29 / 45
あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング3
しおりを挟む
オスカーがイザベラに仕える前に聞いていた噂の全てが似たり寄ったり。
十二歳なのに既に王女気取りで我儘な公爵令嬢。
身に着けるもの、口にするものは全てが最高の物でそれを当たり前のように欲する令嬢。
使用人とは口もきかず、全て思いのままに整えてもらわなければ当然のように癇癪を起す。言葉の代わりに鞭を使い、恐怖のあまり職を辞した使用人の数は数多に上る。
任命された当時、とんでもない令嬢の護衛を務めなくてはならない運の無さにオスカーはがっかりした。剣を捧げるのだ、その主には崇高な人物であって欲しい。時には命を賭すのだから。
しかしオスカーは、根も葉もない噂という言葉自体がどうして存在するのかを職に就いて直ぐに理解した。
十二歳の少女が数多の使用人を辞めさせるなど出来ようがないことを、何故人は実しやかにこそこそと噂するのか。普通に考えれば十二歳の少女にそんな権限などない。出来たとしても、自分の身近に仕える本当に悪さを働く使用人に対してくらいだろう。親がまともであれば、当然辞めさせるにあたって証拠なども求めるだろうし。
現にイザベラの周囲にいる使用人達は誰一人として新に雇われた者はいなかった。それは、誰も辞めていないことを意味する。
噂が事実から一人歩きし、時には暴走を始める。
オスカーがそれを理解するのに時間など必要が無かった。
『イザベラ様はいずれ王妃になられるのですものね、羨ましいわ』
心にも思っていない令嬢達からの言葉。
『国の為に何が出来るかしっかり学びなさい』
国の為と言いつつ、公爵家の未来をイザベラに投影させる父。
『淑女としての行動を常にとるように』
イザベラを生み育てた自分が一番の功労者と思っている母。
どんなに悪意や欲が込められた言葉を投げかけられても、イザベラはその美しい顔を曇らせることなく受け流すだけ。十二歳でこうなるには、どのような『今まで』を過ごしてきたのか、オスカーには想像もつかなかった。
ただ良く分かったのは、どうしてイザベラが我儘で傲慢な令嬢だという噂が囁かれるようになったのかだ。
公爵も公爵夫人もイザベラには最高の物・教育を本人が望むままに与えていると話す。それは公爵家の財力を誇る為でもあるが、同時に隣国の王へ最大の気遣いをしていると思わせたかったからだ。
合わせて自国の王へも恩を売る為に。隣国へもその話が伝わるには声を大にする必要があった。
『イザベラ様のお心を守って差し上げて』
イザベラ付きの侍女達は若くて話しやすいオスカーに繰り返しその身だけではなく心も守るよう訴えた。皆、イザベラの未来がどういうものであるのかを知り心を痛めていたからだ。
数か月もすればオスカーにも分かった。イザベラは公爵家と国にとって非常に都合の良い人形なのだと。
侍女達は『心を守って』と言ったが、美しい人形のイザベラに人間としての心がそもそもあるのかオスカーは疑問を持たずにはいられなかった。
血が流れ、体温がある人形。
そんなイザベラの人間としての微笑みを見たいと思い、オスカーは傍に立つ時は家に咲く花や世話をする馬の話を独り言のように語って聞かせた。
勿論独り言に返事はない。それでも、オスカーの声では小鳥の囀り等という可愛らしさがなくても心に何かが残ってくれればいいと思いながら続けたのだった。
イザベラが十四歳の時だった、婚約者の王が崩御したのは。
葬儀に参列すべくイザベラは国の使節団と共に旅立った。迎えてくれたのは即位したばかりの新たな王。婚約者の王が崩御しなければ来年にはイザベラの義理の息子となる人物だった。
新たな王は使節団からの書簡にイザベラを哀れに思わずにはいられなかった。高貴な身分の令嬢でありながら、まるで人身売買の商品のような扱い。書簡は平たく言えば、気に入ったら妻に迎えて欲しいというものだった。
*******************
ご訪問、ありがとうございました。
*まだ会社務めをしていたころ、ビジネス書を勧められ読んだものの中にパラダイムの転換だったかな、そんな言葉があったのを思い出しながらポチポチキーボードを打っています。
サフィールの話の時にはジャーナリストの方の話を思い出しながらでした。目の前で起きていることをそのまま伝え続けるか、事実を曲げても手を差し出すべきか、そんな話だったと思います。
