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「殿下、お呼びとのことでしたのでこのような姿で御前失礼いたします」
「気にするな、呼び止めたのはこちらだ」

文官の制服姿ではあるものの、王族の前に出る時用ではないと記録官は謝罪と最敬礼をし、要件を聞き始めた。

「畏まりました。では、殿下とカリスター侯爵令嬢がなさったという会話の内容を記録しておきましょう」
「ありがとうございます。ランカラント子爵」
記録官のサフィール・ランカラントへ礼を伝えると、エミーリアはどうして記録を依頼することとなったのかことの経緯から説明を始めた。

「殿下、今の内容に間違いは無いでしょうか。無いようでしたら、先ほどおっしゃったことを再度ランカラント子爵へお伝え下さい」

記録官は会議や裁判での発言をそのまま記録する。議事録ではなく、そのままを。また記録するにあたりこのような呼び出しの場合には経緯もそこには追記されることとなっていた。

サフィールはアルフレドが婚約者であるエミーリアとの親睦を図る茶会で、エミーリアに知識不足があった為記録することとなり自分が呼ばれたという一文を先頭に書いた上で二人の間で交わされた内容を常に持ち歩いている専用用紙に全て記入した。

「全て記入いたしました。こちらに目を通し間違いがなければ下の欄にご署名をお願いいたします」
「待て、これから話すことも記録して欲しい」
「畏まりました」
「王子妃教育を長年に渡り受けたはずのエミーリアにわたしは婚約者としての素質が本当にあるのか疑いを持ってしまったと追記するように」
「殿下、本当に申し訳ございません。わたくしではアナベラ様のように殿下のお力にはなれないのかも知れません」
「そうだな。わたしを補佐することが出来なければ、おまえには何の価値もない。おまえがわたしの正妃になるのは、身分と早くからその為の教育を受けたということだけなのに。わたしを真実の愛で癒すアナベラは健気にも、数年待った上での側妃という身分を泣く泣く承諾した。辛いだろうに、わたしのことを思い承諾したのだ。しかし、おまえは身分の上に胡座をかき、こうして茶会だのと権利だけを主張する」

サフィールの手が止まる。そして、視線がエミーリアに送られ本当に記録していいのか問いかけた。
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