オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

文字の大きさ
上 下
132 / 656

王都リプセット公爵家6

しおりを挟む
新たな役割を掴む為には、今背負っているものをきれいに降ろさなくてはいけない。雑に降ろせば、新たな役割は掴めなくなる。

ジョイスは様々な内容が纏められた走り書きに再び目を通した。更に、隙間に新たな文字を書き足す。ありとあらゆることを想定した上で、パートリッジ公爵と向き合う為に。
出来れば次の訪問を最後にする為にも、準備をし過ぎるということはないだろう。

それにしても、前回と今回では意気込みが違い過ぎてジョイス自身滑稽でならなかった。決して前回は手を抜いたわけではない。けれど、今回は馬ではないがその先にぶら下げられたニンジンに向かって全力を出している。自分でも驚くほどに。

どちらかと言うと、今迄ジョイスは与えられた道を歩んできた。努力をせずとも、ジョイスに見合った道が当たり前のように目の前に伸びてきたからだ。三男ではあるが、公爵家で受けてきた教育で十分に同世代の他者よりも先に美しい景色を見ることが出来る道が。
だから、公爵家を出る身として幼い頃から騎士になろうと努力はしていたが、心のどこかでその道も最終的には都合よく与えて貰えると思っていたのだ。

しかし、ある日突然分岐点が現れ、そこから違う道が伸びた。ジョイスは迷うことなく、新たな道を選んだ。
決め手となったのは父の一言。それは『いざという時に剣を同世代では誰よりも上手く握れるジョイスは殿下の側近に向いている。他のこともおまえなら難なくこなせるだろう』というもの。
ジョイスにはその言葉が、父がアルフレッドの側近という道を用意したと言っているように聞こえたのだ。

その理解は正しかったようで、ジョイスは側近に難なく選ばれた。ところが、側近に決まってから数年後、何かの折に父から内定の事実など無かったと教えられた。それはそれで驚いたものの、結果的に出来レースだと思っていたことがジョイスを冷静にさせてくれたし、余裕を持たせてくれたことは事実。結局は公爵家という恩恵を常にジョイスは受けているようなものだった。

だが、今、ジョイスが心から欲しいと思っている役割は多くの努力をしなければ手に入らない。次のパートリッジ公爵訪問で確かな道筋をつけなければ、欲しい役割への道がどんどん長くなり遠のいてしまう。

あの頃のように、スカーレットに辿り着く道を父が諦めろということはない。
アルフレッドが言った、スカーレットには手が伸ばせないのに常に傍にある道を進めることを喜べということもない。

ジョイスは本気で全力を出して欲しいものを手に入れにいけばいいのだ。ただ、気がかりなこともある。アルフレッドがどうしてテレンスを婿候補に選んだのか。選ばれなかったことは、ジョイスにとっては僥倖。けれど、アルフレッドも予想はしているはず、何の役割も持たなくなったジョイスがスカーレットに近付こうとすることは。
そこまでを読んで、アルフレッドにジョイスが泳がされているとすれば、辿り着いた先に何があるのだろうか。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

婚約破棄されてしまった件ですが……

星天
恋愛
アリア・エルドラドは日々、王家に嫁ぐため、教育を受けていたが、婚約破棄を言い渡されてしまう。 はたして、彼女の運命とは……

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

処理中です...