十二歳なのに既に王女気取りで我儘な公爵令嬢。
身に着けるもの、口にするものは全てが最高の物でそれを当たり前のように欲する令嬢。
使用人とは口もきかず、全て思いのままに整えてもらわなければ当然のように癇癪を起す。言葉の代わりに鞭を使い、恐怖のあまり職を辞した使用人の数は数多に上る。
任命された当時、とんでもない令嬢の護衛を務めなくてはならない運の無さにオスカーはがっかりした。剣を捧げるのだ、その主には崇高な人物であって欲しい。時には命を賭すのだから。
しかしオスカーは、根も葉もない噂という言葉自体がどうして存在するのかを職に就いて直ぐに理解した。
十二歳の少女が数多の使用人を辞めさせるなど出来ようがないことを、何故人は実しやかにこそこそと噂するのか。普通に考えれば十二歳の少女にそんな権限などない。出来たとしても、自分の身近に仕える本当に悪さを働く使用人に対してくらいだろう。親がまともであれば、当然辞めさせるにあたって証拠なども求めるだろうし。
現にイザベラの周囲にいる使用人達は誰一人として新に雇われた者はいなかった。それは、誰も辞めていないことを意味する。
噂が事実から一人歩きし、時には暴走を始める。
オスカーがそれを理解するのに時間など必要が無かった。
『イザベラ様はいずれ王妃になられるのですものね、羨ましいわ』
心にも思っていない令嬢達からの言葉。
『国の為に何が出来るかしっかり学びなさい』
国の為と言いつつ、公爵家の未来をイザベラに投影させる父。
『淑女としての行動を常にとるように』
イザベラを生み育てた自分が一番の功労者と思っている母。
どんなに悪意や欲が込められた言葉を投げかけられても、イザベラはその美しい顔を曇らせることなく受け流すだけ。十二歳でこうなるには、どのような『今まで』を過ごしてきたのか、オスカーには想像もつかなかった。
ただ良く分かったのは、どうしてイザベラが我儘で傲慢な令嬢だという噂が囁かれるようになったのかだ。
公爵も公爵夫人もイザベラには最高の物・教育を本人が望むままに与えていると話す。それは公爵家の財力を誇る為でもあるが、同時に隣国の王へ最大の気遣いをしていると思わせたかったからだ。
合わせて自国の王へも恩を売る為に。隣国へもその話が伝わるには声を大にする必要があった。
『イザベラ様のお心を守って差し上げて』
イザベラ付きの侍女達は若くて話しやすいオスカーに繰り返しその身だけではなく心も守るよう訴えた。皆、イザベラの未来がどういうものであるのかを知り心を痛めていたからだ。
数か月もすればオスカーにも分かった。イザベラは公爵家と国にとって非常に都合の良い人形なのだと。
侍女達は『心を守って』と言ったが、美しい人形のイザベラに人間としての心がそもそもあるのかオスカーは疑問を持たずにはいられなかった。
血が流れ、体温がある人形。
そんなイザベラの人間としての微笑みを見たいと思い、オスカーは傍に立つ時は家に咲く花や世話をする馬の話を独り言のように語って聞かせた。
勿論独り言に返事はない。それでも、オスカーの声では小鳥の囀り等という可愛らしさがなくても心に何かが残ってくれればいいと思いながら続けたのだった。
イザベラが十四歳の時だった、婚約者の王が崩御したのは。
葬儀に参列すべくイザベラは国の使節団と共に旅立った。迎えてくれたのは即位したばかりの新たな王。婚約者の王が崩御しなければ来年にはイザベラの義理の息子となる人物だった。
新たな王は使節団からの書簡にイザベラを哀れに思わずにはいられなかった。高貴な身分の令嬢でありながら、まるで人身売買の商品のような扱い。書簡は平たく言えば、気に入ったら妻に迎えて欲しいというものだった。
*******************
ご訪問、ありがとうございました。
*まだ会社務めをしていたころ、ビジネス書を勧められ読んだものの中にパラダイムの転換だったかな、そんな言葉があったのを思い出しながらポチポチキーボードを打っています。
サフィールの話の時にはジャーナリストの方の話を思い出しながらでした。目の前で起きていることをそのまま伝え続けるか、事実を曲げても手を差し出すべきか、そんな話だったと思います。
1
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?
