37 / 39
【五】君が香
・
しおりを挟む
すみが帰り、夕餉を済ませた後、吉夜は香代を寝所へといざなった。
部屋に入った瞬間、鼻をくすぐる優しい香りに香代は足を止める。
吉夜はその表情を楽しむように香代を見ていた。
「……どうして」
香木はすべて燃えてしまったのではないのか。香代は吉夜を見つめる。
吉夜は肩をすくめた。
「俺も養父上も、入りきらない分を陣屋に置いていたらしくてな……それぞれ持ち帰ってみれば、それなりの量があったみてェだ」
もちろん、殿の要望に合わせて焚けるよう、小分けにして持って行っていたものもあるという。
中には、倹約家だった妻に気づかれないよう、主膳がこっそり隠していたものもあるだろうと吉夜は笑った。
血が繋がっていないわりに、やることの似ている養父子だ。香代は思わず笑ってしまった。
「……それで、お香代」
吉夜は戸を閉め、香代に近づいた。
甘やかで優しい香りがいっそう強くなったように思える。
吉夜の手が、香代の頬に触れた。
「この香は……何のときに焚いていた香だと思う?」
答えはもちろん分かったが、口にするのはためらわれて、軽くうつむいた。
言葉の代わりに、吉夜を見上げる。
吉夜が喉を鳴らして笑った。ゆっくりと、整った顔が香代に近づいてくる。
「……いいか?」
香代がこくりとうなずくと、吉夜の唇が重なった。
口づけは、角度を変えながら段々と深くなる。柔らかく香代を包む吉夜の唇から漏れる吐息に、香代は酔いしれた。
(わたしを……求めてくださってる)
喜びに、身体が震える。求めているのは吉夜だけでない、香代もだ。
余裕なく、互いの温もりを求めている。
吉夜に腰を抱かれて、寝具に横たわった。
香代、と名を呼ばれて、はい、と小さく答える。
吉夜が切なげな目で香代を見下ろす。再び唇が重なり、濃密な空気に包まれた。
香代は夫の唇の温もりを感じながら目を閉じた。
(……もう、怖くない)
自分よりも大きく、力の強い人が、自分を組み敷いている。
それでも、もう怖いとは感じなかった。
それは、自分を襲った人間――兵吾がいなくなったから、というわけではないだろう。
(吉夜さま、だからだ)
何をされてもいい、と思える。
香代が嫌がることはしない、と信じていられる。
だから、目をつぶった先にあるのが暗闇だとしても、もう、怖くはない。
「吉夜さま……」
「香代……」
唾液に濡れた唇で呼べば、切なげな夫の声が応えた。
吉夜に名を呼ばれるだけで、香代の身体はうずく。
首筋から胸元へ、吉夜の唇が降りていく。夫の手が香代の帯を解き、前をくつろげた。
ふっ、と、吉夜が笑った。
「……なんだ」
吉夜が見下ろす香代の胸元には、一度失くしかけたお守りがある。
「どうなってンのかと思ったら、首からかけてたのか」
「……もう、失くしたくないので」
吉夜はくすりと笑ったが、いつも以上に機嫌がよさそうだ。
吉夜はお守りの上から、香代の胸に頬を寄せる。
軽く肌に口づけると、香代の両手に自分の手を絡め、唇で胸の突起を食んだ。
「あっ……」
「あまり、声を出すなよ」
吉夜はまた、機嫌よさそうに喉を鳴らす。
「今は養父上も母屋にいるからな……聞かれるかも知れん」
香代は慌てて、手で口を押さえた。吉夜がくつくつと喉を鳴らす。
(その笑い声……)
まるで猫が喉を鳴らしているような声が、香代の胸をくすぐり、下腹の奥をうずかせる。
吉夜は喉の奥で笑いながら、身体に口づけては、舌を這わせていく。
「はぁ……」
口から漏れた吐息が、満足げに聞こえて恥ずかしくなった。
(……蕩けてしまいそう……)
香代は吐息の漏れる口を手で覆い、夫が与える快楽に浸る。
まだ一度しか繋がったことのないそこも、すでに吉夜を求めて潤んでいるのが自分でも分かった。
吉夜の吐息が肌にかかるたび、香代は震えて声を抑える。
奥のうずきがせつなく、知らないうちに膝をすりあわせていた。
