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王都キャリントン侯爵家8
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勝ってもいない、負けてもいない。
ただそう決まっただけ、決められただけ。テレンスは目の前に突如現れた道を進むだけのことだ。
テレンスの競争は何も八歳のあの時から始まったのではない。生まれた時から既に兄がいたのだから。
しかし、兄との競争は目指す場所が違うもの。そして兄は手を引いてくれた、仮令テレンスが競争相手だとしても。だが、それこそがキャリントン侯爵家を守る為の兄の決意。兄は万が一に備えスペアのテレンスに手を差し伸べ続けたのだ。
そして、常にテレンスより先にいるようにし続けた。
アルフレッドの側近に選ばれた時、テレンスは十歳。完全に兄とは違う道を歩むことが決まったことに安堵したのを覚えている。もう一人の側近ジョイスは一歳年上の公爵家三男。テレンスとは違い、スペアにもなれない三男。だからテレンスは思った、ジョイスは自分より劣るたいしたことのない存在だと。仮令スペアだとしても、兄と同じように勉強をしてきたテレンスの方が優れていると思ったのだ。
それに、側近レースに参加していたジョイス以外の候補者は心の中で一席を争っていた。端からジョイスを公爵家出身だから選ばれる不戦勝のような存在だと見做していたのだ。
テレンスにとってもう一人の側近がジョイスということは、テレンスが僅か十歳で側近レースの勝者となり、今後もそれが続くということだった。
ところがそれは大きな間違いだとテレンスは知らず知らずの内に心の中で感じるようになっていた。絶対的勝者になったと信じ続けたいが故に、そのことに気付かない振りをする毎日だったが。
しかしそれにも限界はある。共に同じ時を過ごせば、ジョイスの為人を嫌でも知ってしまうのだから。意識しないようにすればする程、テレンスにとってジョイスという存在は重いものになっていったのだった。
そのジョイスから離れる術をアルフレッドがテレンスに与えてくれた。それもテレンスが恐れていた身分を失うことなく。
アルフレッドから告げられた遠く離れた国の末姫の婿の座を射止めろという命。失敗が出来ないアルフレッドが、考え決めた結果がテレンス。
それはアルフレッドがテレンスの心の奥深くを見抜いているからだろうか。テレンスにキャリントン侯爵家の、そしてアルフレッドの側近であり続けたいという気持ちがあるということを。だからこそ、テレンスが失敗をしないよう上手く立ち回ると踏んで。
『テレンスならば、相手が望む表情を作れるはずだ』というアルフレッドの言葉は何を意味していたのだろうか。
いつもジョイスの存在に怯え、忌まわしく思い、羨んでいたテレンスがどの表情も隠し接していたことを見抜いているとでも言いたかったのだろうか。
「失礼致します、テレンス坊ちゃま、旦那様のお時間が空きました」
「ありがとう、では直ぐに向かう」
事前にアルフレッドが根回ししていたとしても、テレンスは先ずは婿候補に選ばれたことを報告する為に父の執務室へ向かった。
そのテレンスの脳裏にいつかのデズモンドの言葉が不意に蘇った。
『いえ、テレンス様とわたしのファルコール行きは関係ありませんよ。わたしは仕事をしに行くだけです』という。
そう、これは大切な任務。今一度目的を明確にしなくてはいけないとテレンスは思った。
ただそう決まっただけ、決められただけ。テレンスは目の前に突如現れた道を進むだけのことだ。
テレンスの競争は何も八歳のあの時から始まったのではない。生まれた時から既に兄がいたのだから。
しかし、兄との競争は目指す場所が違うもの。そして兄は手を引いてくれた、仮令テレンスが競争相手だとしても。だが、それこそがキャリントン侯爵家を守る為の兄の決意。兄は万が一に備えスペアのテレンスに手を差し伸べ続けたのだ。
そして、常にテレンスより先にいるようにし続けた。
アルフレッドの側近に選ばれた時、テレンスは十歳。完全に兄とは違う道を歩むことが決まったことに安堵したのを覚えている。もう一人の側近ジョイスは一歳年上の公爵家三男。テレンスとは違い、スペアにもなれない三男。だからテレンスは思った、ジョイスは自分より劣るたいしたことのない存在だと。仮令スペアだとしても、兄と同じように勉強をしてきたテレンスの方が優れていると思ったのだ。
それに、側近レースに参加していたジョイス以外の候補者は心の中で一席を争っていた。端からジョイスを公爵家出身だから選ばれる不戦勝のような存在だと見做していたのだ。
テレンスにとってもう一人の側近がジョイスということは、テレンスが僅か十歳で側近レースの勝者となり、今後もそれが続くということだった。
ところがそれは大きな間違いだとテレンスは知らず知らずの内に心の中で感じるようになっていた。絶対的勝者になったと信じ続けたいが故に、そのことに気付かない振りをする毎日だったが。
しかしそれにも限界はある。共に同じ時を過ごせば、ジョイスの為人を嫌でも知ってしまうのだから。意識しないようにすればする程、テレンスにとってジョイスという存在は重いものになっていったのだった。
そのジョイスから離れる術をアルフレッドがテレンスに与えてくれた。それもテレンスが恐れていた身分を失うことなく。
アルフレッドから告げられた遠く離れた国の末姫の婿の座を射止めろという命。失敗が出来ないアルフレッドが、考え決めた結果がテレンス。
それはアルフレッドがテレンスの心の奥深くを見抜いているからだろうか。テレンスにキャリントン侯爵家の、そしてアルフレッドの側近であり続けたいという気持ちがあるということを。だからこそ、テレンスが失敗をしないよう上手く立ち回ると踏んで。
『テレンスならば、相手が望む表情を作れるはずだ』というアルフレッドの言葉は何を意味していたのだろうか。
いつもジョイスの存在に怯え、忌まわしく思い、羨んでいたテレンスがどの表情も隠し接していたことを見抜いているとでも言いたかったのだろうか。
「失礼致します、テレンス坊ちゃま、旦那様のお時間が空きました」
「ありがとう、では直ぐに向かう」
事前にアルフレッドが根回ししていたとしても、テレンスは先ずは婿候補に選ばれたことを報告する為に父の執務室へ向かった。
そのテレンスの脳裏にいつかのデズモンドの言葉が不意に蘇った。
『いえ、テレンス様とわたしのファルコール行きは関係ありませんよ。わたしは仕事をしに行くだけです』という。
そう、これは大切な任務。今一度目的を明確にしなくてはいけないとテレンスは思った。
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