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ファルコール手前の町4

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「駄目よ、間違っていたらどうしよう…。駄目だわ」
「お嬢様、どうしたのですか?お困り事ならば、このツェルカにお話し下さい」
「駄目なのよ、ツェルカ。戻りましょう、今からでも、オランデール伯爵邸へ」

サブリナはしきりに駄目だと繰り返すばかり。それに時折『間違う』と『オランデール伯爵邸へ戻る』という言葉が加わるくらいだった。

ツェルカが今から侯爵家の御者や護衛に王都へ戻って欲しいとは言えないと伝えても、サブリナは首を横に振る。常識的に考えれば分かるようなことをサブリナが受け入れないとはツェルカには信じられなかった。

それに何が駄目なのか理由を尋ねても、ただ駄目だとしか言わない。子爵邸で暮らしていた時のサブリナからは想像が出来ない行動にツェルカはどうしていいのか悩んだ。

仮に伯爵家の侍女が一人付いてきていたらどうしただろうか。サブリナをファルコールへ送り出すのはオランデール伯爵が決めた重要なこと。それをサブリナに果たさせる為に何と言葉を掛けるだろうかとツェルカは考えた。

そして本当は言うべきではないと知りながらも、サブリナへ伝えたのだった。
「お嬢様、ファルコールへ向かうのはキャストール侯爵令嬢の話し相手を務める為です。オランデール伯爵家として決めたことですよ」
「違うのよ、ツェルカ。ジャスティン様もお義母様も無理だったら戻ってきて良いとおっしゃっていたの。伯爵家の遣いとして役割を果たせないようならば、戻ってきて良いと。情けない姿を晒すくらいなら…。わたくしが失敗をしたら伯爵家に迷惑が…、駄目なの、これ以上の無能を晒すわけには」

サブリナの言葉にツェルカは何とも言えない矛盾を感じた。当主の伯爵が決めたことを、サブリナの夫と義母が否定するかのような。そして気になったのは『これ以上の無能』という言葉。

ツェルカが知る限り、サブリナがこんな風に情緒不安定になり取り乱すことなど子爵家ではなかった。やはり前リッジウェイ子爵夫人が思った何かがおかしいは正しかったようだ。

「お嬢様、わたしが間違ったことを言ってしまいました。これはお務めではございません。スカーレット様は子供の頃のことをお嬢様とお話されたいそうです。そこに失敗はありません。ただ思い出話をするだけですから」
「ただ話をするだけ…」
「はい。久し振りにスカーレット様にお会いしましょう。スカーレット様がお嬢様に会いたがっているそうです」
「スカーレットが、わたくしに…」
「折角ここまで来たのですから、会っていきましょう。それからでも王都へは戻れますから」

一度は落ち着いたかと思われたサブリナだったが、戻るという言葉に再び反応してしまった。
「違うのよ、ツェルカ、直ぐに戻らないと駄目なのよ」
「どうしてですか?」
「だって…、だって、わたくしはまた間違えているはずだわ」

サブリナの言葉は要領を得ないが、ツェルカには分かったことが一つだけある。サブリナは何かを間違えることを怖がっているようだった。

その後、サブリナが泣き疲れて眠るまでツェルカは他に拾える情報はないか言葉に耳を傾け続けたが、特に大きな収穫は無かったのだった。
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