「吉夜……さま……」
「ん……?」
吐息のような優しい返事には、日頃ない甘い色香が混ざっている。
この声を聞けるのは自分だけなのだと思うと、香代はぞくぞくするほどの喜びを感じた。
香代の腰が震えたのに気づいて、吉夜が嬉しそうに笑う。
薄い下腹を撫でて口づけ、指はそのまま股の間へと降りた。
「ぁっ」
「こら……膝を開け」
気恥ずかしさについ膝に力を込めたが、吉夜にももを撫でられて力を緩めた。
吉夜の手が割れ目を撫でる。
小さな水音が立って、香代は恥ずかしさのあまり顔を覆った。
「濡れてるな」
吉夜は嬉しそうに喉を鳴らした。香代の顔から手を引き剥がし、じっと目を覗き込む。
「もしかして……この日を待ってたのァ、俺だけじゃなかったか」
香代はいたずらっぽく笑う夫を恨めしげに見やってから、両手をその首へと伸ばした。
吉夜は大人しく香代の腕におさまり、顔を寄せる。
香代はためらってから、夫の唇に自分のそれを重ねた。ちゅ、と小さな音を立て、唇が離れる。
おずおずと、優しいその目を覗き込んだ。
「……わたしも、吉夜さまに触ってもいいですか?」
一度だけ繋がったあの夜は、吉夜にすべてを任せていたから、吉夜の肌に触れた記憶はほとんど残らなかった。
吉夜と離れている間、そのことが寂しくてたまらなかったのだ。
もっと、夫の身体に触れたい――目を閉じていても、夢の中でも、その輪郭を思い出せるように。
吉夜は少し驚いたような顔をしたが、笑ってこくりとうなずいた。
香代が襟元から手を差し入れると、吉夜は少し身体を起こし、帯を解いて肩から夜着を落とした。
行燈の灯りに照らされた吉夜の身体には、香代のそれと違う陰影が降りている。
首の付け根にくっきりと浮き出た鎖骨。胸の中心に流れる筋を辿れば、縦横に筋の入った腹にたどり着く。それを横から挟むように、腰からゆるやかな丘が流れていた。
女とは違う身体の美しさと色気に、香代はうろたえた。
「……触るんじゃねェのか?」
笑いを含んだ吉夜の声に、我に返ってうなずいた。
自分の鼓動をうるさく思いながら、震える指先で吉夜の肌に触れる。
日頃、鍛錬しているのを見たことはないが、吉夜の身体はどこも引き締まっていた。
香代は控えめに指を這わせて、吉夜の身体の凹凸を辿っていく。
香代の指先が触れるたび、吉夜がぴくりと震えた。
自分が触れられているわけでもないのに、香代の身体のうずきが増す。
香代が唾を飲むと、ごくんと大きな音がした。
「……っ……」
香代が腰に指を走らせたとき、吉夜はなにかに堪えるように息を詰めた。
くすぐったいのだろうか。手を止めると、吉夜は苦笑する。
「……もう、いいのか?」
苦しげな息づかいが、一層吉夜を艶めかせている。
「いえ、あの……」
ためらう香代の手首を、吉夜が掴んで布団に縫い付けた。
「本当にお前さんは……男を煽るのが上手いな」
吉夜が苦笑いしている。そんなつもりはなかったと言おうとした口は、吉夜のそれに塞がれた。
唇を離すと、吉夜は香代の手を引き寄せる。
「今度は……俺の番だ」
囁いて、香代の指を唇に咥える。香代はとたん、ぞくりと背中に走った甘いしびれに声を押さえた。
吉夜に抱き寄せられた腰に、堅い何かが当たる。香代は思わず腰を引いたが、吉夜は許してくれない。
「……悪いな……久しぶりだからゆっくり……と、思ってたんだが」
吉夜は苦しげに言って、下帯を解いた。
そこから、男の昂りが現れる。
嫌悪していたはずのそれすら、吉夜のものは美しく思えた。
香代のぬかるみに熱を押し当て、吉夜は香代の頬を撫でた。
「……挿れるぞ」
香代がこくりとうなずくと、吉夜はゆっくりと腰を進める。
香代のうずきの中心を、吉夜の熱が埋めていく。少しずつ、少しずつ、内壁を吉夜のものに撫でられて、腰から這い上がってくる甘い痺れに、声をあげそうになって手で口を押さえた。
