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王都キャストール侯爵家16
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なかなか小賢しいことをしてくれるものだとキャストール侯爵はその書簡に目を通した。
王宮からの遣いが侯爵へ手渡したのは二重国籍証明書。同時に手渡された書簡には、隣国からも同様の証明書が届くので二枚を一組にして保管するようにと記してあった。そこまでは納得出来る、しかしその先がいただけなかった。
スカーレット分は弟のダニエルに届けさせるようにと書いてあったのだ。ご尤もらしく、『仲の良かった姉弟に亀裂を生じさせ申し訳なく思う。ついては姉弟が久し振りに語らう機会を与えさせてもらいたい』などと理由を付けて。しかも、ダニエルがファルコールへ向かう費用や準備は全てアルフレッドが負担するとも書いてあった。
護衛、馬車、途中の宿泊等全てが王家によって用意されるものを、断ることは難しい。それも正当な理由なくして。更に、この書簡が届いたということは、アルフレッドが既に元婚約者への気持ちの表れだと周囲への情報操作を始めたとみて間違いない。
今後大きな失敗は出来ないことを理解しているアルフレッド。その用意周到さを得た理由がスカーレットとの婚約破棄であり、今実践していることが大なり小なりスカーレットに関わっているというのが皮肉なものだと侯爵は思わずにはいられなかった。
「ダニエルは邸に戻っているか?」
「はい、いらっしゃいます」
「では、呼んできてくれ。急ぎ伝えなくてはならないことがある」
「畏まりました」
少ししてやって来たダニエルは、着替えの途中だったのだろう幾分か楽そうな格好に、少し髪が乱れていた。侯爵はその姿を見てここにスカーレットが居たらとつい思ってしまった。いくら急ぎだと当主である侯爵に呼び出されたとしても、スカーレットならばダニエルに一度鏡を見る余裕くらい持たなくてはならないと諭していたことだろう。
姉、母親の代わり、諤々としたガヴァネスとダニエルに必要な役割を全て担ってくれていたスカーレット。見送ることもなくスカーレットと分かれたダニエルには、侯爵にとって大迷惑なアルフレッドの策も大切な機会となるだろう。
「そこに掛けなさい」
「はい」
「実はアルフレッド殿下からダニエル、おまえに命が下された。表向きは配慮という名目だがな」
侯爵はダニエルに貴族学院が長期休暇に入ったその日は王宮に滞在し、翌日からファルコールへ向かうことを告げた。既にその行程に向けアルフレッドが動いているであろうことも。
「その二重国籍は父上と姉上だけがお持ちになるのでしょうか?」
「ああ、そうだ。いずれキャストール侯爵を継ぐおまえには不要だからな。分かるな、スカーレットの立場は非常に危うい。何か起これば最初に疑われかねないだろう。この二重国籍はそれを防ぐ契約書のようなものだ。まあ、おまえもスカーレット程ではないが、これからは気を付けなくてはならないが。しかし、それは王子妃の弟という立場を自ら蹴ったおまえが招いたことの結果、受け入れるしかあるまい」
「はい、承知しております」
「では、おまえはどう動く。ファルコールへは二重国籍証明を届けに行くだけでは済まないことくらい分かっているだろう。良く考えて行動しなければならない、ダニエル」
「はい」
「貴族学院に在学中だからという甘えは無しだ。アルフレッド殿下は、今そのツケを支払っておられる、高い利子がついたツケをな」
侯爵はダニエルを下がらせると、最近では恒例となりつつあるファルコールにいるスカーレットへの手紙を書き始めたのだった。
王宮からの遣いが侯爵へ手渡したのは二重国籍証明書。同時に手渡された書簡には、隣国からも同様の証明書が届くので二枚を一組にして保管するようにと記してあった。そこまでは納得出来る、しかしその先がいただけなかった。
スカーレット分は弟のダニエルに届けさせるようにと書いてあったのだ。ご尤もらしく、『仲の良かった姉弟に亀裂を生じさせ申し訳なく思う。ついては姉弟が久し振りに語らう機会を与えさせてもらいたい』などと理由を付けて。しかも、ダニエルがファルコールへ向かう費用や準備は全てアルフレッドが負担するとも書いてあった。
護衛、馬車、途中の宿泊等全てが王家によって用意されるものを、断ることは難しい。それも正当な理由なくして。更に、この書簡が届いたということは、アルフレッドが既に元婚約者への気持ちの表れだと周囲への情報操作を始めたとみて間違いない。
今後大きな失敗は出来ないことを理解しているアルフレッド。その用意周到さを得た理由がスカーレットとの婚約破棄であり、今実践していることが大なり小なりスカーレットに関わっているというのが皮肉なものだと侯爵は思わずにはいられなかった。
「ダニエルは邸に戻っているか?」
「はい、いらっしゃいます」
「では、呼んできてくれ。急ぎ伝えなくてはならないことがある」
「畏まりました」
少ししてやって来たダニエルは、着替えの途中だったのだろう幾分か楽そうな格好に、少し髪が乱れていた。侯爵はその姿を見てここにスカーレットが居たらとつい思ってしまった。いくら急ぎだと当主である侯爵に呼び出されたとしても、スカーレットならばダニエルに一度鏡を見る余裕くらい持たなくてはならないと諭していたことだろう。
姉、母親の代わり、諤々としたガヴァネスとダニエルに必要な役割を全て担ってくれていたスカーレット。見送ることもなくスカーレットと分かれたダニエルには、侯爵にとって大迷惑なアルフレッドの策も大切な機会となるだろう。
「そこに掛けなさい」
「はい」
「実はアルフレッド殿下からダニエル、おまえに命が下された。表向きは配慮という名目だがな」
侯爵はダニエルに貴族学院が長期休暇に入ったその日は王宮に滞在し、翌日からファルコールへ向かうことを告げた。既にその行程に向けアルフレッドが動いているであろうことも。
「その二重国籍は父上と姉上だけがお持ちになるのでしょうか?」
「ああ、そうだ。いずれキャストール侯爵を継ぐおまえには不要だからな。分かるな、スカーレットの立場は非常に危うい。何か起これば最初に疑われかねないだろう。この二重国籍はそれを防ぐ契約書のようなものだ。まあ、おまえもスカーレット程ではないが、これからは気を付けなくてはならないが。しかし、それは王子妃の弟という立場を自ら蹴ったおまえが招いたことの結果、受け入れるしかあるまい」
「はい、承知しております」
「では、おまえはどう動く。ファルコールへは二重国籍証明を届けに行くだけでは済まないことくらい分かっているだろう。良く考えて行動しなければならない、ダニエル」
「はい」
「貴族学院に在学中だからという甘えは無しだ。アルフレッド殿下は、今そのツケを支払っておられる、高い利子がついたツケをな」
侯爵はダニエルを下がらせると、最近では恒例となりつつあるファルコールにいるスカーレットへの手紙を書き始めたのだった。
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