211 / 586
ファルコール手前の町4
しおりを挟む
「駄目よ、間違っていたらどうしよう…。駄目だわ」
「お嬢様、どうしたのですか?お困り事ならば、このツェルカにお話し下さい」
「駄目なのよ、ツェルカ。戻りましょう、今からでも、オランデール伯爵邸へ」
サブリナはしきりに駄目だと繰り返すばかり。それに時折『間違う』と『オランデール伯爵邸へ戻る』という言葉が加わるくらいだった。
ツェルカが今から侯爵家の御者や護衛に王都へ戻って欲しいとは言えないと伝えても、サブリナは首を横に振る。常識的に考えれば分かるようなことをサブリナが受け入れないとはツェルカには信じられなかった。
それに何が駄目なのか理由を尋ねても、ただ駄目だとしか言わない。子爵邸で暮らしていた時のサブリナからは想像が出来ない行動にツェルカはどうしていいのか悩んだ。
仮に伯爵家の侍女が一人付いてきていたらどうしただろうか。サブリナをファルコールへ送り出すのはオランデール伯爵が決めた重要なこと。それをサブリナに果たさせる為に何と言葉を掛けるだろうかとツェルカは考えた。
そして本当は言うべきではないと知りながらも、サブリナへ伝えたのだった。
「お嬢様、ファルコールへ向かうのはキャストール侯爵令嬢の話し相手を務める為です。オランデール伯爵家として決めたことですよ」
「違うのよ、ツェルカ。ジャスティン様もお義母様も無理だったら戻ってきて良いとおっしゃっていたの。伯爵家の遣いとして役割を果たせないようならば、戻ってきて良いと。情けない姿を晒すくらいなら…。わたくしが失敗をしたら伯爵家に迷惑が…、駄目なの、これ以上の無能を晒すわけには」
サブリナの言葉にツェルカは何とも言えない矛盾を感じた。当主の伯爵が決めたことを、サブリナの夫と義母が否定するかのような。そして気になったのは『これ以上の無能』という言葉。
ツェルカが知る限り、サブリナがこんな風に情緒不安定になり取り乱すことなど子爵家ではなかった。やはり前リッジウェイ子爵夫人が思った何かがおかしいは正しかったようだ。
「お嬢様、わたしが間違ったことを言ってしまいました。これはお務めではございません。スカーレット様は子供の頃のことをお嬢様とお話されたいそうです。そこに失敗はありません。ただ思い出話をするだけですから」
「ただ話をするだけ…」
「はい。久し振りにスカーレット様にお会いしましょう。スカーレット様がお嬢様に会いたがっているそうです」
「スカーレットが、わたくしに…」
「折角ここまで来たのですから、会っていきましょう。それからでも王都へは戻れますから」
一度は落ち着いたかと思われたサブリナだったが、戻るという言葉に再び反応してしまった。
「違うのよ、ツェルカ、直ぐに戻らないと駄目なのよ」
「どうしてですか?」
「だって…、だって、わたくしはまた間違えているはずだわ」
サブリナの言葉は要領を得ないが、ツェルカには分かったことが一つだけある。サブリナは何かを間違えることを怖がっているようだった。
その後、サブリナが泣き疲れて眠るまでツェルカは他に拾える情報はないか言葉に耳を傾け続けたが、特に大きな収穫は無かったのだった。
「お嬢様、どうしたのですか?お困り事ならば、このツェルカにお話し下さい」
「駄目なのよ、ツェルカ。戻りましょう、今からでも、オランデール伯爵邸へ」
サブリナはしきりに駄目だと繰り返すばかり。それに時折『間違う』と『オランデール伯爵邸へ戻る』という言葉が加わるくらいだった。
ツェルカが今から侯爵家の御者や護衛に王都へ戻って欲しいとは言えないと伝えても、サブリナは首を横に振る。常識的に考えれば分かるようなことをサブリナが受け入れないとはツェルカには信じられなかった。
それに何が駄目なのか理由を尋ねても、ただ駄目だとしか言わない。子爵邸で暮らしていた時のサブリナからは想像が出来ない行動にツェルカはどうしていいのか悩んだ。
仮に伯爵家の侍女が一人付いてきていたらどうしただろうか。サブリナをファルコールへ送り出すのはオランデール伯爵が決めた重要なこと。それをサブリナに果たさせる為に何と言葉を掛けるだろうかとツェルカは考えた。
そして本当は言うべきではないと知りながらも、サブリナへ伝えたのだった。
「お嬢様、ファルコールへ向かうのはキャストール侯爵令嬢の話し相手を務める為です。オランデール伯爵家として決めたことですよ」
「違うのよ、ツェルカ。ジャスティン様もお義母様も無理だったら戻ってきて良いとおっしゃっていたの。伯爵家の遣いとして役割を果たせないようならば、戻ってきて良いと。情けない姿を晒すくらいなら…。わたくしが失敗をしたら伯爵家に迷惑が…、駄目なの、これ以上の無能を晒すわけには」
サブリナの言葉にツェルカは何とも言えない矛盾を感じた。当主の伯爵が決めたことを、サブリナの夫と義母が否定するかのような。そして気になったのは『これ以上の無能』という言葉。
ツェルカが知る限り、サブリナがこんな風に情緒不安定になり取り乱すことなど子爵家ではなかった。やはり前リッジウェイ子爵夫人が思った何かがおかしいは正しかったようだ。
「お嬢様、わたしが間違ったことを言ってしまいました。これはお務めではございません。スカーレット様は子供の頃のことをお嬢様とお話されたいそうです。そこに失敗はありません。ただ思い出話をするだけですから」
「ただ話をするだけ…」
「はい。久し振りにスカーレット様にお会いしましょう。スカーレット様がお嬢様に会いたがっているそうです」
「スカーレットが、わたくしに…」
「折角ここまで来たのですから、会っていきましょう。それからでも王都へは戻れますから」
一度は落ち着いたかと思われたサブリナだったが、戻るという言葉に再び反応してしまった。
「違うのよ、ツェルカ、直ぐに戻らないと駄目なのよ」
「どうしてですか?」
「だって…、だって、わたくしはまた間違えているはずだわ」
サブリナの言葉は要領を得ないが、ツェルカには分かったことが一つだけある。サブリナは何かを間違えることを怖がっているようだった。
その後、サブリナが泣き疲れて眠るまでツェルカは他に拾える情報はないか言葉に耳を傾け続けたが、特に大きな収穫は無かったのだった。
14
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる