オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

文字の大きさ
上 下
112 / 656

70 ケビン達のデズモンドが餌付けされてしまうのではないかという心配

しおりを挟む
子供の頃に読んだ冒険譚。新たな世界へ飛び出す為には、その扉の鍵を探さなくてはいけない。鍵は簡単に見つけることが出来ないよう隠されていて、様々な謎を解きながら探して行く。勿論謎は一筋縄で解けないものばかり、そしてそこが面白いところでもあった。
では薫が原作を知る為の鍵がデズモンド・マーカムだとするならば、盗み見るだけではなく話をしたらどうなるのだろう。膨大な情報が薫の頭に流れ込む、それともデズモンド・マーカムに盲目的に惹かれてしまうのか。
怖いような、それでも何が起こるのか知りたい、薫はそう思ったのだった。

しかし、その前に二組目のゲスト、前リッジウェイ子爵夫妻がやってくる。デズモンド・マーカムとの接触で何が起こるのか知りたい欲に駆られ、大切なホテル業を疎かにすることは避けなくては。
ここで便利なのがスカーレットの記憶。もてなす為には、夫妻がどういう人物か知っていたほうが有利だ。薫は記憶から様々な情報を引き出し迎える準備に備えたのだった。高額宿泊料を頂くのだ、しっかり楽しんでもらわなくては。

「ハーヴァン、ご夫妻の滞在三日目辺りに馬での散策を引き受けて欲しいのだけれど良いかしら?事前にコースの下見をして、お昼を食べる場所にも目星を付けておいて。あと、夫人用におとなしい馬を選ぶこともお願いね」
「承知いたしました」
「四日目には、夫人と一緒にお菓子作りをして前子爵を驚かせようと思っているの。前子爵は甘いものが実はお好きだそうだから」
「まあ、それはいいですね。でも、夫人はお菓子作りなんてしたことがあるんでしょうか」
「大丈夫よ、ナーサ。木の実を入れるだけでも、何でもいいの。夫人が前子爵の為に何かすることが大切なのよ。今までお忙しくて大変だったようだから、ここで二人の新たな大切な思い出を作る演出をわたしたちが手伝うのよ、素敵でしょ」
「はい!」

宿泊ゲストは一組だけ、しかもひっきりなしに来るのではなくこのペース。だったらおもてなしもカスタマイズして、ゲストには喜ぶと同時にファルコールを好きになってもらいたいと薫は思っている。

「では、マーカム子爵に奇襲をかけるのは二日目という理解でいいですね?」
「もう、ケビンたら、その言い方。奇襲じゃないわ、事前連絡なしの表敬訪問よ。だから、この間お願いしたことを当日担当の私兵、もう違うわね、騎士の方に伝えておいて」
「昼前くらいから国境検問所の執務室に上手く閉じ込めておけばいいんですね」
「だから、言い方!上手く足止めしておいてもらえばいいのよ」
「なんだか、ホテルは表稼業で、それを隠れ蓑に裏稼業を営んでいるようでワクワクしますね」
「もう、ハーヴァンまで何てことを言っているの。うん、でもそれ言い得て妙だわ。確かに楽しいもの」

キャロルが楽しいことに対してケビン達に不満はない。しかし、出来ることならその表敬訪問はしてもらいたくないというのが本音だ。しかも、ランチボックス持参でなんて。

可愛い小鳥やウサギならまだしも、マーカム子爵が餌付けされてしまったらどうするのだと四人は思っていたのだ。
更にナーサを除く三人は、マーカム子爵がご馳走に目をくらませてしまったら、否、そのことの方を真剣に考えておかなくてはいけないと思ったのだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ

神々廻
恋愛
「天使様...?」 初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった 「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」 そうですか、なら婚約破棄しましょう。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

処理中です...