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その夜、ケレット辺境伯領からやってきたドミニク達五人とスカーレットの従者二人は今後の話し合いをしたのだった。

「あの儚げな美貌に騙された。そうだよな、スカーレットはとんでもない状況下でも貴族学院で過ごし続ける程豪胆だった。マーカム子爵が来るからと身を隠すような女じゃなかったよ」
「実は前日マーカム子爵への挨拶は不要だと話したばかりだったので驚きました。でも、お嬢様の言う通りですね、偶然を装ってマーカム子爵に出くわされるよりは、平然とした態度で先にこちらが挨拶へ行くほうがいいというのは」
「どんな面白い挨拶になったか、後で必ず教えてくれよ。本当は俺がお供したいところだけど」
「確かに、彼女なら年上の子爵相手でも物怖じせず、自分の意見をしっかり伝える挨拶?をしそうだ」

従兄とはいえ、ドミニクもスカーレットに会うのは十年振り。その長い年月は、可愛らしかった女の子を美しい淑女へ変えたと思っていた。しかし、それは違っていたようだ。確かに見た目だけならば、昔の可愛いスカーレットの面影を残しながらそれはそれは驚くほどの美人になっている。しかし、淑やかかと聞かれれば『はい』の姿の偽装が大得意なだけで、本質は『いいえ』が勝るといったところだろう。でなければ、この国境沿いの町、ファルコールにはやって来ない。しかも、ここで自ら商売を始めようなど思いもしないはずだ。

そしてスコットが評したように、誰に対しても自分の意見を言える芯の強さも持っている。言うだけではなく、考えを実行しようとする行動力も。
思い返してみれば、馬のことだってそうだ。スカーレットはいざという時は自分で馬の手綱を握る覚悟をしている。誰かに助けてもらうのではなく、自力でなんとかしようと。そこに至るまでは助けを求めたとしても、最後は一人でなんとかすべきだと考えているのだ。
見た目に反して何て強い女性に育ったのだろうとドミニクは改めて思ったのだった。

「スカーレットなら、うちの国の第二王子とちょうどいいんだよな…」
だからついドミニクの口から洩れてしまったのかもしれない、自国の王族の妃として迎えたいと。

「残念ながらお嬢様は、男女のことよりも今はホテル運営やスコット様を迎えての施設運営などファルコールの発展の方に重きを置いているようです」
「だよな、キノコやらハムにも力を入れているみたいだし。しかし色々勉強していたんだな。この国の王子は何を見ていたのか聞きたいよ。うちの国の王子ならちゃんとスカーレットを評価出来ると思うが。ケビンとノーマンには言っておくが、本当に国を出る時はうちの第二王子あたりがいいと思うぞ」
「心の片隅に留めておきます。ところで皆様、恐らく明日は早めにここを出発された方がいいと思います。風の向きと強さから天気が大きく崩れるでしょうから」
「そうだな、昼過ぎにはケレット辺境伯領へ向かう道も馬の脚が取られやすくなりそうだ」
「キースさん達は最初の内は飛ばした方がいいでしょう。道の傾斜が緩やかになるあたりまで進めば、天気もそこまで酷くないと思います」
「ケビン殿、アドバイスをありがとうございます」

ケビン達が心配する予想される天気の大きな崩れ。それがまさか次の訪問客をここに連れてきてしまう切っ掛けになるとは誰も思わなかった。
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