という言葉にその通りと頷き、この気取らない食事スタイルを好意的に受け入れてくれた。
そして今晩のこのメニューには薫の思惑がある。ベーコンステーキ以外は、事前に簡単に作れてしまうということだ。そうかといって、ベーコンステーキが難しい料理という訳ではない。時間になったら焼くだけの誰にでも簡単に調理出来るもの。勿論サブリナにも。薫は少しでいいから、サブリナに参加してもらおうと考えたのだ。
「ナーサ、今夜の準備は終わったから、テラスでお茶でもしない?」
「いいですね。お茶はわたしが持っていきますから、先に座って待っていて下さい。ノーマンお願いね」
「ここからそこまでで、ノーマンの護衛は」
「いえ、何があるか分かりません。転ぶ可能性もありますよ」
「もう、ノーマンったら。でも、二人共ありがとう」
テラスの椅子に薫が座ると、ノーマンは近くで控えた。
「どうぞ、頭の中を整理して下さい。ナーサが来るまでここにいますよ。どうせナーサが来たら手伝いで立ち上がらなきゃいけませんからね」
ノーマンのこういう気遣いが本当に心憎いと薫は思った。何故薫が外の空気を吸いながらお茶をしたいのか理由を察していたということだ。
しかし、理由を察したとしても内容までは分からないだろう。今のこの状況ならば、サブリナへの対応の考えを纏めたいと思ってくれているだろうが。
でもそれは残念ながら合っているようで合っていない。薫はサブリナのことを考え始めると、どうしても前世の自分のことに辿り着いてしまうのだ。
伯爵家でのサブリナが前世の会社での自分に思えたのだ。
次期当主のジャスティン。次期社長のヤツ。
侍女やメイドの悪口と陰での嘲り。女子社員の悪口と堂々とした扱き下ろし。
貴族学院で見初められたこと。大学のゼミからの長い付き合い。
前世とこの世界のことを比べるのは無理がある。それなのに、何故か似通って見えてしまうのだ。
つい先日、サブリナは違うと否定した『都合がいい』女。
けれども、肯定すれば…
サブリナがジャスティンにとって、大切な『都合の良いサブリナ』ならば…、サブリナもまたボロ雑巾のように扱われるだけだ。
そしてそれに気付かない。嘗ての薫のように。始末が悪いことに、そうだと思っても直ぐに自ら否定してしまう、そんなことはないと。
今なら分かるあの軽くて薄っぺらな『愛している』という言葉に簡単に騙されてしまっていたのだ。
お願いされる度に自分は頼りにされていると感じ、利用されているとは思わない。しかも『ありがとう』や『助かった』という言葉を発する時に見せてくれる表情に、尽くして良かったと思ってしまう。ヤツはきっと心の中で馬鹿な女だとほくそ笑んだだろうに。
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