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サブリナとツェルカを除いた大所帯で食べる夕食は賑やかなものとなった。最初は緊張していたキャストール侯爵家の御者達も美味しい食事と楽しい雰囲気に知らず知らずのうちに馴染んでいったのだった。
一方、サブリナとツェルカはというと、二人で食事を取っていた、薫の計らいによって。
「本日はゆっくり過ごして欲しいという伝言をスカーレット様から預かって参りました」
「そう、それでご様子はどうだった?」
「はい、とても穏やかなご様子でした」
サブリナは王都の邸に暮らす次期伯爵夫人。ここで暮らすケレット辺境伯領の騎士達やキャストール侯爵家の護衛達とは食べる量が違うのは明らか。それに日数を掛け馬車でやって来たのだから、体力的な疲れもさることながら揺られ続けた胃も心配だ。
男性陣には好評な鶏のから揚げだが、いくら甘酢ソース掛け風にしたからといって油物には変わりない。だから薫はツェルカと相談しここ数日のサブリナの食事量からスープとサンドイッチ、食後にパウンドケーキと軽めにしたのだった。
「ここのサンドイッチの具材は馴染みがないものが多いわね」
「はい、初めて食べるものばかりですが、とても美味しいです」
「本当に」
サンドイッチの具材を馴染みがないと評したサブリナだったが、口には合ったようで王都を出てから初めて完食したのだった。
「お嬢様、先ほど説明を受けてきたのですが胃が落ち着いたら入浴施設へ行きましょう。いつでも温かいお湯に入れるそうです」
「いつでも?お湯を沸かす専用の使用人がいるのかしら?」
「それが、お湯が湧き出ているのだとか。お嬢様達がご利用になる施設の他に、使用人も使えるところがあるそうで。お湯は尽きることなく次から次へと出ていると教えてもらいました。実は奥様からも入浴施設があると聞いてはいたのですが、想像がつかなくて。だから、実際に見るのを楽しみにしていたんですよ」
「まあ、そうなのね」
「お嬢様が好きな熱めのお湯もあるそうです」
「わたくしは…」
「どうかされましたか?」
「ううん、では、後で入浴施設へ行ってみましょう」
そして二人は実際に湯が湧き出ている施設に驚いた。
「凄いわね」
「はい。先程こちらに滞在されている隣国のお医者様を紹介していただいたんですけど、その方はこの温泉の活用方法を考えているそうですよ。先ずは温度の一番低いものから試すと良いとおっしゃっていました」
「分かったわ」
入浴が終わり部屋へ戻ると、程よい疲れと安心からかサブリナはこの数日で一番の寝つきの良さを見せた。ツェルカはその寝顔を確認すると、物音を立てないよう部屋を出て食堂へ向かったのだった。キャロルとこれからのことを相談する為に。
しかし不思議でならない。昨晩はあんなに伯爵家へ戻らなくてはいけないと言っていたサブリナだというのに、今夜は伯爵家という言葉すら出さなかった。こうまで違う理由は何なのか、そこに何かこの違和感を解くヒントがあるのではないかとツェルカは思ったのだった。
一方、サブリナとツェルカはというと、二人で食事を取っていた、薫の計らいによって。
「本日はゆっくり過ごして欲しいという伝言をスカーレット様から預かって参りました」
「そう、それでご様子はどうだった?」
「はい、とても穏やかなご様子でした」
サブリナは王都の邸に暮らす次期伯爵夫人。ここで暮らすケレット辺境伯領の騎士達やキャストール侯爵家の護衛達とは食べる量が違うのは明らか。それに日数を掛け馬車でやって来たのだから、体力的な疲れもさることながら揺られ続けた胃も心配だ。
男性陣には好評な鶏のから揚げだが、いくら甘酢ソース掛け風にしたからといって油物には変わりない。だから薫はツェルカと相談しここ数日のサブリナの食事量からスープとサンドイッチ、食後にパウンドケーキと軽めにしたのだった。
「ここのサンドイッチの具材は馴染みがないものが多いわね」
「はい、初めて食べるものばかりですが、とても美味しいです」
「本当に」
サンドイッチの具材を馴染みがないと評したサブリナだったが、口には合ったようで王都を出てから初めて完食したのだった。
「お嬢様、先ほど説明を受けてきたのですが胃が落ち着いたら入浴施設へ行きましょう。いつでも温かいお湯に入れるそうです」
「いつでも?お湯を沸かす専用の使用人がいるのかしら?」
「それが、お湯が湧き出ているのだとか。お嬢様達がご利用になる施設の他に、使用人も使えるところがあるそうで。お湯は尽きることなく次から次へと出ていると教えてもらいました。実は奥様からも入浴施設があると聞いてはいたのですが、想像がつかなくて。だから、実際に見るのを楽しみにしていたんですよ」
「まあ、そうなのね」
「お嬢様が好きな熱めのお湯もあるそうです」
「わたくしは…」
「どうかされましたか?」
「ううん、では、後で入浴施設へ行ってみましょう」
そして二人は実際に湯が湧き出ている施設に驚いた。
「凄いわね」
「はい。先程こちらに滞在されている隣国のお医者様を紹介していただいたんですけど、その方はこの温泉の活用方法を考えているそうですよ。先ずは温度の一番低いものから試すと良いとおっしゃっていました」
「分かったわ」
入浴が終わり部屋へ戻ると、程よい疲れと安心からかサブリナはこの数日で一番の寝つきの良さを見せた。ツェルカはその寝顔を確認すると、物音を立てないよう部屋を出て食堂へ向かったのだった。キャロルとこれからのことを相談する為に。
しかし不思議でならない。昨晩はあんなに伯爵家へ戻らなくてはいけないと言っていたサブリナだというのに、今夜は伯爵家という言葉すら出さなかった。こうまで違う理由は何なのか、そこに何かこの違和感を解くヒントがあるのではないかとツェルカは思ったのだった。
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