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王都キャリントン侯爵家7

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テレンスがアルフレッドの側近候補になったのは未だ八歳の時。当時、テレンスを含め候補者は五人いた。五人の内、公爵家出身はジョイスだけ。残りは侯爵家と伯爵家から二人ずつという構成だった。

ジョイス以外の四人は子供ながらに何となく察していた。争う席は一席しかないのだと。子供だったので『出来レース』や『事前に示し合わせた』などという言葉は当然知らない。けれど有力貴族家の子供達、雰囲気を察することは十分出来たのだった。

そして二年後、テレンスは側近レースの勝者となった。正式にアルフレッドの側近に選ばれたのだ。当然、もう一席はジョイスのものだったが。

テレンスにとって意外だったのは、ジョイスが全てをそつなくこなすことだった。仮令公爵家とはいえ、ジョイスは三男。長男のスペアとして育てられてきたテレンスよりは劣るだろうと思っていたのに、そんなことはなかったのだ。寧ろ、馬術や剣の腕はなかなかだった。しかし、当時のテレンスは、体を使うことに関しては一年早く生まれたことが有利に働いているだけだと思っていた。

そうではないと知ったのは、数年後。何かの折にジョイスが言ったのだ、『俺は三男だから、騎士になり国を守ろうと思っていたんだ』と。裏付けるかのように、ジョイスは様々な努力をしていた。その中には、馬の世話までも。『馬の体調管理や、馬具の扱いも出来たに越したことはない。特に鐙の長さの調節は重要だから』と言いながら、手際よく行う姿に当時のテレンスは非常に驚いたのを覚えている。

側近に選ばれた時、テレンスは自分が勝者になったのだと思った。しかし、ジョイスの実力を知れば知る程その自信は揺らいで行ったのだった。


そして今回のこの重要な局面でアルフレッドが指名したのはジョイス。
『国から特使を派遣するにも、今のままでは無理だ。話し合う内容によって、誰を向かわせるか考えなくてはならないのだから。しかし、俺があんなことをした以上どう動くべきか…。ただ、鍵を握るのは間違いなくパートリッジ公爵。悪いが、ジョイス、おまえなら同じ公爵家ということで頭を下げて協力を取り付けられる可能性がある』

アルフレッドの言い方はジョイスが公爵家の人間だからのように聞こえた。けれど、テレンスには分かる。馬を早く走らせることが出来る上に剣も十二分に握れるジョイスだからこそ選ばれたのだと。更にはパートリッジ公爵とも物怖じせず、しっかりと話が出来るだろうとアルフレッドが認めているからだ。

あの会議の二日目、ジョイスはアルフレッドに自分達側近を切り捨てることを躊躇うなと言った。それは幼い日にジョイスが言った国を守る為であることは明らか。
テレンスは怖いのだ、自分を犠牲にすることを躊躇わずアルフレッドに進言出来るジョイスが。何より、ジョイスなら国の為に隣国で成果を上げてしまいそうで。

勿論テレンスも、国の為にはジョイスが良い結果を持ち帰ることが好ましい。けれど怖くてしょうがなかった、その時不要になるのはテレンスだけなのではないかと思えて。

既にアルフレッドの心は決まっている。本来は下げてはならない頭に、言ってはいけない謝罪。その二つを用いて、アルフレッドは一連のことが片付いたら、ジョイスとテレンスを側近から外すと。

でも、もしも、ジョイスの優秀さにアルフレッドの後ろ髪が引かれたら。公には未だ通達していないことだからと、テレンスだけを側近から外せばいいと思い直さないだろうか。

スカーレットへの手紙はテレンスの策だったのだ。返事を貰うことでスカーレットから許され、それによりアルフレッドからも礼を言われるのではないとかという。自分可愛さからの謝罪。そしてこれは自分可愛さから生まれた恐怖への策だった。
テレンスだけが取り残されない為の。

『テレンス様が守るのは殿下でしょうか、それとも殿下と殿下がいつか治める国でしょうか?』
再びあの日のスカーレットの言葉がテレンスの頭に響いた。

「スカーレット、ごめん、俺は殿下の側近である自分の立場を守ってきた、ごめん、あんなに優しかったスカーレットを沢山傷つけて」
知らず知らずのうちに、テレンスは小さな声で呟いていた。
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