オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

文字の大きさ
上 下
199 / 656

王宮では25

しおりを挟む
「それで本当の理由は?」
人払いがされた執務室にアルフレッドの低い声が響いた。ダニエルが伝えた側近を断る理由にアルフレッドが納得していないということだ。

「申し上げましたように、わたしはまだ学生。既に実務をこなしていらっしゃる殿下の役に立つには力不足です」
「伝えたはずだ、おまえはスカーレットの弟である時点で、俺にとって最高の持ち駒になると」
「はい、ですが、同時に最悪の持ち駒にもなる可能性があります。考えたのです、わたしが学生であろうと、理由にさえなればいい人物はいくらでもいるだろうと」
「学生であるうちは、俺が守る」
「殿下、危険な賭けは止めましょう。最初に申し上げた理由で足りなければ、これも加えましょう、保身の為です。己の失態で姉に面倒を見てもらいたくはありません」
「何故スカーレットを守ると断言しない」
「必要ないからです。姉はわたしに対し助けは求めません。見た目からは想像もつかないほど、強い人間ですから。わたしにも具体的に分かりませんが、姉は殿下が心配していることへ自分自身で何か策を講じているように思うのです」
「そうか。確かにそうかもしれないな、スカーレットならば先を読んでいるだろう」

アルフレッドはそれ以上ダニエルに側近を断る理由を尋ねることはなかった。ダニエルが言ったスカーレット自身が策を講じているという部分に納得したということだ。

「知っていたら教えて欲しい。キャストール侯爵が陛下と話し合った後、貴族院で制定させた、婚約破棄を言い出した側が再度婚約を結び直したい時は違約金の三倍を支払うというのは誰が考えたのだ?」
「わたしも詳しくは聞き及んでおりませんが、骨子は姉かと思われます」
「いつ頃から考え出したのだろうか…」

アルフレッドがダニエルの回答の後に独り言のように呟いた。語尾が辛うじて聞き取れる程度の呟き。それはまるでアルフレッドが過去のアルフレッドに質問しているようだった。答えを知っているのはスカーレットに他ならないというのに。

最初から全てを見聞きしていないダニエルには分からない。何が原因で、どうしてこうなってしまったのか。滑稽なのは、今なら分からないと認めておきながら、当時はどうして一方へ加担したのかだ。
そしてアルフレッドの声のトーン、表情から分かってしまったことがある。アルフレッドはスカーレットがいつから考え出したのかなど聞いていない。どの時点で諦めたのか知りたいと思っているのだ。アルフレッドが婚約破棄という裏切りを言い出すと予測したのか。

そしてそれはダニエルも知りたいことだった。貴族学院を卒業してからスカーレットが邸に滞在していた期間は必要最低限。スカーレットの存在を煙たがっているダニエルに配慮したものだろう。その短い日数すら無駄にしたダニエルが言えたことではないが、いつから別れの日数は最低限で良いと思ってしまったのだろうか。否、思わせてしまったのだろうか。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

ロザムンドの復讐 – 聖女を追放した愚か者たちへ

ゆる
恋愛
聖女ロザムンド・エステルは、神聖な力で人々を癒し、王国の希望として崇められていた。だが、王太子レオナルドの誤った決断と陰謀によって、彼女は「偽りの聖女」と断じられ、無慈悲にも追放される。信頼していた人々からの裏切りに絶望しながらも、ロザムンドは静かに決意する――この手で、真実の奇跡を取り戻すのだと。 一方、ロザムンドを失った王国は、偽りの聖女カトリーナを迎えたことで、次第に荒廃していく。民衆の不満は募り、疫病と飢饉が国を蝕く。王太子レオナルドは、やがて自らの過ちを悟り、真実の聖女を取り戻すために旅立つ。彼が再会したロザムンドは、かつての純粋な少女ではなく、自らの運命を受け入れ、覚悟を決めた強き聖女へと生まれ変わっていた――。 「私は、もう二度と誰にも裏切られない――!」 これは、追放された聖女が奇跡を取り戻し、かつての王国に復讐する物語。 後悔と贖罪に苦しむ王太子、かつて彼女を見捨てた貴族たち、偽りの聖女を操る陰謀者たち――彼らすべてが、ロザムンドの復活を前に震え上がる! 果たして、彼女は王国に真実の光を取り戻し、民衆の信頼を再び得ることができるのか? そして、彼女を追放した王太子レオナルドの想いは届くのか――?

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

処理中です...