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深刻そうな表情のキースに、一体何をお願いされるのかと薫は身構えた。
しかし、お願いの内容はキースの為人を表すようなものだった。
一つ目は恋人のサラに、ここで仕事を与えて欲しいというもの。キースは卵料理が好きなので、特に料理の手伝いをサラにさせてもらえないかと申し出たのだ。
「ありがとう。皆さんがいらしたら、確かに食事作りには人手が欲しくなるから寧ろありがたいわ」
「勿論、ホテルが稼働している時はそちらの手伝いも」
「そこは遠慮しておくわ。ホテルの清掃とかは町の方にお手伝いに来てもらっているの。彼らにとっては臨時の収入源になっているから。それに、隣とはいえ、他国に来ること自体サラさんには大変なことよ、まずは馴染んでもらう方が先。仕事は程々にね」
「ご配慮、ありがとうございます。それと…」
キースが本当に言いたかった願いは、初日に薫とスコットがしていた話のことだった。サラにも怪我の処置等を習わせて欲しいというのだ。
「騎士の役目には危険が必ず付いてきます。俺が万が一の時に、サラが生きていく為の術はいくらあっても困りません」
「キースさん…、勿論よ、是非サラさんにも学んで欲しいわ」
「ただ、当然のことながらサラはこの国の民ではありません。他国の者に教養を与えることが難しいようならば、勿論諦めます」
「何を言っているの。そもそも、教えてくれる先生はスコットさんを予定しているのに。それにね、今迄同様二つの領が仲良くしているというアピールの為にもサラさんには学んでもらいたいわ。ね、そう思うでしょ、ドミニク?」
「ああ、良いと思う。俺からも父上にキャロルの考えを含めて伝えておくよ。スコットをここへ送るのは癪に障るけどな」
「わたしの計画にスコットさんは絶対に必要なの。よろしくね、ドミニク」
楽しい、そして建設的な話が出来た夕食の後、薫はケビンとノーマンに加えドミニクにも参加してもらってのお茶をこの日は行った。
「三人の滞在費用は言い値で請求してくれ。あいつら結構食うから」
「本当にいらないわ。その代わり、馬を二頭にしてもらえないかしら?出来れば雌雄で。だって、一頭だけじゃ可哀そうだもの」
「分かった。四歳過ぎあたりの馬を用意しよう。丁度これから日が長くなるから、上手くいけば繁殖する」
「ありがとう。仔馬が生まれたのなら勿論ケレット辺境伯領へ戻すわ。気の長い話だけど、二頭の相性が良くて二頭目の仔馬が生まれたらその子も」
「いいのか、折角の仔馬を」
「ええ。そちらで調教してもらうほうがいいもの。その代わり、三頭目が生まれたら、また大人の馬を二頭もらえないかしら」
「なかなか上手いことを考えるな。三頭の当歳馬で二頭の古馬か。こちらとしても悪くない」
「だって、隣り合う領として仲良くしないとね。その為にはお互いにとって良い条件でないと。それでね、スコットさんやサラさんを含めて、今後ケレット辺境伯領の方がこちらに長期滞在することになるわ。だから、わたし、マーカム子爵がやって来たら、スカーレットとして挨拶へ行ってくる」
薫の言葉に予想通り正面にいるドミニクは不服そうな表情になった。恐らく後ろに控えているケビンとノーマンは表情を変えないまでも、どうして態々自ら乗り込むのだと思っていることだろう。
「分かっているわ。マーカム子爵への挨拶など不要だと皆が思っていることは。でもね、爵位をお持ちの貴族にはわたしの面は割れている。ドレスを着て着飾っていなくても、ファルコールでマーカム子爵に出くわせばすぐに気付かれるでしょ。それを避ける為に行動範囲が狭まるくらいなら、先に挨拶へ行くわ。そして、言う、わたしはここでスカーレットとしてではなく、キャロルとして第二の人生を歩み始めたと。堂々と国境を行き来する為にもね」
そう、スカーレットは何も悪いことなどしていない。どこぞの侯爵の息が掛かった子爵に動向を観察されるなんてまっぴら御免だと薫は思ったのだ。
