12 / 20
第2章 学院編
第12話 赤く染まった草花
しおりを挟む
『ここは──』
懐かしい、と感じたのはここに来たのが初めてではないからだろう。
風に乗って運ばれる花々のいい匂いが、彼の嗅覚を刺激する。
体を起こすと、そこに見えるのは十歳ほどの男女の姿。
おそらく両親だろう。前回よりも大分成長しており、面影が残っている。
だが、父の顔に余裕はなかった。
『イェルク! ダメ!』
イェルクとは父の名だ。
驚くことに、父は腰に付いていた短剣を自分の腹に向けて刺そうとしていた。
母がその手を必死に抑えていたが、男女の力量の差は明白。
段々と短剣が父の体にめり込んでいき、傷口からはドロドロと流血している。
『こんな授能じゃ……英雄になんてなれっこない……!』
父の目は血走っていた。正気の沙汰ではない。
やがて父は意識を失い、バタンと倒れた。
『イェルク! イェルク、しっかりして!』
止まらずに溢れ出る血は当たりの草花を赤く染めていく。
見るも無惨な父の姿に、ルイスの顔が引き攣っていった。
『神様……! どうか、どうかイェルクを助けて……!』
少女は閉じた瞼からボトボトと大粒の涙を零し、懇願するように手を組んだ。
刹那、少年の体を覆うように幾何学模様の陣が浮かび上がる。
それが眩い光を発したかと思うと、いつのまにか少年の傷は完全に癒えていた。
それから少しすると父は目を覚まし……
「──ス! ──イス! ルイス!」
「──!」
「大丈夫かしら? 魘されている様子だったけれど」
目を開くと、ドアップで目に映るカーネルの顔。
彼女は起きたことに気付いて顔を離した。
「あ、あぁ。心配しないでくれ。大丈夫だ」
「そう。晩御飯の用意が出来ているわ。冷めないうちに食堂に来なさいね」
そう言いおくと、部屋から出て行ってしまった。
ルイスは落ち着くために深呼吸をする。
夢の中での光景が頭から離れず、少し気分が悪い。
いつまでここにいても仕方がないので、取り敢えず食事を摂ることにした。
ルイス達の部屋は二階で、食堂は一階にある。
階段を降りた先に冒険者らしき人達によって盛り上がっている食堂が見えた。
中を見渡してカーネルの場所を探すと、端の方にチョコンと座ってスープを飲んでいる彼女の姿を発見した。
ルイスも席に着いて、テーブルに並べられていた料理を食べ始めるのであった。
迎えた次の日。
朝起きた時には暗い気持ちもかなり取れていた。
今日は、学院の申し込みも兼ねて王都内を散策する予定だ。
朝御飯として出てきたサクサクフワフワのパンを堪能すると、準備を済ませて二人で宿を出た。
「俺達が受ける予定の学院ってどんなとこなんだ?」
カーネルは「そうね……」と考える仕草をしてから、こう答えた。
「端的に言えばこの国随一の学院で、完全な実力主義だと聞いているわ。魔術師も剣士も召喚士も一様に受験資格があって、最近はあまり無くなってきたけれど亜人種の差別で受験できないとかもないそうよ」
「へぇ、一体どういう試験内容なんだろうな」
「それは私も知らないわ」
と、そこでルイスが何かを見つけた。
「あそこの店に入ってみようぜ」
扉を開けると、ツンと鼻を刺す独特の香りがした。
中はそこまで広くなく、興味深い道具が置き並べられていた。
懐かしい、と感じたのはここに来たのが初めてではないからだろう。
風に乗って運ばれる花々のいい匂いが、彼の嗅覚を刺激する。
体を起こすと、そこに見えるのは十歳ほどの男女の姿。
おそらく両親だろう。前回よりも大分成長しており、面影が残っている。
だが、父の顔に余裕はなかった。
『イェルク! ダメ!』
イェルクとは父の名だ。
驚くことに、父は腰に付いていた短剣を自分の腹に向けて刺そうとしていた。
母がその手を必死に抑えていたが、男女の力量の差は明白。
段々と短剣が父の体にめり込んでいき、傷口からはドロドロと流血している。
『こんな授能じゃ……英雄になんてなれっこない……!』
父の目は血走っていた。正気の沙汰ではない。
やがて父は意識を失い、バタンと倒れた。
『イェルク! イェルク、しっかりして!』
止まらずに溢れ出る血は当たりの草花を赤く染めていく。
見るも無惨な父の姿に、ルイスの顔が引き攣っていった。
『神様……! どうか、どうかイェルクを助けて……!』
少女は閉じた瞼からボトボトと大粒の涙を零し、懇願するように手を組んだ。
刹那、少年の体を覆うように幾何学模様の陣が浮かび上がる。
それが眩い光を発したかと思うと、いつのまにか少年の傷は完全に癒えていた。
それから少しすると父は目を覚まし……
「──ス! ──イス! ルイス!」
「──!」
「大丈夫かしら? 魘されている様子だったけれど」
目を開くと、ドアップで目に映るカーネルの顔。
彼女は起きたことに気付いて顔を離した。
「あ、あぁ。心配しないでくれ。大丈夫だ」
「そう。晩御飯の用意が出来ているわ。冷めないうちに食堂に来なさいね」
そう言いおくと、部屋から出て行ってしまった。
ルイスは落ち着くために深呼吸をする。
夢の中での光景が頭から離れず、少し気分が悪い。
いつまでここにいても仕方がないので、取り敢えず食事を摂ることにした。
ルイス達の部屋は二階で、食堂は一階にある。
階段を降りた先に冒険者らしき人達によって盛り上がっている食堂が見えた。
中を見渡してカーネルの場所を探すと、端の方にチョコンと座ってスープを飲んでいる彼女の姿を発見した。
ルイスも席に着いて、テーブルに並べられていた料理を食べ始めるのであった。
迎えた次の日。
朝起きた時には暗い気持ちもかなり取れていた。
今日は、学院の申し込みも兼ねて王都内を散策する予定だ。
朝御飯として出てきたサクサクフワフワのパンを堪能すると、準備を済ませて二人で宿を出た。
「俺達が受ける予定の学院ってどんなとこなんだ?」
カーネルは「そうね……」と考える仕草をしてから、こう答えた。
「端的に言えばこの国随一の学院で、完全な実力主義だと聞いているわ。魔術師も剣士も召喚士も一様に受験資格があって、最近はあまり無くなってきたけれど亜人種の差別で受験できないとかもないそうよ」
「へぇ、一体どういう試験内容なんだろうな」
「それは私も知らないわ」
と、そこでルイスが何かを見つけた。
「あそこの店に入ってみようぜ」
扉を開けると、ツンと鼻を刺す独特の香りがした。
中はそこまで広くなく、興味深い道具が置き並べられていた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転移王子の異世界漫遊(旧:貴族じゃないので)
シュガーコクーン
ファンタジー
異世界から異世界に転移した王子が冒険者になってその世界を楽しむ話。
チートは本人はない。作者の性癖を詰め込みます。危機は訪れるかも知れないけれどそこまでではない、はず。性癖を詰め込むつもりでいるので。主人公は不憫過ぎる目には遭いません。断言します。登場人物は男がメインです。BL要素(友愛だけどそれっぽいからみ多々)はあります。苦手な方はそっと閉じてください。どうだろうという方はそっと覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる