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旦那様を好きになる…なんて、妊娠が判明した頃は思っておりました。
が、陣痛が襲ってきた今、わたくしにこんな痛みを植え付けた旦那様が少し憎いです。種だけほいほい蒔いて、その後のお世話から刈り取りまでは全てわたくしとは。

しかも、この部屋にはお産婆さんやメイド達が出入りするということで旦那様は近寄りもしません。代わりに、いいのでしょうか、宮廷医であるフレデリク様がずっと控えて下さっています。何人も取り上げたことがある経験豊かなお産婆さんに、宮廷医のフレデリク様。わたくしの出産は大船に乗ったようなものです。

しかし、乗っているわたくしは大したことはありませんでした。
うまくいきめないのです。
「助けて、フレデリク!」
右手はフレデリク様、左手は侍女のイーダが手を握りしめさせてくれました。

お産婆さんが頭が出たからもう少し頑張ってと励ましてくれた時には、利き手でない左手側のイーダが小さな悲鳴をあげました。ごめんなさい、イーダ、わたくしは他の令嬢より左手だとしても力があります。利き手側のフレデリク様は…もうどうでもいいです。

それくらい無我夢中でした。


生まれたのは女の子。お産婆さんは一仕事の後で頭が追いついていなかったのでしょう。フレデリク様は見て、お父様と同じ黒髪ですよと声をかけていました。
違います、その方はお父様ではなく、叔父様です。

でも、今はそんなことなど些事にすぎません。わたくしは宝物を授かりました。憎いと思ってしまった旦那様に感謝しなくては。ついでに変な方法でここまで導いてくれたフレデリク様にも。

お産婆さんが更なる間違いを犯してしまうかもしれませんが、わたくしはフレデリク様に向かって『ありがとうございます。』と申し上げました。
結局、本当のお父様であるトビアス様が娘を手にしたのは数日経ってからです。勿論素肌ではなく、手袋をつけて。しかも、フレデリク様が見守る中。

スティナと名付けられた娘はすやすやと眠っています。眠っているということは、無闇矢鱈と動きません。旦那様が抱っこするには今がチャンスでしょう。

スティナの頭にはまだ薄ら程度の黒髪。旦那様も黒髪ですが、どうして一方は天使のように見え、もう一方は悪魔のように見えるのでしょう。なんて、思ってしまったわたくしが悪いのでしょうか。天使が悪魔に取り込まれないよう、抱かれた瞬間に渾身の力で泣き出しました。

スティナの可愛らしい口から唾の泡が。大丈夫でしょうか、旦那様。

「旦那様、スティナを戻して下さい。」
旦那様は素早くわたくしにスティナを戻して下さいました。

おしめが汚れたのか、お腹が空いたのか。さて、どちらでしょう。
スティナのお尻付近を触れると生温かくはありませんでした。急に動かされてご機嫌斜めになってしまったのでしょう。抱っこをしながらあやしていると、小さな手が一生懸命お乳の付近に伸ばされてきました。

「申し訳ございません。お二人とも少しの間退出していただけますか。スティナにお乳をあげたいので。」
「僕は気にしないので授乳をして下さい。乳を飲むスティナの様子も確認したいですし。ラケル様の乳の出具合も知りたいので。出産前に乳頭と乳輪のマッサージをしたんですから今更気にすることはないですよ。」
「わたしもスティナの育生を観察しても構わないだろうか。」

フレデリク様はお医者様。今まで何度もそう思うことで、針を打たれるのも、出産前の母乳の為のマッサージも受け入れてきました。
でも、本当はいくらお医者様でも恥ずかしいものは恥ずかしいのです。
旦那様にだって痴態を散々見られてはいますが…やっぱり恥ずかしいです。

「あの、お乳をあげる時はリラックスしてあげたいのでご退出願います。落ち着かなくて、出が悪くなるといけませんし。」
「でしたら、尚更観察します。出が悪いようでしたら、今度からは出が良くなるようおっぱいマッサージもしますよ。」
(うっ)

わたくしとしたことが墓穴を掘ってしまったようです。思わず声にならない呻き声をあげてしまいました。
ここはもう、二人に背を向けてスティナにお乳をあげるしかないようです。

スティナがお乳をしっかり飲んで、ゲップを出すまでフレデリク様はお医者様の目で観察して下さりました。いえ、そう思うことに致しました。そうでないと、わたくしはこんな体勢で気が触れてしまいます。

「ラケル様、今度から時間がある時はおっぱいマッサージもするようにします。」
「えっ、そんなフレデリク様にそこまでお願いするのは…」
「ラケル、フレデリクの厚意に甘えよう。スティナは乳を随分飲んでいた。出なくなったら困るだろう。」

そうでした、スティナには母乳を分けてもらう乳母を雇えないのでした。理由は、旦那様が我が子に他人の母乳を飲ませたくないからです。
となると、わたくしが母乳を出し続けなくては。
でも、マッサージは…

「あの、フレデリク様、自分でも出来るようになりたいので教えていただけませんか。」
「そうですね、そうしましょう。」


後日、わたくしは自分の浅はかさを知ることになりました。
わたくしとしては言葉で教えてもらうつもりだったのですが、フレデリク様は実技を交えて教えてくださりました。

「乳首の割れ目から滲んででてきましたね。さあ、スティナ、ラケル様の乳首に吸い付いてご覧。」
フレデリク様が丹念に揉んで下さったので、吹き出しそうな程母乳が溢れてきました。

「フレデリク、わたしもラケルの母乳を飲んでみたいのだが。わたしの血を分けたスティナがあんなに美味そうに飲んでいるんだ、安全を確認する為にも口に入れてみたい。」
「え、旦那様、お乳を飲むには直接口をつけないとなりませんよ。」

潔癖症の旦那様からとは思えない発言にわたくしは驚きを隠せません。
ん?でも、もっと驚かなくてはいけないことがありました。三十近くの旦那様がお乳を飲みたいだなんて…。ここは、潔癖症であることをしっかりとアピールして諦めてもらいましょう。

わたくし達が性交を行う時はフレデリク様がお邸にいる時、というのもその為なのです。過度の潔癖症の旦那様が性交中に過呼吸等の体調不良や気分が悪くなってしまった時に備えて下さっていたのです。
そんな不安があるような旦那様がお乳を飲むなんて…

「お乳に危険はないと思いますが、旦那様が乳首を咥える行為は大変危険です。」
「いや、ラケル様、もしかしたらこれは荒療治になるかもしれません。」

何を言い出すやら、腕の良い宮廷医様の考えることは一般人には計り知れません。結局いつものように、行うことが前提で話が進んでいきました。

エークルンド家に嫁いで一年以上。わたくしも旦那様とフレデリク様の為人を随分と学習しましたもの、存じております。お二人はこうと思ったことは進めるのを前提にお話しされます。
ですからわたくしがうだうだと話を引き伸ばしても、旦那様がお乳を吸うのは決まりでしょう。
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