それだったら、キャロルとして生活しているので、それを侵害するなと侯爵令嬢の立場で言えばいいと思ったのだった。
しかし、お願いの内容はキースの為人を表すようなものだった。
一つ目は恋人のサラに、ここで仕事を与えて欲しいというもの。キースは卵料理が好きなので、特に料理の手伝いをサラにさせてもらえないかと申し出たのだ。
「ありがとう。皆さんがいらしたら、確かに食事作りには人手が欲しくなるから寧ろありがたいわ」
「勿論、ホテルが稼働している時はそちらの手伝いも」
「そこは遠慮しておくわ。ホテルの清掃とかは町の方にお手伝いに来てもらっているの。彼らにとっては臨時の収入源になっているから。それに、隣とはいえ、他国に来ること自体サラさんには大変なことよ、まずは馴染んでもらう方が先。仕事は程々にね」
「ご配慮、ありがとうございます。それと…」
キースが本当に言いたかった願いは、初日に薫とスコットがしていた話のことだった。サラにも怪我の処置等を習わせて欲しいというのだ。
「騎士の役目には危険が必ず付いてきます。俺が万が一の時に、サラが生きていく為の術はいくらあっても困りません」
「キースさん…、勿論よ、是非サラさんにも学んで欲しいわ」
「ただ、当然のことながらサラはこの国の民ではありません。他国の者に教養を与えることが難しいようならば、勿論諦めます」
「何を言っているの。そもそも、教えてくれる先生はスコットさんを予定しているのに。それにね、今迄同様二つの領が仲良くしているというアピールの為にもサラさんには学んでもらいたいわ。ね、そう思うでしょ、ドミニク?」
「ああ、良いと思う。俺からも父上にキャロルの考えを含めて伝えておくよ。スコットをここへ送るのは癪に障るけどな」
「わたしの計画にスコットさんは絶対に必要なの。よろしくね、ドミニク」
楽しい、そして建設的な話が出来た夕食の後、薫はケビンとノーマンに加えドミニクにも参加してもらってのお茶をこの日は行った。
「三人の滞在費用は言い値で請求してくれ。あいつら結構食うから」
「本当にいらないわ。その代わり、馬を二頭にしてもらえないかしら?出来れば雌雄で。だって、一頭だけじゃ可哀そうだもの」
「分かった。四歳過ぎあたりの馬を用意しよう。丁度これから日が長くなるから、上手くいけば繁殖する」
「ありがとう。仔馬が生まれたのなら勿論ケレット辺境伯領へ戻すわ。気の長い話だけど、二頭の相性が良くて二頭目の仔馬が生まれたらその子も」
「いいのか、折角の仔馬を」
「ええ。そちらで調教してもらうほうがいいもの。その代わり、三頭目が生まれたら、また大人の馬を二頭もらえないかしら」
「なかなか上手いことを考えるな。三頭の当歳馬で二頭の古馬か。こちらとしても悪くない」
「だって、隣り合う領として仲良くしないとね。その為にはお互いにとって良い条件でないと。それでね、スコットさんやサラさんを含めて、今後ケレット辺境伯領の方がこちらに長期滞在することになるわ。だから、わたし、マーカム子爵がやって来たら、スカーレットとして挨拶へ行ってくる」
薫の言葉に予想通り正面にいるドミニクは不服そうな表情になった。恐らく後ろに控えているケビンとノーマンは表情を変えないまでも、どうして態々自ら乗り込むのだと思っていることだろう。
「分かっているわ。マーカム子爵への挨拶など不要だと皆が思っていることは。でもね、爵位をお持ちの貴族にはわたしの面は割れている。ドレスを着て着飾っていなくても、ファルコールでマーカム子爵に出くわせばすぐに気付かれるでしょ。それを避ける為に行動範囲が狭まるくらいなら、先に挨拶へ行くわ。そして、言う、わたしはここでスカーレットとしてではなく、キャロルとして第二の人生を歩み始めたと。堂々と国境を行き来する為にもね」
そう、スカーレットは何も悪いことなどしていない。どこぞの侯爵の息が掛かった子爵に動向を観察されるなんてまっぴら御免だと薫は思ったのだ。
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