慣らしていない中は狭いようだった。吉夜は苦しげに顔を歪めながらも、「痛くないか」と香代の頬を撫でる。
香代はこくこくとうなずきながら、声を出さないよう、吉夜の首にしがみついた。
「……声が出そうなら、俺の肩を噛んでいろ」
「そんなこと――ぁっ!」
ぐぐっ、と吉夜が腰を進めて、香代はあやうく本当に吉夜の肩を噛みそうになった。
涙目で睨んだ香代を、吉夜はくつくつと笑う。
「閨で女に噛まれた痕は、男の誉れだ。……気にするな」
耳元で甘く囁いた唇が、香代の耳を舐めしゃぶる。
その間も、吉夜の熱杭は容赦なく香代の中へと押し入ってくる。
最後まで繋がったところで、吉夜は満足げな吐息をついた。
「……ようやく……」
香代の頬に唇を寄せ、吉夜は切ない声でひとりごちる。
「ようやく、ゆっくり愛せる……。一度抱いてから、次はいつ抱けるかと……そればかりを考えてた」
吉夜はちらと香代を見た。「呆れたか」と問われて、香代は首を横に振った。
「それは……わたしもです」
香代は吉夜の頬を両手で包み、微笑んだ。
「……次はいつ、抱いていただけるかと……吉夜さまの香りを嗅ぐたび、そわそわしておりました」
吉夜が香代の目を見つめ、ふっと笑う。
腰を押しつけられ、深いところを突かれる。香代は慌てて手を口に当てた。
その手をどけて、吉夜は香代に口づける。
ゆっくりと始まった律動に、二人の繋がりから水音が漏れた。
「……香代」
吉夜は律動の合間に、恍惚とした声で香代を呼んだ。
「……吉夜さま」
香代も同じく答えながら、その身体にしがみつく。
香代が揺すぶられるたび、首に下げたお守りが身体の上で踊った。
二人の繋がりは一度目よりも深く、強く、熱く、心地いい。
「っ、はっ、っ、ん、ふっ……!」
「はぁ、香、代っ、っく、ぅっ……!」
互いの荒い息づかいの中、いっそう深く繋がり合う。
すべてが吉夜で満たされていくのを感じながら、香代はたかぶりへ達した。
部屋に入った瞬間、鼻をくすぐる優しい香りに香代は足を止める。
吉夜はその表情を楽しむように香代を見ていた。
「……どうして」
香木はすべて燃えてしまったのではないのか。香代は吉夜を見つめる。
吉夜は肩をすくめた。
「俺も養父上も、入りきらない分を陣屋に置いていたらしくてな……それぞれ持ち帰ってみれば、それなりの量があったみてェだ」
もちろん、殿の要望に合わせて焚けるよう、小分けにして持って行っていたものもあるという。
中には、倹約家だった妻に気づかれないよう、主膳がこっそり隠していたものもあるだろうと吉夜は笑った。
血が繋がっていないわりに、やることの似ている養父子だ。香代は思わず笑ってしまった。
「……それで、お香代」
吉夜は戸を閉め、香代に近づいた。
甘やかで優しい香りがいっそう強くなったように思える。
吉夜の手が、香代の頬に触れた。
「この香は……何のときに焚いていた香だと思う?」
答えはもちろん分かったが、口にするのはためらわれて、軽くうつむいた。
言葉の代わりに、吉夜を見上げる。
吉夜が喉を鳴らして笑った。ゆっくりと、整った顔が香代に近づいてくる。
「……いいか?」
香代がこくりとうなずくと、吉夜の唇が重なった。
口づけは、角度を変えながら段々と深くなる。柔らかく香代を包む吉夜の唇から漏れる吐息に、香代は酔いしれた。
(わたしを……求めてくださってる)
喜びに、身体が震える。求めているのは吉夜だけでない、香代もだ。
余裕なく、互いの温もりを求めている。
吉夜に腰を抱かれて、寝具に横たわった。
香代、と名を呼ばれて、はい、と小さく答える。
吉夜が切なげな目で香代を見下ろす。再び唇が重なり、濃密な空気に包まれた。
香代は夫の唇の温もりを感じながら目を閉じた。
(……もう、怖くない)
自分よりも大きく、力の強い人が、自分を組み敷いている。
それでも、もう怖いとは感じなかった。
