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王宮では10

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ジョイスが淡々と話した事実に、アルフレッドが確認の為いくつかの質問をしてきた。それはそうだろう、ジョイスが最も信頼を寄せる従者を途中の町に一文無しで置いてきたと言ったのだから。

「ちょっと待て。それではハーヴァンがいつ王都に戻ってくるのか分からないじゃないか」
「そうなるな。でも、これは俺もハーヴァンも納得の上だ。幸いハーヴァンは泊めてもらったところで働かせてもらえる。乗合馬車代と宿代が貯まれば帰ってくるさ。好きなだけ辺境で働いてくれば良いと俺は思っている」
「その宿も含め大丈夫なのか?」
「分からない。でも、信じることにしたんだ」

見方によっては、ジョイスは敵だらけの中にハーヴァンを置いてきたようなもの。しかしその『見方』というのも、原因を作ったのはジョイス。スカーレットに貴族学院であんなことをしなければ、関係がおかしくなることはなかった。もとより、ジョイスが隣国へ行く必要もハーヴァンが病気や怪我を負う必要もなかったのだが。
勝手にジョイスがそうだと決めつけ接してしまったスカーレット。それを、ジョイスが良く知っていた頃のスカーレットだと信じれば、ハーヴァンは悪いようにはならない。否、良くしてもらえる。実際、ファルコールでハーヴァンは入浴の世話を受け薬まで与えてもらっていた。スカーレットは当然のように言っていたが、食事の世話まで申し出てもらっていたではないか。

アルフレッドの質問には『分からない』と言ったが、ジョイスは分かっている。あのスカーレットだから、本質は何も変わっていないジョイス達が良く知っていたスカーレットだから、『信じられる』と。裏切られることはないと言い切れる。現に、ジョイスはファルコールからたった一人で困ることなくたった二泊で帰って来られた。

ハーヴァンを引き留めたのも、スカーレットには何か理由があってのことだろう。貴族年鑑を暗記するだけでなく、相関図や様々な繋がりを頭の中で展開出来るスカーレットなら、クロンデール子爵家のハーヴァンがどれだけ馬の扱いに長けているかも知っているはず。
もしかしたら、あの二頭の世話をハーヴァンにさせてくれるかもしれない。脚が止まってしまうほど酷使してしまった二頭。回復させる技術を持つ人間など限られている。それにあの二頭を世話することはハーヴァンの心の引っ掛かりにも良い影響を与えるはずだ。
ジョイスに迷惑を掛けたと思っているハーヴァンの気持ちをスカーレットは救おうとしているのかもしれない。

それに…、間も無く到着するであろうマーカム子爵に対してもハーヴァンは良い駒になる。本来リプセット公爵家で働くハーヴァンがスカーレットの下にいることはマーカム子爵へは良い牽制だ。公爵家の目もあるのだという。
流石はスカーレット。つい先ほど自ら否定したやって来ようがない未来を考えるという馬鹿げた行為。しかし、ジョイスはもしもスカーレットが王妃の座に就いていたらどういう未来が待っていたのか考えずにはいられなかった。

「そんなに考え込むな、ジョイス。いざとなったら、ハーヴァンには確かな剣の腕もある」
「違うんだ、アル。分からないと言ったが、ハーヴァンの滞在に心配はない。寧ろ、山間部の馬もいるところで遣り甲斐を持って働くだろう。それに、二日しか宿泊してないがそれでも良く分かる、ファルコールは良い町だ。剣を振り回さなくてはならないこと等、住民達の間で起きやしない」
「そうか。まあ、治めているのがあの侯爵ならそうかもしれないな」
「ああ、動かなくなった馬二頭と脚がしっかりした馬とを交換してくれるような町だ。しかも俺が従者を置いていくことで不都合がないよう宿に見せる手紙まで用意してくれたほど親切な人達がいる」
「そんな良い町だから侯爵もスカーレットを送ったのかもしれないな。…もしかしたらハーヴァンはスカーレットに会う機会があるだろうか」
「あくまでも噂だが、キャストール侯爵令嬢は外に出ることはないと聞いたことがある。もしもハーヴァンがファルコールで出くわしたとしても護衛が傍に近寄らせることはないだろう。彼女は守られるべき存在だろうから」
「…」

結局、話さないようにしていてもアルフレッドとの会話は時折スカーレットへ向いてしまう。
ジョイスは道中で起きたことの報告を早々に切り上げ、本題へ移ることにしたのだった。



***************************************************
この場をお借りして(ボヤキです)

だいたいこんな感じというそれはそれは簡単な筋書きを事前に作っています。
登場人物の設定とかも少しだけ書いていたりします。これは、書き進めるうちに
詳しく決まってきたりしています。
そして問題が…。書いている内にわたしが浮気しそうです…。この人のほうが…。
その度に初志貫徹、と言い聞かせていますが。ですが、ストーリー変えちゃえば?と
悪いわたしが囁きます。どうせ、自分以外結末知らないんだし、と。困ったものだ。
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