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王都オランデール伯爵家2

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紳士クラブでリプセット公爵とキャストール侯爵が顔を合わせたこと、その際に何を話していたのかをジャスティンは父であるオランデール伯爵へ記憶の限り事細かに話した。

「しかし、それでもまだあの手紙が本当にキャストール侯爵令嬢からのものか確証は持てん。偶然が重なったことも考えられる。ただ、間違いなく言えるのは、キャストール侯爵令嬢が話し相手を欲しているということだ。出来ればクリスタルをファルコールへ送りたいが、顔を合わせる程度の関係だったとすると難しいだろう。しかし、手紙が本物でおまえが聞いてきた話の人物がサブリナであるならば、こちらから侯爵へ話を持っていきたいところだ、それも公爵経由で」

オランデール伯爵家はリプセット公爵家派閥に属している。伯爵としては、キャストール侯爵が求める人物がサブリナならば、リプセット公爵経由でキャストール侯爵へ打診してもらうのが一番だ。何故なら、キャストール侯爵が欲する人物を提供するだけではなく、リプセット公爵にも少なからずの恩を売れるのだから。リプセット公爵家のジョイスはスカーレットを療養へ追いやった内の一人、ここはリプセット公爵としても格下の侯爵家だがそれなりに何かをしておきたいところだろう。

「真偽は定かではありませんが、スカーレット・キャストールと名乗る人物からのあの手紙を本人からだと思った振りをしてここは公爵へ話をしてみるのはいかがでしょう?」
「その筋書きを進めるには、『クリスタルの生家なので難しい』を正しく解釈せねばならん。後ろめたさや罪悪感からか、箝口令を敷いている訳でもないのに、当時のことを話したがる者はいないようだ。話した途端にとんでもなく高貴な誰かを批判することに繋がりかねないし、自らの行いが最低だったと告白するようなものだからな。まあ、食後にサロンで今後のことを皆に伝えるとしよう。ところでクリスタルのジョイス様への熱はジャスティンから見てどうだ。いい加減冷めていそうか?」
「それが…、未だに思い続けているようです」
「こう言っては申し訳ないがジョイス様では未来はないだろう。そろそろクリスタルの婚約者を決めなくてはならないというのに」

クリスタルは幼い頃からリプセット公爵家のジョイスを慕っていた。リプセット公爵家の派閥下にあるオランデール伯爵家ということもあり、クリスタルがジョイスを見掛けることが多かった為だ。ただそれはクリスタルからの一方通行。その為、クリスタルは少しでもジョイスに近付きたい、目に留まりたいと自分磨きを行ってきた。

少し前までは、仮令公爵家三男でもアルフレッドの側近ということで約束された未来があったジョイス。しかし、今が以前と同じ状況であるとは言い難い。オランデール伯爵としては、可愛いクリスタルの為に将来が明るい人物と婚約させたいと思っている。

「丁度いい、サロンではクリスタルの今後も含めて話すとしよう。その為にも、あの手紙の内容を確かめなくては」

手紙が妬みややっかみから送られた可能性もある。クリスタルにはその点を含め確認しなくてはいけないと伯爵は思ったのだった。
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