それは、自分を襲った人間――兵吾がいなくなったから、というわけではないだろう。
(吉夜さま、だからだ)
何をされてもいい、と思える。
香代が嫌がることはしない、と信じていられる。
だから、目をつぶった先にあるのが暗闇だとしても、もう、怖くはない。
「吉夜さま……」
「香代……」
唾液に濡れた唇で呼べば、切なげな夫の声が応えた。
吉夜に名を呼ばれるだけで、香代の身体はうずく。
首筋から胸元へ、吉夜の唇が降りていく。夫の手が香代の帯を解き、前をくつろげた。
ふっ、と、吉夜が笑った。
「……なんだ」
吉夜が見下ろす香代の胸元には、一度失くしかけたお守りがある。
「どうなってンのかと思ったら、首からかけてたのか」
「……もう、失くしたくないので」
吉夜はくすりと笑ったが、いつも以上に機嫌がよさそうだ。
吉夜はお守りの上から、香代の胸に頬を寄せる。
軽く肌に口づけると、香代の両手に自分の手を絡め、唇で胸の突起を食んだ。
「あっ……」
「あまり、声を出すなよ」
吉夜はまた、機嫌よさそうに喉を鳴らす。
「今は養父上も母屋にいるからな……聞かれるかも知れん」
香代は慌てて、手で口を押さえた。吉夜がくつくつと喉を鳴らす。
(その笑い声……)
まるで猫が喉を鳴らしているような声が、香代の胸をくすぐり、下腹の奥をうずかせる。
吉夜は喉の奥で笑いながら、身体に口づけては、舌を這わせていく。
「はぁ……」
口から漏れた吐息が、満足げに聞こえて恥ずかしくなった。
(……蕩けてしまいそう……)
香代は吐息の漏れる口を手で覆い、夫が与える快楽に浸る。
まだ一度しか繋がったことのないそこも、すでに吉夜を求めて潤んでいるのが自分でも分かった。
吉夜の吐息が肌にかかるたび、香代は震えて声を抑える。
奥のうずきがせつなく、知らないうちに膝をすりあわせていた。
「吉夜……さま……」
「ん……?」
吐息のような優しい返事には、日頃ない甘い色香が混ざっている。
この声を聞けるのは自分だけなのだと思うと、香代はぞくぞくするほどの喜びを感じた。
香代の腰が震えたのに気づいて、吉夜が嬉しそうに笑う。
薄い下腹を撫でて口づけ、指はそのまま股の間へと降りた。
「ぁっ」
「こら……膝を開け」
気恥ずかしさについ膝に力を込めたが、吉夜にももを撫でられて力を緩めた。
吉夜の手が割れ目を撫でる。
小さな水音が立って、香代は恥ずかしさのあまり顔を覆った。
「濡れてるな」
吉夜は嬉しそうに喉を鳴らした。香代の顔から手を引き剥がし、じっと目を覗き込む。
「もしかして……この日を待ってたのァ、俺だけじゃなかったか」
香代はいたずらっぽく笑う夫を恨めしげに見やってから、両手をその首へと伸ばした。
吉夜は大人しく香代の腕におさまり、顔を寄せる。
香代はためらってから、夫の唇に自分のそれを重ねた。ちゅ、と小さな音を立て、唇が離れる。
おずおずと、優しいその目を覗き込んだ。
「……わたしも、吉夜さまに触ってもいいですか?」
一度だけ繋がったあの夜は、吉夜にすべてを任せていたから、吉夜の肌に触れた記憶はほとんど残らなかった。
吉夜と離れている間、そのことが寂しくてたまらなかったのだ。
もっと、夫の身体に触れたい――目を閉じていても、夢の中でも、その輪郭を思い出せるように。
吉夜は少し驚いたような顔をしたが、笑ってこくりとうなずいた。
香代が襟元から手を差し入れると、吉夜は少し身体を起こし、帯を解いて肩から夜着を落とした。
行燈の灯りに照らされた吉夜の身体には、香代のそれと違う陰影が降りている。
首の付け根にくっきりと浮き出た鎖骨。胸の中心に流れる筋を辿れば、縦横に筋の入った腹にたどり着く。それを横から挟むように、腰からゆるやかな丘が流れていた。
女とは違う身体の美しさと色気に、香代はうろたえた。
「……触るんじゃねェのか?」
笑いを含んだ吉夜の声に、我に返ってうなずいた。
