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話は戻って、ドミニク達が出立した日のこと。薫は改めてケビンとノーマンの能力に感心していた。

「ねぇ、あなた達は天候の勉強もしてきたの?」
「勉強というより、今まで覚えてきたことを応用しています」
「でも、それは地域毎によね?だって、海の近くと山では傾向が違うでしょ」
「そうですね、地域や時期によって違いがあるのは当然なんで、それぞれ覚えていますよ。特にキャストール侯爵領に関しては細かく」
「凄いわ。じゃあ、その年の傾向とかも分かるのかしら?例えば、いつもよりも雨が多そうとか、気温が低そうだとか」
「分かるとまではいきませんが、予測はします。地域毎の予兆も覚えているので、それも加味して。例えば水仙の花の開花期間で暑さを、沢付近のシダ類の生育で雨の期間をといった具合に。俺達は天候を味方に付けた方が何倍も有利に活動できますから」

二人の話を聞きながら、薫は成る程と理解した。足が泥濘に取られれば動き辛い。異常な暑さは疲れやすくなる。確かに、天候を味方に付けた方が彼らは活動しやすかったことだろう。しかもその指針としている植物は自生地が水辺の近くだったり、高い湿度を好むものだったりと押さえておくべきところはしっかり押さえているのだ。
流石間諜、侮れない。

衛星技術が発展している前世でも、過去の統計を用いて『晴れの特異日』や、桜の標準木から開花予想などがあったのだから、彼らの予測方法は的を射たものなのだろう。

早朝から降り続いた雨はケビン達が予想した通り、時間を追う毎に強さを増している。向かった方向は違っても、空と雲の様子からドミニク達も騎士達も早めにここを出立して正解だった。

「これなら皆無事に目的地までの距離を稼げたわよね」
「そうですね、大丈夫だと思います。それにこの風の強さならこの雨は今夜中には止みます。雨雲の下から早めに離れれば、後は足元だけを注意すれば大丈夫でしょう」
「じゃあ、次のゲストの道中には影響はないわね」
「はい。道への影響は二、三日もすれば落ち着くはずです。長距離移動馬車が動くまで、町の宿泊所は延泊客だらけでしょうね」

国境検問所はドミニク達が通過してから一時間後くらいに安全の為通行止めになったと報告を受けている。本当にケビンとノーマンの能力には感謝しなければ。

「キャロルさんは今日と明日は館の中で過ごして下さい」
「どうして?雨は夜には止むのよね?」
「だからです。私兵達も勿論警戒しますが、暴風雨で視界が悪くなるからこそ、山を抜けてファルコールへやって来る者の可能性が高まります。そういう者もまた天気には詳しいですから」

しかし、実際にファルコールの館に深夜やって来たのは天気に詳しくない人物二人。しかも、一人は怪我人、もう一人はまさかの人物だった。本来ならば館への通行は私兵達に阻まれる。しかし、ファルコールの私兵ですら知るその家紋を見せられては、お帰りいただくことが出来ない人物だったのだ。
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