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それぞれの紹介が終わり、なんとなく始まっていたお茶会が終わると、食堂には薫とツェルカだけになった。
みんなしっかりと理解しているということだ、ツェルカが食堂に呼ばれていた理由を。

「ツェルカ、先ずはどうしてわたしがサブリナお姉様をファルコールへ招待したのか、そこから話すわね。恐らく前リッジウェイ子爵夫人から既に聞き及んでいることと重なる部分が多いと思うけれど。でも、人それぞれ考え方は違う、だから、最終的にあなたがここ数日見聞きした事実と、それに基づいたあなたの考えを聞かせて欲しいの」
「畏まりました」

薫は言葉通り、最初の切っ掛けから話し出した。前リッジウェイ子爵夫人にサブリナのことを尋ねた時の、不思議な間と表情を。それがサブリナに関し夫人が何かを心配していると思わせたことだったとツェルカに伝えたのだった。
そして対話を続けるうちに、サブリナが嫁いで六年、まだ後継を出産出来ていないことを気に病んでいるようだと聞いたのだと。

「最初は社交シーズンが終わってから、来てもらう予定だったのだけれどお父様が先走ってしまったようで…、それはオランデール伯爵家には申し訳ないことをしてしまったと思っているのよ。でも、ものは考えよう。社交シーズンでは、子作りよりは貴族間の関係づくりだし、子を生せていないことをサブリナお姉様が気にしているなら多くの人目よりは静かなファルコールだわ。いらしていただく時期は変わってしまったけれど、プレッシャーから離れてここでゆっくりしてもらいたいというのが、わたしの気持ちなの」
「そうでしたか、キャロルさん、ご配慮ありがとうございます。恐らく、奥様も最初はキャロルさんと同じように思っていたのだと思います。ですが…」

ツェルカは夫人から聞いていたこと、そしてここ数日のサブリナの様子、最後に自分の意見をキャロルの目を真っ直ぐ見ながら言い淀むことなく伝えた。下手をすればサブリナが嫁した婚家を批判することに繋がると理解しているだろうに。一介の子爵家の使用人が伯爵家を批判することがどれだけのことか分かっていながらそう口にするのは、ツェルカが心からサブリナを心配しキャロルに助けを求めているからだろう。そしてまたキャロルを信頼に値する人物だと見做してくれているからだ。

「では、ツェルカ、尋問のようになってしまうけれど大切なことだから確認させて。まず、あなたから見てサブリナお姉様は不眠症気味ということね」
「はい。それを伯爵家の侍女は化粧で誤魔化していたようです。慢性化していたのではないでしょうか、一朝一夕でなくなるような目の下のクマではありません」
「でも、ここに来るまでに睡眠時間が少しずつ長くなった。ところが昨晩は急にブツブツ何か言い出し興奮したようで、眠りが浅かったと」
「はい。間違えたとか、伯爵邸へ戻らなくてはならないとかを繰り返していました」
「ところで、旦那様と離れて寂しいとか、恋しいとか、そういう話は?」
「そういえば…されていません。常に伯爵家の嫁として振る舞わなくてはならないとはおっしゃっていましたが」
「凄く聞き辛いのだけれど、あなたはサブリナお姉様の入浴のお手伝いや体を拭いたりしたわよね?」
「はい」
「その…、当分の別れじゃない、だから、えっと…」
「あっ、…それは、特にお見受け、しませんでした。わたしも初日の寝不足はそれを疑ったのですが…。その、オランデール伯爵ご子息はサブリナお嬢様を貴族学院でお見初めになったので…」
「まあ、サブリナお姉様の綺麗な肌を旦那様が守りたかったということも考えられるわね。あと、夫人からの『大切』という言葉だけれど、それはわたしから他のみんなにも伝えておくわ。でも、確かめたいところね、その言葉がサブリナお姉様にどう働くのか」

サブリナの状況は薫が当初した予想とは何かが違う。ツェルカに連れられ部屋へ向かったサブリナはスカーレットの記憶よりは歳をとっているのは当然だが、あの頃の雰囲気を一切纏っていなかったのも気になるところだ。
時間はある、幼いスカーレットをあんなに可愛がってくれたサブリナに少しでも良い時間が訪れるよう出来ることをしていこうと薫は心に決めたのだった。
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