オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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「さて、ここからは聞かなかったことにしてもらいたい話なんだが」
スコットをファルコールへ招きたい理由、これからの展望を話し終わった段階で薫は夕食をお開きにしようと考えていたのだが、ドミニクからまさかの引き止めが入ってしまった。

「聞かなかったことではなく、聞かなくていいわ」
「いや、その内どうせキャロルも知ることだ。それならば、今知っておいてもらった方が良いかもしれない」
ドミニクの目がほんの一瞬だけケビンへ向かう。顔の向きは薫を見たまま。
薫は敢えてそのことに気付かない振りをして話を聞く心構えをした。何故なら、ドミニクがケビンを見たということは、キャスト―ル侯爵家ないし国防に関わることだろうから。
そしてそれは、薫がうっかり尋ねてしまった騎士達がここに来た理由にも繋がることなのだろう。

「この三人は一月以内にファルコールへ再びやって来る。その為の滞在許可を取りに、ここで三泊したら王都へ向かう。今まで国境警備はキャスト―ル侯爵家と俺の家、ケレット辺境伯家が親戚ということもあり双方で協力しながら役割を果たしていたが、今後ファルコールの国境警備はキャスト―ル侯爵家から国へとその役割が受け継がれることになった」
ああ、そうかと薫はスカーレットの記憶を辿った。

スカーレット達の母とドミニク達の母は隣国の公爵家の姉妹。二人は政治的な思惑で敢えて隣り合う領地を治めるキャスト―ル侯爵家とケレット辺境伯家へ嫁いだ。姉は妹より爵位の低い家に嫁ぐが、自国。妹は他国という状態で。
それは不文律ではあるが、双方が親戚付き合いをすることで上手く国境を治めていく為の策だった。

二国間に大きな問題はなくとも、国境沿いは兎角『何か』が起きやすい。密輸組織や人身売買組織、時には両国間の安定を壊すことで利益を得ようとする第三国もある。
だからこそ国境を守る両家を結び付かせたのだ。親戚同士ということで、国境線を守る情報を共有しあい合同訓練も出来るように。

王家がスカーレットをアルフレッドの婚約者に望んだのも、これが理由の一つだった。
しかし、王家から望んだスカーレットをアルフレッドがあんな風に大々的に婚約破棄したということは、両国の間に波風を立たせたようなもの。婚約破棄の状況から隣国がそう受け取ってもおかしくない。
それでも二人の婚約は国が決めた重要なこと、隣国とてアルフレッドがあそこまでしたからには何か理由があったのではと調べたに違いない。

ところが、調べて分かったのは、貴族学院でのアルフレッド達のスカーレットへの態度、それも理不尽な。そして、隣国は既に貴族学院自体がスカーレットを陥れようとしていたのではないかと思える状態だったことも掴んでいるのだろう。
だからここに三人の騎士がいるということだ。

「ドミニクの話だと、今後ファルコールに国から騎士が派遣されてくるということかしら?」
「まあ、それが普通の考えだけど、今回は違う。国がキャスト―ル侯爵家に警備依頼をすることになった」
「ということは、今迄キャスト―ル侯爵家が負担していた費用を国が負担するということね」
「うん、そういうこと。キャスト―ル侯爵家の私兵は準騎士扱いで、配属はファルコールのままになる。もしも、本人が騎士になることを望めば試験を受けることも出来る。但し、騎士になった場合は配属先が国によって決められるようになるわけだけど。ただ彼等をまとめる役人が国から派遣される」
「国から?」
「ああ、代官所兼国境検問所のうち国境検問所も国が運営することになったらしい」
「なんだ、ドミニクはわたしに会いに来たのではなく、ファルコールの偵察に来たのね」
「そんなことはない、キャロルが一番だよ。ついでに、この三人の今後の整備をしに来ただけ」
「ねえ、ケレット辺境伯家の騎士が滞在許可を取るということは、身元引受保証人はキャスト―ル侯爵よね?」
「当たり」
「じゃあ、騎士の皆さん達にはここに住んでもらえばいいじゃない。部屋は余っているもの」

本来のスカーレットならば言わないであろうこと。しかし、アラフォーの薫はおばちゃん的お節介で三人の騎士にこの館に住むよう提案したのだった。
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