雪乃
恋愛
ノースウッド皇国の第一皇女であり才気溢れる聖魔導師のアレクサは39歳花?の独身アラフォー真っ盛りの筈なのに、気がつけば9歳も年下の隣国ブランカフォルト王国へ王妃として輿入れする羽目になってしまった。
夫となった国王は文武両道、眉目秀麗文句のつけようがないイケメン。
しかし彼にはたった1つ問題がある。
それは無類の女好き。
妃と名のつく女性こそはいないが、愛妾だけでも10人、街娘や一夜限りの相手となると星の数程と言われている。
また愛妾との間には4人2男2女の子供も儲けているとか……。
そんな下半身にだらしのない王の許へ嫁に来る姫は中々おらず、講和条約の条件だけで結婚が決まったのだが、予定はアレクサの末の妹姫19歳の筈なのに蓋を開ければ9歳も年上のアラフォー妻を迎えた事に夫は怒り初夜に彼女の許へ訪れなかった。
だがその事に安心したのは花嫁であるアレクサ。
元々結婚願望もなく生涯独身を貫こうとしていたのだから、彼女に興味を示さない夫と言う存在は彼女にとって都合が良かった。
兎に角既に世継ぎの王子もいるのだし、このまま夫と触れ合う事もなく何年かすれば愛妾の子を自身の養子にすればいいと高をくくっていたら……。
連載中のお話ですが、今回完結へ向けて加筆修正した上で再更新させて頂きます。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】元悪役令嬢の劣化コピーは白銀の竜とひっそり静かに暮らしたい
豆田 ✿ 麦
恋愛
才色兼備の公爵令嬢は、幼き頃から王太子の婚約者。
才に溺れず、分け隔てなく、慈愛に満ちて臣民問わず慕われて。
奇抜に思える発想は公爵領のみならず、王国の経済を潤し民の生活を豊かにさせて。
―――今では押しも押されもせぬ王妃殿下。そんな王妃殿下を伯母にもつ私は、王妃殿下の模倣品(劣化コピー)。偉大な王妃殿下に倣えと、王太子の婚約者として日々切磋琢磨させられています。
ほら、本日もこのように……
「シャルロット・マクドゥエル公爵令嬢!身分を笠にきた所業の数々、もはや王太子たる私、エドワード・サザンランドの婚約者としてふさわしいものではない。今この時をもってこの婚約を破棄とする!」
……課題が与えられました。
■■■
本編全8話完結済み。番外編公開中。
乙女ゲームも悪役令嬢要素もちょっとだけ。花をそえる程度です。
小説家になろうにも掲載しています。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
完結 偽りの言葉はもう要りません
音爽(ネソウ)
恋愛
「敵地へ出兵が決まったから別れて欲しい」
彼なりの優しさだと泣く泣く承諾したのにそれは真っ赤な嘘だった。
愛した人は浮気相手と結ばれるために他国へ逃げた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる