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王宮では21
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「殿下…、こちらは再検討ということでしょうか?」
過去を思い返し無言になっていたアルフレッドの様子から、マリア・アマーリエへの贈り物に再検討が必要なのかと先読みした事務官が声を発した。
「いや、このままで良い。国交の無い国だ、選ぶのが大変だっただろうと考えていただけだ」
「そのようにおっしゃっていただけるとは、まことに痛み入ります」
事務官達は国交の無い国の文化、とりわけタブー視されていることや、特定のものが贈り物になると別の意味をなさないか等を調べ上げ選んだに違いない。贈り物の目録を見る限り、検討を重ねたことは良く分かる。
こうしてみると贈り物を選ぶのにも、時間や労力が随分と必要だ。関係を贈り物という手段で構築しようとしているのだ、当然といえば当然だが。
でも、スカーレットへはそれこそ花一輪、菓子一つで簡単に関係を構築することが出来た。否、違う。スカーレットはアルフレッドが選びやすいようにしてくれていたのだ。好きな色や菓子の話をそれとなくすることによって。一見自分を主張するような行いは、アルフレッドを困らせないように、時間を奪うことがないようにしていたのではないか。
実はスカーレットの心遣いという贈り物があったから、アルフレッドの贈り物は成り立っていたと今なら分かる。それこそ今更だが。
人は失うことにより、そのものの価値を再認識する。しかしアルフレッドはもうこれ以上スカーレットの価値という心遣いや優しさを認識したくないと思った。近くに存在していた時には気付かなかった、もう触れることが出来ないものなど。
あの日の母である王妃の言葉が蘇る。
『スカーレットを公衆の面前で排除してまで選択したのがあれだというの、アルフレッド。わたくしには王宮の侍女にすら見えない所作だわ。あなたが言うように、語学力等の他のことが優れていなかったらただの道化ね。だってこの場には似つかわしくないお飾りを付けてあんなにも堂々としていられるなんて』
シシリアの養女先候補の貴族家を王宮に出迎えた後、母はアルフレッドにこっそりと嫌味を言った。しかし、それは嫌味という名の真実でもあった。やって来た貴族家の夫人達のドレス姿からシシリアは浮いてしまっていたのだ。シシリアの可愛らしさはアピール出来ても、今必要なのはそれではないと言わんがばかりに。同世代が集まるガーデンパーティならば問題ないドレス姿も、目上の、しかもこれから養女に迎えてもらいたい貴族家の当主夫妻には受けが良いとは決して言えないものだった。
メゾンのデザイナーにドレスを仕立てる目的を話すと、スタイルや色合いについて様々なアドバイスが返ってきた。それなのに、シシリアの自分らしさを表したいという気持ちを優先した結果、母から道化と酷評を得てしまった。デザイナーだっていくら頭で分かっていても、アルフレッドから強く言われてしまえば従うしかなかっただろう。
母はあの日を境にして、本当に出席しなければならない公務以外は全て欠席。気鬱の病と称し自室に引きこもってしまった。
『スカーレットが婚約者となりわたくしに挨拶をした時の所作にもあの者は及びません。スカーレットがあなたの婚約者になった年齢をあなたは覚えていますね。それを基に違約金を算定したのですから』
最後にそんなような言葉を母から投げ掛けられた。
アルフレッド自体あの日から坂を転がり落ち続けているようだ。それもまだ転がり続けなくてはいけないのか、それとも既に底まで辿り着いたのかも分からない。
それ以前に、坂の始まりはあの日ではなかったのだろう。気持ちの上でスカーレットを裏切った時から既に坂は始まっていたのだ。ただ、最初は下っているのか分からない程緩やかな坂で気付かなかった。簡単に元に戻れたはず。しかし、気付けば加速が付き、もう戻れなくなっているどころか勢いをつけ転がり落ちるしかなくなっていた。
過去を思い返し無言になっていたアルフレッドの様子から、マリア・アマーリエへの贈り物に再検討が必要なのかと先読みした事務官が声を発した。
「いや、このままで良い。国交の無い国だ、選ぶのが大変だっただろうと考えていただけだ」
「そのようにおっしゃっていただけるとは、まことに痛み入ります」
事務官達は国交の無い国の文化、とりわけタブー視されていることや、特定のものが贈り物になると別の意味をなさないか等を調べ上げ選んだに違いない。贈り物の目録を見る限り、検討を重ねたことは良く分かる。
こうしてみると贈り物を選ぶのにも、時間や労力が随分と必要だ。関係を贈り物という手段で構築しようとしているのだ、当然といえば当然だが。
でも、スカーレットへはそれこそ花一輪、菓子一つで簡単に関係を構築することが出来た。否、違う。スカーレットはアルフレッドが選びやすいようにしてくれていたのだ。好きな色や菓子の話をそれとなくすることによって。一見自分を主張するような行いは、アルフレッドを困らせないように、時間を奪うことがないようにしていたのではないか。
実はスカーレットの心遣いという贈り物があったから、アルフレッドの贈り物は成り立っていたと今なら分かる。それこそ今更だが。
人は失うことにより、そのものの価値を再認識する。しかしアルフレッドはもうこれ以上スカーレットの価値という心遣いや優しさを認識したくないと思った。近くに存在していた時には気付かなかった、もう触れることが出来ないものなど。
あの日の母である王妃の言葉が蘇る。
『スカーレットを公衆の面前で排除してまで選択したのがあれだというの、アルフレッド。わたくしには王宮の侍女にすら見えない所作だわ。あなたが言うように、語学力等の他のことが優れていなかったらただの道化ね。だってこの場には似つかわしくないお飾りを付けてあんなにも堂々としていられるなんて』
シシリアの養女先候補の貴族家を王宮に出迎えた後、母はアルフレッドにこっそりと嫌味を言った。しかし、それは嫌味という名の真実でもあった。やって来た貴族家の夫人達のドレス姿からシシリアは浮いてしまっていたのだ。シシリアの可愛らしさはアピール出来ても、今必要なのはそれではないと言わんがばかりに。同世代が集まるガーデンパーティならば問題ないドレス姿も、目上の、しかもこれから養女に迎えてもらいたい貴族家の当主夫妻には受けが良いとは決して言えないものだった。
メゾンのデザイナーにドレスを仕立てる目的を話すと、スタイルや色合いについて様々なアドバイスが返ってきた。それなのに、シシリアの自分らしさを表したいという気持ちを優先した結果、母から道化と酷評を得てしまった。デザイナーだっていくら頭で分かっていても、アルフレッドから強く言われてしまえば従うしかなかっただろう。
母はあの日を境にして、本当に出席しなければならない公務以外は全て欠席。気鬱の病と称し自室に引きこもってしまった。
『スカーレットが婚約者となりわたくしに挨拶をした時の所作にもあの者は及びません。スカーレットがあなたの婚約者になった年齢をあなたは覚えていますね。それを基に違約金を算定したのですから』
最後にそんなような言葉を母から投げ掛けられた。
アルフレッド自体あの日から坂を転がり落ち続けているようだ。それもまだ転がり続けなくてはいけないのか、それとも既に底まで辿り着いたのかも分からない。
それ以前に、坂の始まりはあの日ではなかったのだろう。気持ちの上でスカーレットを裏切った時から既に坂は始まっていたのだ。ただ、最初は下っているのか分からない程緩やかな坂で気付かなかった。簡単に元に戻れたはず。しかし、気付けば加速が付き、もう戻れなくなっているどころか勢いをつけ転がり落ちるしかなくなっていた。
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