【完結】だるま村へ

長透汐生

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第15話 オスソワケ

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 マルタは荒い息が落ち着いてくると、空が明るくなっているのに気が付きました。

「もう朝か。地下に閉じ込められたままにならなくて良かった」

「出口がふさがってしまうなんて、初めてのことや。だるまがいなかったら、ほんまに危ない所やった。ありがとうね」

「どういたしまして。これからどっちへ行くの?」

「次は川へ向かうで」

「道は分かるのか?」

「問題ない。予定とは少しズレた場所に出たけど、ここはぼくの庭みたいなもんやからね」

 そう言うと、トトはしっぽを振って合図をして、生け垣の陰から建物と建物の間に滑り込みました。そのままビルとビルの間を抜けると土手にぶつかります。上るとそこには巨大な川が横切っていました。

「こんなでけぇ川見たことないぜ」

「そやろ? ナニワの国には川が多いから水の都と言われてるんよ」

 トトたちはこんもりと緑が生い茂っている場所へ隠れました。

「ここで夜になるまで待とう」

「んじゃ、狩りに行ってくるかな」

「この河川敷は人間の公園になっているから、あまり動き回らないほうがええで」

 そう言うと、トトはお腹に巻いてある紐を緩めて、背中の荷物をドスンと降ろしました。そして近くにあった平らな岩の上にきれいな葉をちぎってきて並べます。

「何してんだ?」とマルタが聞くと、トトは前足を荷物の中に入れて、木の実と干した果物を取り出して、葉の上に並べてから言いました。

「これお弁当。まだ余分にあるから、お二人に分けてあげる」

「おぉ、助かるぜ」

 そこで三人は葉っぱを囲んで食事をとることにしました。

「この果物とても甘いね」

「うん。果物や野菜は干して水分を抜くとぐっと旨味が増すんよ」

「お前はまだ大人になりきってないんじゃないか。それなのに本当に物知りだよな」

「ぼくらは子イタチの頃に親離れをして、すぐに、自分だけの商売を持つねん。商売を始めたら、もう立派な成イタチとして扱われる。イタチ同士の繋がりはあるけど、基本は一匹や。だからたくさんの物事を知っていないと生きていかれへんのよ」

「厳しい世界だね」

「厳しい時もあるけど、気ままに暮らせるこの道がぼくには合ってるみたい。いつかコウベ一のボウエキをする事がぼくの夢やねん」

「でっかい夢だな。なぁ、おれはガキの頃に森でイタチをよく見たが、お前みたいにボウエキしているやつは見たことがなかったぞ。ここらのイタチはみんなボウエキしてるのか?」

「ぼくらの祖先は元々ツシマっていう土地で暮らしていたみたい。でも人間に捕まって、コウベに連れてこられた時に、一部のご先祖が逃げてん。貿易を始めてみたら一族がとても栄えたので、コウベがイタチで溢れてな。それで、元から住んでいたイタチと話し合いをして、体が大きくて力の強いツシマの一族が、食べ物がたくさんあるけど危険も多い人里で貿易を続けて、前から住んでたイタチは安全な山に住むようになったらしい」

 そう言ってから、トトはマルタを見て尋ねました。

「マルタも町や人間を見慣れてるみたいやんな?」

「おれは人間に飼われていたからな。犬族は人間に近い動物だが、お前のご先祖も人間に関わりのある種族だったんだな」

「人間に関わって生きている動物は意外と多い。そういえば、だるまにも種族があるの?」

「ぼくは他のだるまに会ったことはないよ」

「お前は人間が作った物で、人間以外の動物とも喋れる。なのに、どうして人間はおれらの言葉が分からないんだろうな?」

「確かに。どうしてだろう」

「人間は珍しい種族やんね。頭でしゃべるようになったから、体全体で話せなくなってしまったんや。人間はね、一つの物差しで賢さを測って、頭を使う種族が賢いと思ってるんよな。賢さって本当は色んな種類があって、簡単に比べられるものじゃないのに。でも、人間に馬鹿だと思われていることは都合がいいわけ。他の生き物には何もできないと思い込んでるからな」

 三人のいる茂みに風が吹き抜けました。少し肌寒く感じます。

「暗くなるまでの間、ここで休も」

 トトと、マルタと、だるまは体を寄せ合って、安心して眠りました。

 マルタが目を覚ますと辺りは暗くなっており、だるまが大きな紙を広げたところに指を指して、トトと話をしていました。

「おう、それ何だ?」

「地図やで。チサトヤマまでの道のりを説明してたんよ。最後のデンシャがさっき橋を渡っていったから、橋の上はもう安全や。そろそろ行くで」

「おう」
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