自分の鼓動をうるさく思いながら、震える指先で吉夜の肌に触れる。
日頃、鍛錬しているのを見たことはないが、吉夜の身体はどこも引き締まっていた。
香代は控えめに指を這わせて、吉夜の身体の凹凸を辿っていく。
香代の指先が触れるたび、吉夜がぴくりと震えた。
自分が触れられているわけでもないのに、香代の身体のうずきが増す。
香代が唾を飲むと、ごくんと大きな音がした。
「……っ……」
香代が腰に指を走らせたとき、吉夜はなにかに堪えるように息を詰めた。
くすぐったいのだろうか。手を止めると、吉夜は苦笑する。
「……もう、いいのか?」
苦しげな息づかいが、一層吉夜を艶めかせている。
「いえ、あの……」
ためらう香代の手首を、吉夜が掴んで布団に縫い付けた。
「本当にお前さんは……男を煽るのが上手いな」
吉夜が苦笑いしている。そんなつもりはなかったと言おうとした口は、吉夜のそれに塞がれた。
唇を離すと、吉夜は香代の手を引き寄せる。
「今度は……俺の番だ」
囁いて、香代の指を唇に咥える。香代はとたん、ぞくりと背中に走った甘いしびれに声を押さえた。
吉夜に抱き寄せられた腰に、堅い何かが当たる。香代は思わず腰を引いたが、吉夜は許してくれない。
「……悪いな……久しぶりだからゆっくり……と、思ってたんだが」
吉夜は苦しげに言って、下帯を解いた。
そこから、男の昂りが現れる。
嫌悪していたはずのそれすら、吉夜のものは美しく思えた。
香代のぬかるみに熱を押し当て、吉夜は香代の頬を撫でた。
「……挿れるぞ」
香代がこくりとうなずくと、吉夜はゆっくりと腰を進める。
香代のうずきの中心を、吉夜の熱が埋めていく。少しずつ、少しずつ、内壁を吉夜のものに撫でられて、腰から這い上がってくる甘い痺れに、声をあげそうになって手で口を押さえた。
慣らしていない中は狭いようだった。吉夜は苦しげに顔を歪めながらも、「痛くないか」と香代の頬を撫でる。
香代はこくこくとうなずきながら、声を出さないよう、吉夜の首にしがみついた。
「……声が出そうなら、俺の肩を噛んでいろ」
「そんなこと――ぁっ!」
ぐぐっ、と吉夜が腰を進めて、香代はあやうく本当に吉夜の肩を噛みそうになった。
涙目で睨んだ香代を、吉夜はくつくつと笑う。
「閨で女に噛まれた痕は、男の誉れだ。……気にするな」
耳元で甘く囁いた唇が、香代の耳を舐めしゃぶる。
その間も、吉夜の熱杭は容赦なく香代の中へと押し入ってくる。
最後まで繋がったところで、吉夜は満足げな吐息をついた。
「……ようやく……」
香代の頬に唇を寄せ、吉夜は切ない声でひとりごちる。
「ようやく、ゆっくり愛せる……。一度抱いてから、次はいつ抱けるかと……そればかりを考えてた」
吉夜はちらと香代を見た。「呆れたか」と問われて、香代は首を横に振った。
「それは……わたしもです」
香代は吉夜の頬を両手で包み、微笑んだ。
「……次はいつ、抱いていただけるかと……吉夜さまの香りを嗅ぐたび、そわそわしておりました」
吉夜が香代の目を見つめ、ふっと笑う。
腰を押しつけられ、深いところを突かれる。香代は慌てて手を口に当てた。
その手をどけて、吉夜は香代に口づける。
ゆっくりと始まった律動に、二人の繋がりから水音が漏れた。
「……香代」
吉夜は律動の合間に、恍惚とした声で香代を呼んだ。
「……吉夜さま」
香代も同じく答えながら、その身体にしがみつく。
香代が揺すぶられるたび、首に下げたお守りが身体の上で踊った。
二人の繋がりは一度目よりも深く、強く、熱く、心地いい。
「っ、はっ、っ、ん、ふっ……!」
「はぁ、香、代っ、っく、ぅっ……!」
互いの荒い息づかいの中、いっそう深く繋がり合う。
すべてが吉夜で満たされていくのを感じながら、香代はたかぶりへ達した。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる