上 下
5 / 586

しおりを挟む
会社を三代目社長が潰す、とはよく言ったものだ。四代目を入社させたのだから、せめて継がせられるように経営すべきなのに。
それなのに社長を含め使えない人間が十人以上いる。が、誰も辞めさせられない。なぜってみんな仲良く親族だから。
働かないくせに高給取り。
気付けば、いや、気付かない内に、薫は企画・営業・時折経理と、会社の柱となっていた。それも数年で。

三十才という区切りで会社に見切りをつけようとしたが、それも叶わず。と言うより、学生時代からの付き合いである社長の息子に絆されてしまった。簡単に騙されてしまったのだ。

ヤツは言った、自分の代になったら親族をどんどん排除して健全な経営を目指したいのだと。だからこそ薫の力が必要不可欠。その為にもずっと傍にいて欲しいと言われたのだ。
しかも縋るような声音で、薫に願った。会社での全ての役割、それどころか自分を諭す姉であり、甘えてくれる妹であり、最高のパートナーであって欲しいと。確かにそう言った。そして確かに言っていない。彼女や恋人という言葉は。けれど絆されてしまった。アルコールも手伝ったのかもしれないが、朝が来たときには三十過ぎにして薫は未通女ではなくなった。
最高のパートナーは都合の良い女というルビがふられる。早々に気付いたというのに、流石都合の良い女、そのポジションを八年も死守してしまった。

誰も奪おうとしないポジションなのに死守していたなんて笑える話だ。
その間、なんとヤツは結婚をした。すぐに離婚したが。更にその後、会社に派遣で来ていた子に手を出し、社員にしてしまうという暴挙にもでた。

社内ではその元派遣社員の女性を筆頭に薫の謂れようは散々。ひと昔前に英国に居た鉄の女と呼ばれる政治家に擬え、オリハルコンの処女とかオリハルコンのお局処女と陰口をたたかれた。
何を言われようと薫は黙々と働き、逃した三十歳という区切りを四十歳という区切りで取り返そうと日々を送っていたのだった。

しかし、会社を辞める前に生きることを止めてしまったようだ。死因も何があったのかも思い出せないが。
いいように使われて、働くだけだった毎日。まあ出張は土日の前に組んで日本のあちこちを旅行したことは薫のちょっとした報復だった。

死んだことはもう元には戻らない。けれど、スカーレットに拾われ、スカーレットの肉体に入った薫の魂。お金に困らない裕福な侯爵家の娘で、こんなに心も顔も綺麗な女性になれたのだ、これからの人生を楽しみながらスカーレットの希望を叶えてあげたいと薫は思った。

この世界に来る前は馬車馬のように働かされて、若い子達から散々馬鹿にされて。何より、社会に出てからは薫しかいないというヤツに絆され食い物にされた人生だった。
だからこそ、薫はその経験を逆手にとってやっていける気がしたのだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています

猫屋ちゃき
恋愛
 侯爵令嬢イリメルは、ある日婚約者であるエーリクに「きみは強いからひとりでも平気だよね?」と婚約破棄される。彼は、平民のレーナとの真実の愛に目覚めてしまったのだという。  ショックを受けたイリメルは、強さとは何かについて考えた。そして悩んだ末、己の強さを確かめるためにモンスター討伐の旅に出ることにした。  旅の最中、イリメルはディータという剣士の青年と出会う。  彼の助けによってピンチを脱したことで、共に冒険をすることになるのだが、強さを求めるためのイリメルの旅は、やがて国家の、世界の存亡を賭けた問題へと直結していくのだった。  婚約破棄から始まる(?)パワー系令嬢の冒険と恋の物語。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

処理中です...